第2話 常磐道にて
1984/8/x
こりゃ、買うっきゃねぇかな。
んでも、82.5万は高い。
ちょっと、おいそれと買える値段じゃない。
(因みに、当時、タクシーの初乗り\430。缶コーラ\80。750ccバイクは50~60万
当時はそれに、自賠責保険も高く、確か\60000くらいだった。)
「ちょっと、乗っけてよ」
「いいよ、だけど壊すなよ。」
「わーってるって!」
PAの紙コップのコーヒーを飲みながら。
どうしてか、こんななんでもないひとときが楽しい。
頭の中に、まだ4into1の排気音が響いてる。
このYは、医者のバカ息子で、ドラ息子ぶりを発揮して
浪人の分際でRZVを買うというとんでもない奴。
でも、いい奴。
Y家は一家そろってRZVを3台注文したというモーター・マニア。
車もポルシェやら240Zやら。
まあ、あきれる。(笑)
んでも、こいつのおかげでポルシェやらフェラーリやらにも乗れたしな。
(こいつの友達にやっぱり似たような悪童がいて...というわけ。
それにしても12気筒フェラーリの音は良かった。)
・
・
・
深夜のパーキング。
淡い照明の下のRZVは、なんとなく危険な匂いがするようだ。
奴からRZVのキーを受け取り、俺はCBXのキーを渡す。
で、RZVに跨ってみた。
イグニッション・キーを交換し、俺はRZVにまたがった。
小さくまとまっていて、ハンドルも低い。
RZ250Rなんかよりも小さいみたいだ。(事実、ホイールベースなどは短い。)
キーを入れる。
キーをひねると、YPVSのモーター音。
このあたりは、RZ250Rと変わらない。
....キックがねぇぞ...。
あ、こりゃ、カウルの中に隠れてやがる。
キック・シャフト円周方向に引き出す。
うーん、凝ってるな。
アルミ無垢のキックペダルが鈍く光り、ムード満点。
で、引っ張り出してキックする。意外に、重い。
やっぱ、ギア連結だからかな。
ヴァラヴァラヴァラ...とあっさり始動。
RZ250が二台、という感じ。
まあ、同爆だし。
固めのギアを1速に入れてクラッチをつなぐ。
すごーくギアが高い。普通のバイクの2速くらいの感じ。
半クラ使ってスタート。パーキングの中で、スロットルをゆっくりと開く。
低速はすっからかんなのは2ストらしい。
RZ250よりは速いかな。
そんで、パワーが出るのは6000rpmあたり。
こりゃまた、ずいぶんと思い切りのいい設計だな。
これじゃ、町中じゃほとんどつかえねぇ。
んで、ちょっとカーブきってみた。
16インチのくせに重ったるい。
突っ込みは軽快だが、前輪から曲がろうとはしない。
HONDAのVTあたりとは、ぜんぜん違う。
バンクさせるのも、やや重い。
取り回しが軽いのに。
多分、低重心だから、思い切ったハング・オンとかしないと曲がらないだろう。
良く、峠仲間がアンコヌキシートとかやると「曲がんない」
といってるからあれと同じだろ。
俺は、定常円旋回しながら、そう思った。
奴の目の前に止める。
ブレーキングも、姿勢変化が少なくて、いい感じ(しかし、それ故にコーナーリング
のきっかけにはしにくいのだが、この時は、そんなことまで頭が回らなかった。)
「いい感じだな、これ。」
「そうだろ、こりゃ、やっぱGPレプリカだよな、んじゃ、行ってみるか。」
Yはそう言い、俺のCBXにまたがった。
モリワキ集合が、いい音のアイドリング。
Yの後ろについて、本線へのアプローチを加速する。
ヴォーッ....と。なんとなく回ってゆく。でも、スピードが乗る。
この感じは、いつか乗せてもらったCBX1000にちょっと似ている。
途中から全開にすると、音が変わって、フロント・アップ。
パワー・ゾーンに入ったらしい。
こりゃ~、とんでもない化け物だわ。(嬉。)
Yを追い越して、更に加速。
2速、3速......。
回し切った時の音は、やっぱりGPマシンっぽい。
4速を終わる頃にはフル・スケール。
...凄ぇ。
ちゃんと、真っ直ぐ走るし、不安定じゃない。
ただ、スピードが乗るとコーナーが切りにくい。
CBXみたいに、軽快なレーンチェンジは無理だ。
それに細かい振動がものすごい。50度っていう半端な配置のせいか。
それにしても、面白いバイク。
こりゃ、ますます欲しくなってきた。...
シフト・ダウンでアクセルあおる時の音なんか、まんまYZR500だ。
我に返ると、俺のCBXのデュアル・ヘッドライトがバックミラーの点になっていた。
インターへの出口に、ちょっとつっこんでみた。
ブレーキング、遅らせて。
腰、左にずらしてタイミング計る。
シフト・ダウン。アクセルあおる。
ヴォッ...!
ん~、いい音。(笑)
ブレーキレバー引きずって、バンク.....。
重い。
思ったより曲がんない。バンクさせてる割には向きが変わんない感じだ。
加速すりゃいいのかな?
スロットルをゆっくり開く。7000rpmくらいからパワーが乗るが、リアが回りこまない。
.....うーん、変な癖。
Yが言ってたのはこれのことか。
こりゃ、てこずりそうだな....。(<-もう、買う気になっている。)
インターの料金所の手前で止める。
4本のマフラーからオートルーブの匂いが、いい感じ。
Yが、追いついてきた。
「どうだ、RZV。」
「うん、いいな。これ。」
「お前も買えよ、ふたりで走ろうぜ。面白いだろ。」
「...そうだな....。」
...そのあと、こいつはこの手で友達数人にRZVを買わせた。(笑)
街道GP500でもやる気だったのか?
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