【KACPRO20212】行為:ID-U+1F3C3【第2回お題:走る】
なみかわ
行為:ID-U+1F3C3
僕たちは感染症や難病と訣別するかわりに、いくつかの行為、旧々世代では当たり前に行われていたさまざまなものを遂行することを手放した。
それから数万年も経てば、伝統芸能のように、その行為をきちんとできる者は死に絶え、伝承も
その結果、数度のルネサンスやデモクラシー(という形容のしかたも正しいかファクトチェックはなされていないが)を経て、人は皆、全宇宙ネットワークに常時接続された、ただの個体となった。
オブジェクト:ID-U+1F3E1はバージョンKAC20212、デイリービルドで少しずつ手入れした我が家。僕は今日も
高揚感か。U+1F37の嗜好物(旧分類飲料)だけでも十分なのにな、と笑うと、ペイターはまたどこかで拾い出してきたらしくそれのバージョンBのオブジェクトをよこしてきた。『はじめようぜ、それと…きょうは、走ってみるか』
すでに幾度のアーカイブを繰り返し、最小単位でもペタバイトのデータ。もはや再生デバイスも解読方法も失われた、大量の音楽アーカイブ。なんと2000年代の超ロービットのバイナリ解析でテラ単位にデコードしながら、さらにギガ単位にたたきのばし、僕らのデバイスで粉以下の
「これはおもしろい波形だな」「おいこれはかなりオリジナルに近いぜ」ひとつに圧縮された音、かつての人の顔の写真、超古代の文字が書かれた紙片データは、いにしえの人をどのように
もはや全宇宙ネットワークのポリスメンは、ネットワーク上で物理的な破壊ウイルスをまき散らす奴らーー単機能ボットーーを、ペイターの言葉を借りれば『もぐらたたき』、出てきたら排除し、出てきたら排除し、それだけのそれこそ単機能の働きしかしていない。そして旧世代から受け継がれた
そんな僕たちが次に目をつけているのは、『走る』という行為だ。
2000年代の記録では、これは動詞のカテゴリーにあった。どうやら僕たち人間はこの肉体をわざわざ稼働させて、当時住んでいた惑星の重力を利用しつつ、2点間を移動した、という。この記録も本当かどうか、ファクトチェックはすべてダークゾーン。でも西暦10000年より前のトリビアを好むペイターが、
最初は不安だった。『走る』なんてやれば、「一瞬で肉体が四散するんじゃないか?」とペイターに問いかけた。
「あのころはまだ、フォトンの
無料枠でアーカイブされた10000年代のマニアクスレコードはいくらでも読めるが、私的マイニングをするリソースが惜しく、ペイターの適当な話をとりあえずシナプスサーチに投げておいた。
「あれはカテゴリー:行為のなかでも、グリフィカルIDはU+1F3C3って話だ」
「へぇ」
なかなかマニアックなメッシュに格納されているそうで、ひさびさにペイターの自信ありげな音声エコーを聞いた。
マイ太陽系の空間にびっちり鳴らした音楽と、サイコーにレトロな走る、この体験はどんな
【KACPRO20212】行為:ID-U+1F3C3【第2回お題:走る】 なみかわ @mediakisslab
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