第8話 初恋ってば初めて

 たりんに影響されたのか、それとも元々育っていたものなのか、わからないまま時が流れる。こんな気持ち……。


 嬉しい様な悲しい様な恥ずかしい様なイライラする様な楽しい様な……もしかしたら、これが『せつない』?とか言うんじゃないのかな……?なんせ、こんな気持ちになったのは初めてだか……。


 は じ め て  !!


 そうだよ、初めてだ。

 ずっと遠くから見ていたい。でもって、近づきたい。話したい。もっと良くあの子の事を知りたい。

 ……でも、いざ、近くにいたら。

近くに来られたら。


 僕は走って逃げちゃいそうだよ!いや逃げる。ぜっったい逃げる!

 むじゅん? て言うのかな? あこがれ? ているのかな? 

 ……なんか違うよね。 一緒にどこか行ってみたいなぁ……ドキドキしながらでも、楽しいだろうなぁ……。

 そろそろ認めなくちゃ、だなぁ……。

 こんなにいつも一人の人間の事が頭から離れないなんて。無かったよ!僕、異常なの? 

 だってあの子は僕と同じ男の子だから。


 たりんが言っている『好き』と、僕の思う『好き』は、多分おんなじなんだ。これが『初恋』なんだ。


 僕が女の子だったら良かったのに!

そしたら、あの子の傍に行ってもドキドキしても自然、当然だもんね!

 ……そう言えば、峰岸君の好きな子ってどの子だろう。その子が峰岸君を好きだったら……? バレンタインデーにチョコレートをもらっていたら……?

 


 僕は初めて自分が「男」なんだ、と自覚した。「女」じゃない。

 それまでは、『女の子』『男の子』だった。何となくあいまいな感じ。


 だけど……峰岸君も僕も『男』だ。基やたりんも同じ『男』。でもでも、たりんや基と、峰岸君は別次元の……『男』。


 夢の中で峰岸君を突き飛ばしてから、だんだん自分の気持ちに気付き始めていた。


 ……僕はもしかしたら、峰岸君に……? だ、抱きしめられてみたい……の……?


 うわあああああぁぁ……僕っていやらしい小学生 !? だよね !! 


 こんな気持ちを誰かに聞いてもらいたかった。けど、病気だとか思われて病院へ連れて行かれちゃったら嫌だし困る。茂兄なら……? いや、お父さんやお母さんに相談するよな、多分。

 基は? いやいや、そんな話は出来ない。始兄に話しちゃいそうだよね。始兄から琴子おばさんに行って、お母さんの耳に入ってしまう。絶対だ。


 僕は一体どうしたらいいんだろう。


 


 家庭訪問がもうすぐ始まろうとしていた。大人しくしてなくちゃ、ダメなんだよね。この時期。小学生も六年目だから、何となくわかるんだ。

 こんな気持ちでこんな事を考えているなんて、誰にも気付かれないようにしなくちゃ。


 学校が楽しくなくなった。それまでは、授業以外が楽しいから学校が好きだったのに。授業以外も楽しくない。

 峰岸君に会えるのは嬉しいけど、嬉しくない……。


 



 「葵んちはいつになった? 」


 基が話しかけていたのに気が付かない僕。だって、さっき峰岸君と同じミニバスの女の子がつきあってるらしい、とクラスの女子たちが話していたから……。ミニバスの女の子。誰だろう。同じキャプテンやっている子かな……。その子だったら、可愛いし、運動神経超良いし、頭良さそうだし、だし……。


 「あーおーいー!! 」

 「ばーかーかー!! 」

 「え……? 何? なんか言った? 」


 基が何か言った。

「お前んち、そっち。それとも、このまんま俺んち来るつもりかよ? 」


 

 「え? あれ、本当だ。有難う。じゃ、また明日ね。」

 「明日は学校が無い土曜日だ。」

……この頃は、土曜日は毎週お休みじゃなかった。授業がある土曜日と、無い時があって時間割が面倒くさかった。そのうち毎週お休みになったけどね。家庭訪問を土曜日に希望する家が多かったな。


 「あ、そっか。うん。わかった。じゃ、ね」

 「あ、おい、」

 いつも思うんだけど。 「葵」と呼ばれたのか、「おい」と呼ばれたのか、どっちかな……。どっちにしても僕だよねぇ?


 「お前なんか変だぞ。風邪でも引いたか? 」


 基がそんな事を言うなんて。今晩は雷雨だ。春の嵐だ。なーんて。本当は優しいんだよね。ぶっきらぼうだけどさ。


 「僕が風邪引いたら、基も危ないよ。気をつけてね。じゃね。」


 「……マジか。」


 そう。僕らは自分の兄弟以上に近かったらしい。風邪やおたふくとか、ほぼ一緒にかかった。お母さんや琴子おばさんが文句言ってたもん。自分ちの子にうつすのならばわかるけど、どうしていとこでうつし合うのよ!って。


 うつせるものなら、この気持ち、基に全部やりたい!


 ……基は「そんなのいらねぇ!」って言うだろうな。

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