第7話 意味が違うみたいなんだ

 「あのね、ここ、教室なんだけど」

 「そうだよ。校長室じゃねーよ? 」

 たりん……お前何アホな事言ってるの……?

 「じゃあさ、たりんにはいるの? 好きな子……」

 ちょっとヒソヒソ話になっちゃう。だって次の授業まであと五分もないんだよ。教室には、ほとんど全員がいるんだから。


 たりんは頭を掻いて、こそっと言った。

 「うん。同じクラスになれたんだ」

 「え……えええ~!! 」


 ごめん!! クラス中から注目されちゃったよ!!

 「あっ、バカ!!アホっ!!しーっ!!! 」

 「ごっ、ごめん!たりん!! 」

 えええ~! たりんの好きな子がこの中にいるってえええ~?

 たりん、いつのまに? それって初恋、だよね?

 ああ、だからか。おまええ~!人に話したかったんだなあ? ……誰? その子……?

 本鈴が鳴った。先生が急いで教室に入って来た。

 授業が始まっても、僕は頭の中が『初恋』でいっぱいだった。どんな気持ちなんだろう。

 


 授業の中身なんか全く頭に入らなかった。……たりんのアホ!



 放課後の教室で、たりんと僕は隅っこで内緒話のようにコソコソと話していた。


 「ねえ、誰? って聞いてもいい? 」

 「う……、やっぱダメかな。ヤバイ」

 「いつから好きなの? 」

 「え。いつ……って。いつだろ? 」

 「そんなアバウトなやつなの? 」

 「アバウトってなんだよ」

 「よくわかんないけど、最近茂兄が言うからマネしてみた」

 「アホか」

 うん。男子の恋バナもいいなあ。


 「なんかさ、いつの間にか、あの子のこと、目で追っちゃうんだよなあ」

 「ふうん……?」

 たりんは恥ずかしそうに、でも真っ直ぐ前を向いて(でも下向きに近いけど)一点を見つめてる。


 「ずっと見ていたいけど……廊下とかですれ違った時なんかさ、ドキドキしちゃって、顔なんか見られないんだよ、もう」

 ……え? なんだって?


 「意識すればするほど、もっともっとドキドキしちゃってさ、でも見ていたいんだよなあ……教室の中に一緒にいられるの、ラッキーだけどつらいよな」


……それ僕も覚えがある……。


 「もう嫌になるくらいずっと考えちゃってさあ……もうさあ、夢にまで見てやんの! 自分でびびった……」


 ……ん? 夢……?


 「おい、なんでさっきから黙ってんだよ、葵っち! 聞いてねぇんか」



 ……言えない……こんなこと……僕もそれと全くおんなじやつがあった! て言うか、ある……しかもそれ、峰岸君なんだけど……!!


 「葵っち!……なあ、おい? おーい、だいじょぶかあ~? 」


 「たりん……それってホントに初恋てやつ? 」


  僕ちょっと心配なんだけど……全部さっきお前が告白したのとおんなじなんだけど……ねえ、なんで?


 たりんは、顔を真っ赤にしていた。


 「ばっ、ばっか野郎!!俺は恥ずかしいのを我慢して、お前だけに話してんだぞ!!……絶対これがそうだよ!!こんな気持ちになったの、生まれて初めてだかんな!」

 って、ヒソヒソコソコソ言われても、ちょっとばかり真実味に欠ける気がしないでもなくない?


 「え……じゃあさ、その子が同じ教室内にずっと居る、って事だよね? 」

 「そうなんだよ! さっきから言ってるだろ、俺もう参っちゃうよ……」


 うん……もし峰岸君が同じクラスに居たら、僕は困る。どうしたらいいのかわからなくなる。なんかわかる。



 「何、お前らそんなトコで潜んでんだよ。隠れんぼにしちゃ、不完全だぞ?」

 「うわあっ!! 」

 いきなり基が背後から話しかけて来た。僕らは校庭が見える窓辺の机の傍の床に体育座りして、入口から背を向けていた。基が入って来たのに気付かなかった。


 「はぁ~びっくりしたぁ~!!」

 「なんだよ。びっくりしたのはこっちだって」

 僕、いろんな意味でドキドキしちゃってるよ!


 「お前ら帰らないのか? そんな所でそんな事してんの女子に見られたら、なんか言われっぞ? 」


 ああ、最近女子は『ホモってるー』『レズってるー』とか言い出したからなぁ……。ウザい。

 たりんはでかい基を見上げていた。アゴが疲れないのかな。


 「帰ろうぜ? 」

 基が言うと、たりんが立ち上がったので、僕もよいしょ、と体を起こした。お尻が痛かった。

 

 「俺も一緒に帰っていい? 」

 珍しいな。たりんはどちらかと言うと、単独行動が多い子なんだよね。僕も似ているけど。話の続きを基としても大丈夫なのかなあ? あ、でも僕が嫌だな。


 「なんで許可取るんだよ。近場だし同じ方向だろう。」

 「うん。俺さあ、基っちに聞きたい事があってさ」


  おおい、たりん!爆弾発言するなよう!そんな話題振ったら、僕にも影響しちゃうよう!……たぶん。

 

 先に教室から出た基は、足を止めて振り向いた。僕らの帰り支度を待っていてくれるらしい。


 「聞きたい事? たりんが俺に? 」

 「うぉっ、俺、基っちに『たりん』て呼ばれちった!」

 「なんだよ。たりんて呼んじゃダメなんかよ? 」

 「や、なんか恥ずいな、って。基っちはかっこいいからさ」


 たりん? 基は格好よくはないよ? ただ、身長が170センチ有るだけだよね?

 「それは錯覚だ。父親がそう言ってる」

 「「は?」」

 たりんと僕がハモった。

 錯覚? 見間違いって事?武市おじさんも身長が高いんだけど?そのおじさんが言ったの?


 「身長が高いだけで、得をしているだけだ。そんなのはせいぜい中学生ぐらいまでだ、ってさ」


 「へ? 中学生まで? なんだそれ」

 僕もちょっと思った。けど、背の高いおじさんが言ったのなら、なんか理解出来そうだよね……。


 「や、そんなことないと思う。基っちモテるだろ? 」

 たりん、そっち方面から離れようよ話題!


 「そんなモテない。俺は無愛想だし」


 えっ自分でわかってんの基ー!

 「葵。お前は黙ってても、顔見れば言いたい事が全部顔に書いて有るからムダだからな。行くぞ、支度できたろう」

 僕とたりんはお互いの顔を見合わせた。


 「お前のいとこ、何者……? 」

 「ただのいとこだけど……」


 僕って顔になんて書いてあるの?


 思わず自分の顔を見るために、窓ガラスを見ちゃったよ!



この頃の基は、なんだか少し遠くにいるようなやつだった。こんなに近くにいるのにね。


しかし、さっきのたりんの話が気になって仕方がない。


 たりんがその女の子を好きな気持ちと、僕が峰岸君に思っている感情は、おんなじようで、違うよね?


 意味が、違う、よね?



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