第4話 僕もそう思うんだけど? 何で。
「えーっ!ホントにぃ? 」
「しーっ! しーっ! 声、大きいって。聞こえちゃうよっ」
……いえもう聞こえてますけど。
どうしよう。基がまだ来そうにない。先に帰ろうかな。でも、靴箱のフタを閉じる音って響くし……うう。
僕はそぉっと、足音を立てない様に廊下を歩き始めた。
「ね、ホントに告ったの? チョコ渡したの? 橋田君に! 」
……え。橋田? うわ。僕の耳が倍増計画しちゃったみたい。足だけでなくて、全身が止まってしまった。
「違うの、橋田くんの家のポストに入れて来たの。だけど……イニシャルしか書かなかったから、もしかしたらあたしからだとは分からないかも、なんだよね。」
みんな配達員になってるんだ……やっぱりあの声は庭野っちだな。
橋田って、そういうの鈍そうだけど。うん、多分庭野っちからとは理解出来てないかもね。
「ユウは橋田君より佐々木君が好きって言ってたよね? あげたの? 」
ええ? 佐々木? やめておきなよ。アイツは可愛い子には優しいけど、そうでない子には酷い態度じゃないか。男子にだって、大人しい子には容赦ないんだよ。それなら、まだ、たりんのほうが優しいし、頼れるよ。
「え? ちょっとイケてるって思っただけだもん。私はそのノリで参加できなかったし」
「私はね、実は一組の例の彼が好きだったんだけど……」
ん? 例のカレ? 誰ソレ?
「趣味悪くない? やめときなよ。なんかぶっきらぼうでしょ? 恐そうだよ」
んん? まさか、ぶっきらぼう? ってひとり思い当たるけど。親戚に。隣のクラスですねえ。
や、結構アイツはいいやつだよ。てか、早く来ないかな。基!僕は某家政婦さんになっちゃうよ!
「でもね、噂では……今年にトライした子は全員返されちゃったらしいの」
おお!噂が噂じゃない!真実ですよ皆さん! すごいなあ。
「私はね、三組の峰岸君にあげちゃった! 」
……え? 峰岸……って、ミニバスの? 来年度のキャプテンと噂されてる峰岸君?
あれ? 僕も混ざりたいな。女子たちと話してみたい。僕も峰岸君はね、格好いいと思うよ。て言うか……大人っぽい。渋い? なんて言うの? うーん。
「え。マジ有り? おっさんじゃんね」
おい、おっさん言うな! あの子は渋いと言うの! 俳優にだっているよね? こう……こう……?
え? 何? あれ……?
確かに峰岸君は背が高くてスポーツ万能で素と試合とかのギャップが激しいけど、おっとりしていて、こう……包み込んでくれますオーラが……え?
なんのオーラだって……?
女子たちの変な話を聞いちゃったから、ちょっとこっちまで妙な気持ちになってしまったではないか!
それよりも、基は遅い!!
早く来なさい! 先に帰っちゃうからね!
「なんだけど……峰岸君、好きな子がいるんだって……はっきり言われちゃったんだ……」
「えええーうそっ!可哀想」
…………え? 峰岸君に好きな人……?
あれ……なんで僕の心臓がバクバク鳴ってるのかな……誰だろう……あの子が好きな人……?
え? 何?
僕がなんでドキドキしているのだろう……?
胸のドキドキよりも、峰岸君の好きな子のほうが気になるのはどうしてだろう……?
いつの間にか、僕は靴に履き替えて、玄関から外に出ようとしていた。
女子たちの恋バナに混ざりたかった。楽しそうでそうでないようで、なんとも言えない話を一緒にしたかった。
……なんで?
……僕は男なんだけど……?
……クラスの男子たちとする話とはぜんっぜん違う。
……でも僕はこっちの話のほうが、断然楽しそうで好きだなあ。
……好き……?
目の前に、でっかい基が立っていたけど、驚かなかった。
それぐらいに頭と心臓がバックンバックン言ってた。
ねえ、これってどういう事?
「葵、顔が悪い、じゃない顔色が悪くないか? 」
え? 心臓がバクバク言ってるから? そんな事いわれちゃったら余計にバクバクしちゃう。
いつもなら分からない事は基にすぐ聞けるけど、この気持ちはなんて説明するんだ? なんて質問するんだ?
ああまた。基が無表情で心配している。
基に聞けない話があるなんて。
「……帰って、早くねるよ。帰ろう」
「お前、熱でもあるんか? さっきから俺が呼んでても、聞こえなかったみたいだしさ」
「そうなの……ごめん。わからなかった」
基は僕に近づくと、手のひらを僕のおでこに当てた。
「!……っ」
えっ! 基が変! 僕の心臓は今大変な状態なんだから! もっとびっくりしちゃうじゃんか!
「……よくわからないけど、大丈夫みたいだな。俺と変わらないみたいだ」
自分のおでこにも手を当てて、首をかしげている。なんか基、可愛い。
ん?可愛い? 基だよ? 僕、今日はなんかやっぱり変だよね……。
「うん……熱はないよ。有難う。帰ろう」
僕の中で何かが壊れたのか、作られたのか、よくわからないものが有る感じがした。
……なんか、もやもやするのが有るのがわかった。
基が可愛く見えるなんておかしいもんね……。
基はまだ不思議そうな顔をしていた。
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