第3話 知らないうちに知らないところで
「ねえ、基ってさ」
「ん? 何」
僕らは毎日登校時間がかぶる。なんとなく一緒に登下校している。いとこなんだけど、すごく近くに住んでいるから……幼なじみってこんな感じなのかな。同じクラスだった事が少ないのがつまらない。共通の友達はいるけど、クラスが変わったりして、基みたいにずっと一緒にはいられないんだよね。
「なんだよ。何黙ってんだよ。」
「あ、ごめん。基はさ、今年のバレンタインに幾つチョコレートもらった? 」
「……はあ? 」
ありゃ。機嫌悪そう?地雷だったのかな? まさかゼロ個とか……?
「何でお前に報告しなきゃならない? 」
げ。報告だって。
「僕はねえ、お母さんと楓がチョコレートケーキを作ってくれたやつだけだった」
「お前のを教えろなんて言ってない」
うっわー可愛くない! 何だよ。有名な反抗期って大人に対してだけじゃないの? 僕も対象になるの?
不機嫌そうな基を横目で見ていたら、基も横目で僕を見ていた。なんか笑っちゃった。目線が違うけどね。
「何だよ」
「そっちこそ」
二人して苦笑い。にらめっこは僕らは苦手だ。
「……今年は受け取らなかった」
ボソッ、て基が言った。
「へえ、そう。受け取らなかった……って? 返した、って事? 」
「そう……だよな。うん、返した。受け取れないから、って」
「ふうん。そうなんだ。もったいないなあ」
「ばーか。食い物のレベルの話じゃないからな。言っとくけど」
え? チョコレートは食べ物だよねえ? 基がおかしくない?
この時の僕は、バレンタインデーとはチョコレートを受け渡しする日、だという事しか頭になかった。もっとずっと深い意味があって、基は僕よりも早く自分の心と体に向き合っていて……本当に僕は「ばーか」だったんだ。
でも、この年のバレンタインデーとホワイトデーがきっかけで、僕はもやもやしていた自分に気付けたんだ。
食い物のレベルじゃない、と基が言った通りになった。
でもさあ、基! それならそうと、早めに僕に話してくれたら良かったのにな! 僕はそのあとすっっっごく悩んで悩んで悩みまくったんだからね!
で、思い出しながら、今、人生初の僕の「人生日記」を書いてるの。
人生が十年ちょっとでも、すごくいっぱいあったんだから……想像出来ないでしょ?
それからしばらくして、六年生を送る会が迎えられて、僕の二票も入っていた「アニソンメドレーとアイドルの仲間たち」の曲を合唱した。六年生たちはノリノリだったよ。
それから間もなくホワイトデーがやって来た。
「ねえ、僕もお返しするのかな。お母さんと妹がチョコレートケーキを焼いてくれたんだけど」
クラスメイト達に聞いてみた。
みんな、自分がもらったのは話さないけど、人がもらった事には興味しんしんなんだよね。教えろってば!
女子たちがいないのを見計らって、放課後のヒマ人たちに聞いてみたんだ。もちろん、僕もヒマ人のひとり。
塾にも行ってないし、習い事もしていない。スポーツは、好きだけど、あまり得意じゃないから応援専門。
「え? 葵っちが一人で食べたんか? 」
「違う。みんなで食べた」
そうだよ、あの日は基も食べたじゃないか。
「じゃあいいんじゃねえの? 別にお返ししなくてもさあ」
橋田が口を挟んで来た。お前、お前こそどうなんだよ?
「ね,橋田はどうするの? 」
聞きたかったヤツ聞いちゃったもんね!さあ教えろ!
他の男子が集まって来たよ。
「えー橋田もらったのかよ! 」
「誰から? 何個もらった? 」
「ちょ、タンマ、待て、誰がもらったって言ったよ! 」
「もらわなかったの? 一個も? 」
そんなはずはないよね。僕は最低三人からはプレゼントされていると思うんだ。それはまさしくうちのクラスの子たちだけど。
橋田はやっぱり押しに弱い。顔を向こう側に向けながら、
「……五個? 」
と、片手を開いた。
「えーっすげえ! 」
「……負けた。俺、二個だった」
「マジ? お前らマジもらってんのかよ! 」
うん、うん、僕ももらってないから仲間だよ。安心しろ、たりん。たりんて林田(はやしだ)を逆読みしたの。僕が付けたんだ。決して足りないからでは……ないと思う。
もっとみんなの意見を聞きたかったけど、廊下で女子が数人話している声が聞こえて来て、そこで話が超、自然に途切れてしまった。
もっと突っ込んで聞きたかったな。
みんな、知らないうちに知らないところで結構動いて努力? しているんだなあ、と関心した。
翌日はみんながふわふわしていた。
浮き足立つ? よりも、ふわふわのほうが近い気がする。
そう。ホワイトデー当日だからね。
バレンタインデーと同じで、平日だし、学校へは持ち込み禁止だし、みんな(と言っても数名だろうけど)どうやって渡すんだろう。
何となく放課後のヒマ人たちが今日に限っていないのが気にかかった。まさかね? みんな家に帰ってから配ってるのかな? いやいや、たりんもいないからね……。
僕も帰ろうかな。基がそろそろ来るかな? と、教室を出て、玄関に向かう途中で、僕はヒソヒソと話しているうちのクラスの女子たちをうっかり見てしまった。
見てしまったと言うか、聞いてしまったと言うべきか……。
掃除用具一式を入れる小さな部屋がある。階段からは見えないけど、玄関の横に来ると声が響くんだよ? 庭野っち?誰か教えてあげなよね……。
そこで隠れる様に話し込んでいたんだ。違うクラスの子もいたかも。
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