第11話 一月十日 畳
星暦二千百十一年一月十日 土曜日
せっかくの休日、お昼まで惰眠をむさぼるつもりだったのに。
「来たよー」
おそらくむすっとした顔で玄関を開ければ予想通りユリカが右手を挙げている。
そっとドアを閉め、鍵を掛ける。
再び呼び鈴が連打されましてですね。
「うるさいわ!寝かせろよ。寝ていたい気分なんだよ」
「何言ってるのー。お休みだよっ。絶好のお出かけ日和だよ。起きようよー」
そう言いながら
「大雨だわ!」
雨なんですよ。今日。朝から雨音がかすかに響いてたけど、ドアを開けたら土砂降りだわ。
「何で雨なんて降るんだよ。なんかのパワーで降らないように出来るんだろ?」
帰るという選択肢が逃走している様なので、中に招き入れながらモンクを言ってみる。
「ふつーの雨は必要でしょ?大嵐はさすがにシールドで遮るよ?」
知ってる。パンフレットに書いてあったし。ここに入居するときもらった街の説明パンフ。
「言ってみただけ」
「知ってたー」
適当に座るように、クッションを放りながら告げて、着替える。
「食事は?」
朝食用のパンとコーヒーを用意しながら
「コーヒーちょうだい?」
了解。
二人分のコーヒーとわたしのトーストを持ってユリカの元へ。ローテーブルの上に並べて クッションを敷いた床に座る。
「畳が恋しい」
パンを
「買いに行く?この部屋、畳が引けるようになってるよ?」
なんですと! 有るの?! 畳!!
「いく!」
思わず身を乗り出しちゃうよ。
「…すごい食いつき。そんなに畳に恋してるの?」
「畳が恋しいの じゃ無いの?」
「そーとも言うね」
何か期待した目で見ているけれど、ここは無視する。トーストがおいしい。
「そーとしか言わない。って返しが欲しかったの」
しょぼくれた。
雨の中、畳屋さんへ出発。とはいえ、居住区、商業区とも、歩道にはアーケードが設置されているので、傘などを持って歩く必要はほぼ無い。
適当なところでコミューターを拾って商業区へ。
畳は
夕方には届けてくれるそうなので住所を知らせて代金を払う。支払いはカード決済でした。水曜日に頂いたバイト(?)代が、マジありがたい。
用事も済んだことだし、さあ帰ろうかと歩き出したらユリカに別の店に引っ張り込まれる。
ひらひらのフリルだらけの服を試着させられそうになって逃げる。いーやーだーっ。
この前も言っただろ!わたしにその手の衣服は似合わん。断固拒否。体格の良い体なめるな。
次に連れ込まれたのは靴屋。サイズ?二十五センチ EEですが何か?……
しばらく悩んだ様子だったがやがて持ってきたのは
「あ。シンプルで可愛い。これなら買う。」
今回選んできたのはショートブーツ。飾り気は控えめだけどシンプルさが可愛い。
一目で気に入ったので購入することに。 ユリカも買うの?同じデザインで?サイズは二十二センチですか。そうですか。
何かものすごく負けた気がする。
その後も、下着専門店やら小物店、宝飾店。文具店。家電販売店。食料品店などなど。お昼を挟んで巡ること六時間。疲労
畳が届く時刻が迫ったので帰宅。したら、直後に配達されまして。
いったん部屋の荷物を小部屋に移し空っぽに。ユリカに言われて壁の隅を押すと一部が二十センチ角位の蓋になっていて開く。
中に折りたたんだハンドルがあるので言われるままに引っ張り出して組み立て。そのまま回す。
すると、床が沈み込んでいく。5センチほど沈んだところでハンドルが回らなくなったので、届いた畳を一枚ずつ敷いてゆく。敷くときに、表面を保護しているシートを外すと、
八枚を
「ひさしぶりの新しい畳が良い香り。家の畳も張り替えしてもらおーかなー」
ユリカも満足した様子。
二人でしばし新しい畳の香りを堪能。小部屋に避難した荷物を戻して時計をみれば早十八時。
夕食をどうするか聞いてみたらかえって食べるとのお答え。曰く、お泊まり会はまだ早い。とのこと。
コミューターを拾いに表に出て、ユリカをお見送り。家に戻って夕食、そしてお風呂、そして畳の上にふとん。
満足です。
では、おやすみなさい。
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