第12話 一月十一日 メンバーズカード

 星暦二千百十一年一月十一日 日曜日


 今日は快晴。昨日の雨で空気が洗われて埃っぽさもなくなって気持ちが良い。


 どうせ来るなら今日にすりゃ良いのに、ユリカのやつ。


 昨日引っ張り回された疲れも、新しい畳の香りに包まれ休んだおかげか残っておらず。


「畳があって、良かった」


 しみじみ感じてぽつりとこぼす。


 今日も誰かしらが襲撃してくるんじゃ無いかと、半ばビクビクしながら朝食。


 予想に反して、平和なまま九時になる。


 それならば、と 近場を探索しつつ散歩に出かけようと家を出る。


 赤や橙、黄色に桃色、何種類かの赤系のレンガブロックで舗装された歩道を歩く。


 市街を走る車道は、暗い 碧か緑系のブロック舗装。此方はレンガでは無くかなり硬い石材らしい。車道と歩道を隔てる境界部分は幅三十センチの明るい灰色の石材が3センチほど高く敷いてある。


 いずれも柔らかい色で視界に優しい。


 道路の中央分離帯は幅三メートルの緑地帯となっていて、様々な草花や樹木が植えられている、


 道路の両側に並ぶ家々は、十メートルほどの芝生や玉砂利を敷き詰めた庭をて立ち並び、外壁も屋根も原色は使っていないので落ち着いた風景となっている。隣同士で密集せず。家と家の間隔は充分広く開いており、圧迫感などは無くむしろ開放的。


 地上二階建てを超える家も無く、わたしの住むアパートも一階層当たり三件二階建てで、計六件の集合住宅となる。


 難点を上げるとしたら、住宅の所々に点在する商店や公園、金融機関、医療機関などに行くための移動距離がすごいことになる点か。


 そこら中で待機しているコミューターを呼べば良い話ではあるけれど。


 家を出て、最初の交差点を島の中央に向かって歩いてきて約五分。のんびり来たから三百メートル前後かな?学園のある区画と居住区を隔てる緑地帯にぶつかる。


 幅二キロで人工島をぐるりと1周しているのだそうだ。


 人工島の中央に直径十キロの中央区、その回りを幅二キロの同心円で緑地帯。さらに外側に興行区がありそのまた外に再び緑地帯…。


 そんな感じで、同心円状に展開される各区画を区切る形で緑地帯が合計五つあるとのこと。


 公園や、芝生に覆われた緩い丘陵地、森や林、池や湖、小川などが広がる合間を歩道や車道が走っている。


 で、目の前にはかなりの広さがありそうな公園の入り口が。


 入り口には門柱と格子で出来た門扉。現在開放中。


 その両側に門柱の高さで柵が続く。


 門柱の横の柵に公園の案内板があって、それによると通常二十四時間開放されており、自由に利用可能。このまま中央に向かって公園を突っ切れば緑地帯を突っ切って学園のある区画の前に出るのだと。


 なるほど。通学するのにコミューターバスを利用してたけど、こりゃこの公園を突っ切った方が早いんじゃね?


 緑地帯を横断する道路が、この公園とその両側にある林を迂回する形になるので、ここから三~四キロ位離れている。


 従って登校には結構な時間が掛かる。


 公園の地図を見る限り、中央側の門に向かってこの門から一直線に歩道があるようなので、そこを突っ切れば学園の前まで家から三キロ無いから ちょっと走ればコミューターバスより絶対速い。問題は、高等部の正門まで、公園の門からどの程度距離があるかなんだけど、毎朝の通学経路を見た感じ、何となくすぐ近くな予感。


 よし、確認だ。と公園に入る。


 中央まで来たら、でっかい噴水が。高さはたいしたことないんだけど直径二十メートル位の丸い池になってまして。


 迂回したところでそんな手間ではないし、まあ良いかと。


 最悪飛び越えれば…って、いかんいかん、誰が見ているか解らない。自重じちょう自重。


 噴水池の横を回ってさらに進み公園の反対側に到着。


 思った通り、道路を隔ててすぐ近くが高等部正門。車道の横断歩行帯もある。明日から、このルートで通学しようと決める。体育の授業だけじゃ運動量が足らないんだよね。


 そのまま、休みの日の学園が気になったので正門に向かう。


 近づくと、グラウンドでクラブ活動中の生徒の声。


 門をくぐろうとしてふと、今制服では無いことを思い出す。


 確か制服の襟に付いている校章がセキュリティーに対応する認証機能を持っているとか説明されたような気がする。


 門の脇に守衛棟があるので訊いてみることに。


 監視カメラの顔認証で問題なく入場出来ました。色々サインさせられたけど。さらに、出来れば制服で来て欲しいと注意されたけど。


 校舎内を見てみようと昇降口に近づいたところで校内放送が、ですね。


「高等部1年Fクラスのまきさん。至急所属クラブルームへおいで下さい」


 どこかで見てるのか?、あぁ、顔認証の時。クラブメンバーが登校したら通知を出す位簡単なんだろうなあ。


 等と考えつつクラブルームへ。


「お早うございます」


 と言いつつ入室すると、


「お早うございます。今日の服装可愛いわね」


 等と、ミュラ姫からお世辞が飛んでまいりまして。


 ユリカ、ユリア。ありがとう。二人が選んでくれた私服です。主にユリアが。


 但し!ミュラ姫の方が数倍可愛い衣装を着けておられますよ?


 ちょっと頬を染めて小さくありがとと呟いた後、


「ここまで来れたって事は、メンバーズカードは持ってきてるでしょ?」


 と、問われる。なんとも可愛らしい。


「受け取った後、常に携帯するようユリカに言われたんで」


 財布から出しながら説明。


「うん。それが無いとこの部屋に来れませんし、逆にそのカード、守衛さんに見せれば何も言われませんよ」


 先に教えてくれよ。がっくりと項垂うなだれる。


 その様子を見て、コロコロと笑いながら、


「ごめんなさい。あたしから説明するべきでしたね。今からの時間で説明させてもらっても平気ですか?」


 まだ何か知っておくことがあるんだな。是非ともお願いします。


「あ、その前に、何で呼び出しの時クラブ名じゃ無くて「所属クラブ」なんですか?」


「えーと、その辺も教えてもらっていませんか?一般生徒にはメンバーズクラブという名前、知らせていないんです。人材派遣クラブ、と言う別称の方は、結構有名なんですが正式名称ではないので、あたし放送では使わないようにしています。」


 秘密になってたんだ。あぶな!教えてもらわなきゃ普通に会話で使っちゃうよ?


「ああ、更にごめんなさい。秘密事項ではありません。誰のせいとは申しませんが、知らせていないだけで知れ渡ってはいますから、話をされても平気ですよ?公式での立場の問題だけですから」


 そうなんだ。


「あたし以外のメンバーは呼び出し放送の際に普通にメンバーズクラブとか人材派遣クラブとか流しちゃっていますし。あたしのこだわりですからお気になさらずに」


 詳しい説明をありがとう。この際、邪魔が入らない今のうちにいろいろ聞いておかないとまずいんじゃ無いかと思う。


「あたしも、その考えに賛成しますねぇ。とことんご説明致しましょう」





 先ずはカードから。と、その後、授業なんかめじゃない濃密な説明と質疑応答が六時間。


 もっぱら、これまで謎だったり、理解しずらかったことをお聞きいたしまして。


 間に 昼食時間と小休止を何度か。


 授業と違って、興味り盛りなので いつの間にそんな時間が。とミュラ姫の「そろそろおしまいに」の言葉で時刻を確認してびっくり。


 慌ててお礼と、お邪魔をしてしまったお詫びをして下校。





 とりあえず一番びっくりだったのが、依頼事項の処理中で在れば、住民に課せられている禁止事項、犯罪相当事項を犯しても、有る程度許容されること。 例えば、公共物の破損とか交通の妨害とかゴミの散乱とか(あ。全部ふつーに犯罪だった)。


 どんな依頼内容だよと言いたいが、先日のユリカを見ていれば納得。


 普通は、パトロールを兼ねてあちこち動き回っているタウンキーパーが、発見次第拘束しお説教、事によっては罰金刑や警察部門に送られる。


 そういった事案が発生しても、明らかに故意ややり過ぎで無ければ、後に報告書を書く必要は有るが 不問となる。


 この間のユリカが連行されたのは やり過ぎ判定だったらしい。すぐに掃除を始めていれば 不問にしてくれたんだけど、わたしが色々質問攻めにしていたので、タウンキーパー「アリスちゃん」が到着した時点でまだ お掃除が手つかずだったため。


「おしごとがおわっているのに おかたずけできないとは なにごとですかー」


 と、お怒りだったとのこと。


 ユリカ。ごめん。


 次に、人工島として浮いている巨大宇宙船の内部に入る制限が解除されること。


 通常、一般用の見学コースのみ、ガイド同伴で見学出来るだけなのだが、メンバーズカードがあれば 自由に、どこにでも進入可能なんだとか。いや、事由にとか言われましても内部がどんな形なのか皆目わからないんですけれどね。一般人に何をさせたいのでしょうね?


 はいー。そうでしたねー。一般人枠からはみ出しておりましたねー。



 他にも、必要な場合、逮捕権が行使出来たり、家宅捜索権を行使出来たり。 その分、犯罪に使用した場合、即刻逮捕収監され、最も軽くて禁固十年にしょされるそうです。


 なんだか、どえらいことに巻き込まれている感がひしひしと…。まあ、今更抜け出すつもりもないけれど。


 結論。清くまっとうに生活すれば大丈夫。


 興奮しているおつむを冷却するために、お休みするといたしましょう。今日も畳の良い香り。


 では、おやすみなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る