第13話
「ねえ、ここってさ、流石にダンジョンの中じゃないよね?」
水晶にダンジョンカードをかざして魔力を流すと、目の前が森になった。
いや、森になったというよりは、転移してきたのだろう。転移してきたはいいが、ここがダンジョンの中ではないという保証はない。なにせダンジョンの中には森もあるのだから。
『大丈夫だよ、お外に出たよ。』
『そうだね、ウーノの言うとおりダンジョンの中じゃないね。後ろに入り口があるしね。』
あ、ホントだ。後ろが入り口か。デカイな。
ってか、人が全然いない。ダンジョン都市?とかになってるのかなって思ってたんだけど僕の勘違いだったのかな。都市になってたらそれはそれで不正入国?とかなんとか言われる可能性もあるから困るんだけどね。
「さて、どうするか。そういえばウーノのことを鑑定してなかったね。」
《黒竜(幼体)》
Rank:B (SS)
契約主:ナオキ イチノセ
固有名:ウーノ
スキル:念話 光魔法
「へー、光魔法ってのはなんか神竜っぽいな、それも(SS)ってことは、潜在的にはランクSSってことだからめちゃくちゃ強くなれるな。」
『へへへ、オイラ頑張るぞ。強くなって2人のこと守ってやるからな。』
「はは、ありがとうな。でも、いまは僕とノアに守らせてくれよ。親と兄だからな。」
『うん、僕もウーノのこと守るよ。任せといてね!』
「じゃあ適当に町かなんかを探してみるか。」
森の中、どの方角に向かえばいいのか、右も左もわからないがとりあえず進んでみることにした。
森は静かで、空気がおいしくて、今までダンジョンの中にいた僕からすると、少し物足りない気もする。でも、異世界というだけあって、なんとなく日本とは違うなと感じる。
静寂は突然壊れる。
「だれか戦ってるよな?」
『うん、気配があるし血の匂いがする。』
『どうするの?みにいってみる?』
「うーん、どうしよっかな。」
面倒なことに巻き込まれる可能性が高い。しかし、一方的に盗賊や魔物に襲われて困っている可能性だってある。それを後から知った場合、なんというか心地悪い。だが、ただ単に利害の不一致で人と人が争っている可能性だってあるわけで、、、
まあ、ノアが血の匂いがするって言ってるし、とりえず死人が出る前に止めたほうがいいか。
「よし、行ってみよう。ノア、背中に乗せてくれるか?空から見てみようと思うんだけど。」
『いいよ!久しぶりに自由に空を飛べるなあ。ウーノも乗る?それとも自分で自分で飛ぶ?』
『オイラはナオキの頭の上に乗る!』
「え?まあいいよ。おいで。
じゃあ、早速行ってみよう!」
空を飛んで気配のするほうへ行ってみると、一台の馬車が大勢の盗賊?か何かに追われているようだった。馬車には、敵に向かって弓を放っているものや、飛んでくる矢を剣で払っているものがいる。
これは止めるべきなのかな?まあ、追われているのが悪人ってこともあり得るし、邪魔するのも気が引ける。
「ノア、とりあえず全員威圧で動けなくできるか?見た感じアイツらの中に強そうな奴いないと思うけど。」
『うーん、たぶん大丈夫。』
「じゃあ頼むよ。
あ、それと、ノアもウーノも僕以外には念話を使わないように。念話を使えることがどのくらいのことなのか分からないからね。僕も念話で話しかけるからそこはよろしく。」
『『分かった。』』
『じゃあいくよ。キュイーーーン!!』
「な、なんだ!」「どうなってる!」
「ヒェー、助けてー。」
ノアの威圧で体が固まってしまったものたちから悲鳴が聞こえる。これで戦闘は一旦止まったと思う。下に降りて行って事情を聞こう。僕の独断と偏見で悪いと思った方を、捕まえればいいだろう。
「ねえ君たち、何やってるの?」
「ぺ、ぺぺぺぺペガサス!?」
「おい!人が乗ってるぞ!」
「何者?!」
「ねぇ、どっち側の人でもいいから答えてよ。僕は事情が聞きたいんだけど。」
「お、お助けください!」
事情を聞こうとすると、逃げていた馬車に乗っている叔父さん、いや、おじいさんかな?から助けを求められた。いや、僕は事情が聞きたいんだけど。君らが悪人の可能性だってあるわけだし。
「そろそろ動ける人もいるでしょ?でも逃げたら容赦しないよ。追いかけていた君たちが盗賊だったり、逆に逃げていた君たちが犯罪者だったりしたら、僕も後味が悪いからね。
とりあえず事情を聞かせてよ。」
まあ、僕からすれば、追いかけていた7人は盗賊か何かで、追われていたのは商人かなって思ってるけど。
だって、追いかけていた側はどう考えても騎士とかには見えないし、追われていた側は声と思われる人が2人と、THE商人っ感じの人が1人だ。
「私たちは商人とその護衛です。ここから数里離れたところにあるセーレンという街に商いのため向かっていたのです。そこを盗賊に襲われたのです。」
商人っぽい、自称商人が答えてくれた。それによると、だいたい想像した通りだった。
「なるほど、じゃあ次はそっちの言い分を聞こうか?」
僕が盗賊と思しき7人組の方を見ると、そのリーダーと思われるおっさんが説明を始めた。
「ああ、たしかに俺らは盗賊だ。だが、俺らは義賊だ。セーレンって街は腐りきってるんだよ。領主の悪政は人々を苦しめ、生活するのも厳しいやつらもたくさんいる。だから俺らは、クソ領主に取り入って金を吸い上げてるこいつらから逆に奪いとって皆んなに還元してる。コイツらの馬車を見ればどんだけ稼いでるかわかるだろ!?」
うん、分からない。正直日本ならもっともっといい馬車があるし、車より安く買えるし、馬の良し悪しも分かりません。
まあ、動機自体は理解できた。周りのみんなを助けるために悪事に手を染めてしまった。でも、だけかれ構わずに襲ってるわけではないよってヤツだな。
僕は領主に対しての印象は悪くなったけど、この商人が悪徳かと言われれば分からない。
「ねえ商人のおじさん、あの人の言ってることはどうなの?」
「ええ、たしかにセーレンの領主はあの方の言った通りです、生活に困窮してる方もいるでしょう。そして私も商人ですから後ろ暗いこともやっています。しかし、一般市民を苦しめるようなことをしているかと言われればそれはありません。」
「うーん、どうしよっかな。セーレンって街を知らないから判断できない。セーレン一帯がスラム街みたいな感じだったらそりゃこういうやつも出てくるよって感じだし、それほどじゃなくても理解はできる。」
悩むなあ。こういう時は野生の勘ってヤツを頼ってみようかな。
『ノア、ウーノ2人からしたらどっちが悪者に見える?』
『うーん、僕はどっちも悪い人には見えないよ。』
『オイラも、どっちもいい人たちだぞ。』
なるほど、どっちも自分が正しいと思って、それぞれがそれぞれの信念をもってやってるんだな。
「どっちも自分の正義を信じて、悪意なくやってるんだと思うよ。でもさ、盗賊はダメだよ。」
「俺らは領主のせいで立場をおわれたんだ。同じような境遇で困ってる奴らを放ってはおけない。」
「私どもも、セーレンには困っている方が多いのは存じております。しかし、我々商人がいなくては、人々は飢えてしまうのですよ。そして、我々にも生活がある。無料というわけにはいかないのです。どうか、分かってください。」
「ねぇ、そういうのって国がなんかしたりしないの?」
「あんた何も知らないな。この国では、それぞれの領地に4年に1回国の役人が視察に行く。もちろん、王族とかが視察に行くのはまた違うけどな。つまり、どんな悪政を敷いてても4年間はそうそうバレない。その上、視察って言っても貧民街やスラム街とかに行くこともないからな。まあまあ恵まれた奴らしか見ないんだよ。
分かるか?俺たち一般人が何を言ってもどうしようもないんだよ。」
へー、つまり役人も腐った奴が多いってことか?どこの世界も変わらんなあ。
「移民はできないのか?」
「簡単に言うな!ご先祖様が守ってきた、ご先祖様がねむっている土地を捨てられるわけねえだろ!」
なるほどなあ。でも生活できないほどやばいなら故郷でもなんでも捨てないとダメだろ。
この世界に来たばかりで何も知らない僕がなんとかできるようなことじゃないよな。
「ねえ商人のおじさん、どうにかする方法はないの?」
「そうですね、ないことはないとも思いますが、できるかどうかと言われればまず無理ではないかと。」
「説明してほしいな。」
「えーとですね、大金を持った方が爵位を買い取ることですね。かなりの金額が必要ですが、金さえあれば簡単かと。」
うん、無理だね。そんな金あったら最初から困ってない。
「まあ、事情も分かったし僕が何か決められることもないね。商人のおじさんは今回のことで何か損害は出たの?」
「いえ、特に損害というようなものは出ておりませんが。」
「おい!ちょっと待てよ!」
話をまとめようと思っていると、冒険者かなんかであろう男の人が声を荒げた。
「なに?」
「俺らはそいつらに襲われたんだぞ!まさかこのまま野放しにするわけじゃないだろうな!」
「僕は何もするつもりはないよ。君たちはどんな被害があったの?」
「被害がなくてもそいつらは犯罪者だろ!」
でも、犯罪者なのかどうかも今の僕には分からないんだよ。それを僕の常識で捉えたりするのも嫌なのよ。
「まあいいじゃない、その人の言う通り私たちは弓の矢くらいしか損害はないわけだし。矢だって、そう何本もではないでしょ?
今の私たちが同行できる相手じゃないんだからここは引き下がりましょう。」
「む、むぅ。分かった。」
怒っていた男の相方の女が男を諌めてくれてなんとか納得はしてないだろうが、引いてくれた。感謝感謝。
「お前らも、商人とかじゃなくて、そこら辺にいる盗賊を狙ったらいいだろ?そしたら犯罪者どころか英雄だぞ。」
「むー、わかった。だが、悪い商人がいたらそれは見逃せない!」
「あーわかったわかった。その辺は僕の知るところじゃないし、関わらないよ。
はいじゃあ終わり、散った散った。
あ、そうだ、そこの義賊さんたちは待って。少しなら食糧分けてあげるよ。」
「本当か?」
商人も義賊もそれぞれ解散し散り散りになった時、思いついた。困ってる人が多いなら、余ってる肉を分けてあげてもいいかなと思った。でもそこに、待ったがかかった。
『待って!僕の肉が減る!』
『ノア、お前食い意地張ってんなあ。安心しろ、肉はたくさんあるんだから少しくらいあげてもノアの分は減らないよ。それに、また魔物を狩ればいいだろ?今は困ってる人に分けてあげろうね。』
『うー、わかった。』
ノアはいい子だから、困ってる人を、食い意地だけで見捨てたりはしない。
「とは言っても、あげられるのはオークの肉くらいだけどな。」
「お、オーク!?あんた、オーク肉なんていいのか!?」
「ああ、いいよ別に。沢山あるし。」
「あんた、太っ腹だな。いや、ペガサスを連れてるようなヤツだからオークなんていくらでも狩れるのか。ありがとよ。
ああそうだ。俺の名前は、ジンクだ。よろしく頼む。」
「ああ、僕はナオキ イチノセだ。こちらこそよろしく頼むよ。
そういえば、セーレンって街以外で、出来るだけ情報とかを集めやすくて、安全安心な街とか都市ってないか?」
「それならここから西、あっちに15里ほど飛んでいけばドランティアっていうでかい都市がある。普通の道を使うと倍の距離はあるんだが、あんたはペガサスがいるからな。」
「分かった。ありがとう。元気でな。」
ジンクに道を聞いて、ドランティアを目指すことに決めた。
15里ってことは1里が4kmとして、60kmか。大阪を横断する感じだな。
「ノア、疲れたら言うんだぞ。」
『大丈夫だよ!1日くらいなら飛び続けても平気だしね。』
すごい、でもそんなに飛び続けない。お腹空いたら降りて食べるし。
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