第19話

 翌朝のニュースはその話題で持ち切りだった。


 真夜中の東京の夜空に、明るく煌々と輝く白い星が一つ。その明るさは月をも凌駕し、新しい太陽のようだ。


 東京だけではない。日本全国、世界各地で同じ星の明かりが夜の地球を照らしていた。昼間のように光が差し、電気をつけていなくても部屋のなかを見通せる。


 テレビの専門家は「死んだ星」の名前を連呼し、説明を急いでいた。どこのどの星が爆発したのか。地球への被害はあるのか。今後どれくらいこの状態が続くのか。コメンテーターから質問が相次いだ。


 SNS上でもトレンドはずっとその話題だった。


 世界中の人々が空を見上げ、宇宙の一瞬の変化を見つめた。不安を浮かべる人もいれば、宇宙の壮大さに感動を覚える人もいた。


 違う星に生まれたかのような錯覚を、感じる人もいた。


 とにかくその日から、地球から「夜」が消えた。




☆☆☆




「やばいよね」「めっちゃびっくりしたー」




 教室に入ってからも、昨日の出来事でクラスメイトたちが騒いでいた。


 でもコハクがいない僕には関係のないことだ。


 彼女が目を覚ましていたら、きっと目を輝かせて僕に向かってくるだろう。


 こんな壮大な大事件が起こっても、友達がいないとここまでつまらなくなるものなのかと僕は思った。


 そんなことを考えていると、レイが登校してきた。彼も誰とも話すことなく、自分の席に座る。


 昨日、あんなに気まずくなったのに、僕はこの非日常を誰かと共有したくて仕方がない。




「む、邑朋くん。おはよう」




 レイは少し驚いた顔をしたが、




「ああ、おはよう」




とはっきりとした声で返した。




「昨日はすごかったね」


「そうだな」


「邑朋くんの家は大丈夫だった?」


「ああ。でもさすがに眩しかったから、カーテンをしめて寝た」


「寝たんだ。僕なんか興奮して眠れなかったよ」


「気持ちは分かるけど、生活リズムを崩したくないから。明るい状態で眠ると自律神経が混乱して睡眠の質が下がるんだ」




 非日常のなかにいても、レイは自分らしさを貫いている。




「学校は変わらずあるのかな。お店は何時まで開けるんだろう。電車もいつまで動くのかな」


「さあ。それは俺たちが決めることじゃないさ」




 そう言うと、レイはいつも通りに本を手にとった。


 宇宙の神秘が目の前で繰り広げられているのに、レイは結局、文字の渦とにらめっこか。




 授業がはじまると、教科が変わるたびに先生たちが超新星爆発の話をした。


 昼休みには大勢の生徒が屋上で「死んだ星」を撮り、それをSNSにアップした。教室に残っているのは僕とレイ、それから鯨川ミナミだけだ。


 二人とも席に座って本を読み、僕はすることもなく窓の外を眺めていた。星の光にも微かに熱がある。


 もしかしたら、この未知のエネルギーがコハクを目覚めさせてくれるかもしれない。


 そう思って、僕は学校が終わると、すぐにコハクの家へ急いだ。

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