第2話
雨野コハクに出会うまで、僕には友達らしい友達がいなかった。
小学時代は人並みの成績で、運動も特別悪くない。趣味もなく、将来なりたい職業もなかった。
ただ味のしないガムのように毎日を消化し、いつ役に立つのか分からない知識を学校で覚えては、誰とも遊ぶことなく家に帰る。その繰り返しだった。
もちろん僕だって、はじめからこんなに冷めていたわけではない。
昔は遊ぶ子もそれなりにいたし、外遊びやゲーム、図書室で読書のような、小学生らしい遊びは一通りやった。
でもゲームで一番になった例(ためし)はないし、鬼ごっこではいつも鬼になってばかり。それに読書は集中力がなくて続かなかった。本のなかにいるのは「主人公」で、そこは僕の世界じゃない。
それならと思って、勉強に力を入れてみた。
「勉強を頑張って、良い高校や大学へ行くことは将来のための投資だ」
テレビの中の知らない大人がよくそう言っていたからだ。
でも結局、テストでいい点をとったところで、それで終わりだった。
先生は褒めてくれたし、周りの子も「すげえじゃん」なんて言ってくれた。
しかし上には上がいて、秀才ちゃんの女子、
永遠に二番手なままの虚しさを、さらに濃くさせたのは父の存在だ。
母は僕がまだ保育園にいたころに不慮の事故で亡くなり、父は僕をたった一人で育ててくれた。
父は電気工学を専攻して国立の大学院まで卒業したが、就職氷河期だったこともあって就活に失敗。いまはコーヒーショップの店員として働いている。
そんな父はスマホ片手に、僕のテスト結果をみて言った。
「子供なんだから、もっと遊べ。いいか、ヒカリ。友達と思いっきり遊んで、一生の思い出をつくることは子供時代にしかできない経験なんだ。それはどんな難しい資格よりも、大切なことだぞ」
テレビのなかの大人とは真逆の答え。そのときの僕には、その言葉の真意がよくわからなかった。
今日という日が返ってこないことも、子供時代が返ってこないということも、頭の片隅では理解できていても、嘘のように思えた。だって何もしなくても日は沈むし、毎日は続いていく。
そうしてただ虚しく、パラパラと人生のページをめくる。
父みたいな人生になったとしても、それでも構わないとさえ、思いはじめていた。
僕の人生の「ヒロイン」、雨野コハクが現れるまでは。
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