第27章【Forest】フォレスト

1 トレモロに棲む森の民

【Forest】フォレスト


[意味]

・森、森林、森林地帯

・土地に植林する。


[補足]

ラテン語「foris (外側の)」に由来する。forisとは、印欧語根「dhwer- (扉)」を源流とし、ラテン語「foresta (生活圏の外側にある森林地帯)」を派生語にもち、英語「foreign (外国人)」の語源となった言葉でもある。つまり「forest (森)」とは、あくまで生活圏の外側、扉の外にあたる空間であり、森の内部に人が暮らすというのは、非常に困難をともなう生活様式を意味する。





 春の日差しのなか、ルクウィドの森は穏やかな木陰を作っていた。緑の木々から白い光が差し、苔と草に覆われた地面に栄養を与えている。

「テオドール君、その『森の民』って人たちの特徴を教えてもらえるかな? 人数とか民族とか、どんな構成だとか」

 すっかりいじけて、捜索隊の一番後ろで尻尾を丸めるショーンに代わり、紅葉が、木工所の社長令息・テオドールに質問していた。

「ええ、トレモロに棲む森の民は、主に3つの職業集団です。『木こり、木炭職人、狩人』……彼らはここがトレモロと名付けられる、はるか前から暮らしていました。レイクウッド社は粘り強く交渉し、近年ようやく取引相手として認めて頂いたのです」

 トレモロは、ラヴァ州で最後にできた町である。350年前にブライアン・ハリーハウゼンがサウザス町を勃興したのを契機に、州の最東端のこの地にも、やっと開発の手が入った。

「人数は150人から200人ほど。森の奥地に集落を作り、年単位で少しずつ移動しています。それぞれの仲は非常に悪く、トレモロ町民とも悪いです。婚姻相手は、オックス州やダコタ州にいる森の民と見つけるのだとか」

 紅葉も、エミリア刑事も、木工見習いマチルダも、テオドールを囲んで話に聞き入っていた。居心地の悪いショーンは、円周の外から眺めるように歩いていたが、レイクウッド社の次期社長を期待されるテオドールは、あくまでショーンに語りかけるように話していた。



「まず『木こり』についてお話します。彼らは無口ですが、比較的穏健派です。森栗鼠族や実洗熊族など、ズングリした民族が多いですね。レイクウッド社としても一番やりやすい取引相手です。酒や煙草など嗜好品をコツコツ渡せば仲良くなれます。性画なら一発です」

「そうなんだ、さっそく本屋で買ってこなきゃ」

「平気よ、警察署にいくらでもある」

 見習いマチルダはキャッと顔を赤らめ、紅葉とエミリアを交互に見た。


「逆に一番排他的なのが『木炭職人』ですね。青羆熊族や雲銀狼族など、背が高くて威圧的な民族が多いです。レイクウッド社の人間にも、決まった日時しか会いません。やり取りも必要最低限ですし、交渉は困難です」

「そこをなんとか、テオドール君の力添えをもらえないかな……?」

「……彼らは炭作りのために伐採はもちろん、造林も行っています。レイクウッド社でも造林は行っているのですが……彼ら木炭職人の方が、立場が上です」

 テオドールが難しそうに首を振った。エミリア刑事の話じゃ、レイクウッド社が森すべてを牛耳っているかのような口ぶりだったが……現実はそうもいかないらしい。


「で、一番厄介なのが『狩人』たちです。彼らは3組の中では、かなりのお喋り好きでして、いろいろと情報を提供してくれるのですが……非常に気まぐれで好戦的です。森狐族や空鼬族など、すばしっこい民族が多いです」

「────誰が厄介だって?」

 頭上から声がした。


「イヤッ、ファアアアアアア!!! 久々の獲物だぁーっ!」


 高い木の上から、葉を散らし、奇声をあげ、黒い槍を持った男が降ってきた。

 木工職人のテオドールとマチルダは、すくんでその場から動けなかった。

 紅葉は一気に臨戦態勢になり【鋼鉄の大槌】を振り上げた。

 エミリアは必死で、相手を殺そうとする紅葉に待ったをかける。


「おい、テオドールッ! テメェいいかげんなコト、言ってんじゃ…………ナぃ……ぞぅ」


 謎の男は、黒光りする槍をとり落とし、

 地面に降り立った瞬間に、白い顔で気を失った。

 テオドール、マチルダ、エミリア、紅葉を囲む、円の中心に倒れていった。


 4人がゆっくりと後ろを振り返ると、

 ショーンが呪文の構えをして立っていた。


絵 https://kakuyomu.jp/users/hourinblazecom/news/16817330649557615823

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