第5話

 じっと雨を待ち続けた。あれほど疎ましかった雨を待つ時が来ようとは、わからないものだ。

 村のこと、ニビのことを何度も思い出した。人から嫌われ、逃げてきた俺に今さら自分の人生を歩む資格があるのだろうか。自問しても答えは出ない。

 ただ、この先に俺が求めているものがある気がしてならないのだ。俺はどうしてもそれを確かめたくなった。

 しかし一向に雨は降らない。一週間も経つというのに、こんなことは初めてだ。これまではどの町に行っても大抵二、三日以内には雨が降り出していた。有り金をはたいて買った水と食料はじわじわ減っていき、もう長くは持たない。

 そもそも雨が降る理屈がわからないが、そんなものはないと思っている。だとすると場所が悪いのかもしれない。暑さのために路地裏の日陰にいたが、もう日も暮れることだし、もっと大っぴらに空の下へ出てみよう。

 そうして通りに出た時だ。

 考え事をしていたせいか、人とぶつかってしまった。相手が尻餅をついたので、手を差し出そうとしてはっとした。

 眼前の少女の、目深まぶかに被ったフードから垣間かいま見えた肌が真っ白だったのだ。熱砂のこの町では、日に焼けて浅黒い肌の人間しかいなかったため、異質な気がした。

「あのー」

 声をかけられ慌てて引っ張り上げた。

「す、すまない」

 薄汚れたローブに付いた埃を払い、少女は俺の顔を覗き込んできた。

「んん? あなたもしかして」

 何のことかわからないでいると少女は「ふうん」と言って少し笑った。

「じゃあお詫びとして、ちょっとわたしに付き合って」

 意外と明るい声色に戸惑いつつも俺は訊ねた。

「どこに?」

 少女は得意そうにまた笑った。

「色んなとこ」

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