第4話

 荷運びの仕事をいくつかこなし、幾ばくかの金を得た俺は、持てるだけの水と食料を携えて西へ向かった。

 進むにつれて気温がどんどん高くなり、景色も荒野から砂漠へと変わっていった。その中で俺を最も苦しめたのは強烈な日差しだ。

 身を焦がすような光線に頭がくらくらした。道は開けていて隠れる場所もない。暑さに耐えかねて水を飲めば全身から汗が噴き出し、服の下で張りついて体を冷やす。遠くが歪んで見える中、俺はまとっていた襤褸ぼろを頭から被り、太陽から逃れるように歩みを早めた。

 そうしてどうにか日が暮れる頃にはマハリに着いた。比較的大きな町だ。

 朝早くに出発して今まで強行軍だったので、さすがにくたびれた俺は休める場所を探した。心なしか行き交う人の表情が暗い。

 閑散とした大通りを抜けると噴水があったが、当然ながら枯れている。俺はため息を吐いてそこへもたれた。日陰に入ってじっとしていると、暑さで鈍くなっていた足の疲れが徐々に湧いてくる。

「そこのお前さん」

 前に座っていた露天商が話しかけてきた。ひどく痩せたみすぼらしい老人である。

「お前さん、よそ者じゃろう。なぜこんな町に来た」

「俺は……」

 逡巡しゅんじゅんして、どうにか二の句を継いだ。

「雨を降らせに来た」

 俺の言葉に老人は「はっ」と口を歪めた。

「そんなことができるならお前さんは神じゃな」

 神か……。

 俺は今まで神の勝手な都合でき目に遭ってきた。恵みなんかじゃない。信仰の対象でもない。唾棄だきすべき存在でしかなかった。

 それがどうだ。俺自身が神になれば、もう雨にわずらわされることがなくなるのではないか。

「そうだな、それは悪くない」

 ところが軽口を叩かれたと思ったのか、老人は石の装飾品を投げつけてきた。

「マハリとは美しい場所という意味じゃ。昔はその名に恥じぬ砂漠のオアシスじゃった。それが今や見る影もない。すべては雨が降らなくなったせいじゃ」

 老人は立ち上がると、俺から装飾品をひったくって去っていった。

「なんでもいいから、降らすなら早くしてくれ。できるもんならな」

 不思議と腹は立たなかった。それどころかなぜかやる気のようなものを感じる。マハリでは今の老人のように困窮こんきゅうしている人が大勢いるのだろう。果たして俺は神になれるのか否か。

 日が落ちると気温が下がってきた。砂漠の夜は寒い。俺は風をしのげる路地裏に行くと、昼間とは違った目的で襤褸にくるまった。

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