6-4 わたしは角くんに捕まえられてしまった気分になる

 次は青いローブのドワーフの番。地図では下端の左側の入り口から入って、そこに落ちていたのは「ゆびわ」だった。

 青いドワーフはそのまま「ゆびわ」を拾って、それで一つ目の財宝を手に入れてしまった。


「え、いきなりそんなのってあり?」


 思わずあげてしまった声に、かどくんが苦笑する。


「割とあるんだよね、こういうところは運ゲーだから。まあ、今は可能性を上げる為に、ともかく動き回るしかないね」


 財宝リストの中の「ゆびわ」の光が消えて、金の「ネックレス」が光る。


 青のドワーフの行動はもう終わって、順番は緑のドワーフに移ってしまっていた。地図に浮かび上がる財宝を見逃さないように、わたしは慌てて地図を眺める。

 緑の光に照らし出されたのは「ていてつ」だった。


 次に黄色のドワーフが一つ進んだとき、急にぐいとランタンを引っ張られた。ふわふわと宙に浮いていた体が引っ張られる。怖くて、慌てて角くんのローブの袖を掴んだ。


「どうしたの?」

「なんか、引っ張られてる!」


 ぐい、とランタンが進む。霧の中に誰かがいて、それで引っ張っているんだろうか。それともランタンが勝手に動いている?

 角くんが小走りに手を伸ばして、どんぐりのランタンがぶら下がっている枝を掴んで、それで落ち着いたペースにしてくれた。わたしはランタンから手を離してしまって、両手で角くんの袖を掴む。

 角くんはわたしに袖を引かれて少し歩きにくそうにしていたけど、それでも何も言わずに、ランタンに引っ張られるのもなんてことないみたいに、歩いてくれた。


「ああ、これ、押されてるんだよ」


 濃い霧の中を歩きながら、角くんが声を上げる。


「押されるって……あの、タイルが押されて外に出ちゃうやつ?」

「多分ね。地図だと黄色のドワーフが左側にいて、それで右に一つ進んだよね。その進行方向に大須だいすさんがいたから、そのまま押されたってことだと思う」

「そっか……じゃあ、動くだけ?」


 そこでようやく立ち止まる。角くんがわたしを見下ろした。


「もう止まった。大丈夫、動いただけ」

「それなら、良かった……」


 ほっと息を吐くと、角くんがわたしの顔を心配そうに覗き込んでくる。


「怖かった? 大丈夫?」

「そんなに怖がってるように見えた?」


 わたしの問いかけに、角くんはちょっと眉を寄せただけで、何も言わなかった。

 正直に言えば、先も見えない霧の中でどこかに連れていかれるのは、とても怖かった。わたしの中ではじゅうぶんにホラーな出来事だ。

 大丈夫だとわかった今でも心臓はまだばくばくしてるし、掴んだままの角くんの袖を離せそうになかった。角くんは、それについても何も言わないでいてくれた。


「びっくりして……ちょっと怖かったかも」

「ごめん。このゲーム、子供向けだしどっちかっていうと可愛い感じのゲームだし、怖がらせる要素も暗いってだけだと思ってたから、まさかこんなだとは思わなくて……少し休む?」


 わたしはゆるゆると首を振ってから目を閉じた。そのまま深呼吸する。まだ少し心臓の音が大きい。

 何度かゆっくりと呼吸してから目を開けて見上げたら、眉を寄せて不安そうにしている角くんが見えて、それでわたしは少し笑うことができた。


「もう大丈夫だと思う」


 そう言ったものの、わたしはまだ角くんの袖を握り締めたままだったし、角くんにもそれは伝わってしまっていたと思う。

 それでも角くんは、やっぱりそれについては何も言わないでいてくれたし、袖を掴んでいるわたしの手もそのままにしてくれた。




 黄色の光が「しょくだい」を照らして、それで黄色のドワーフの行動が終わる。それで、わたしの順番。

 かどくんからランタンを受け取りはしたけど、もう片手では角くんの袖をまだ握ったままだった。もう一回深呼吸して、わたしは角くんが広げている森の地図を見る。

 わたしはさっきので、森から押し出される手前まできてしまっていた。地図で言えば一番右端。「けん」が隠されていた。

 まずは左に一つ戻りたい。一つ隣の財宝は「アミュレット」。これは、さっき見たばかりだから、間違えない。わたしが左に移動すると、黄色い光も一つ左に移動する。

 そして、もう一回。


「じゃあ、今度こそ『まほうのつえ』」


 そうやって宣言を光にして、その光で道を作って進む。左に行くか下に行くか悩んで、下に行った。根拠は特になくて──さっき黄色のドワーフに押されたのを思い出して、そっち側に行きたくないって思っただけだ。

 光に導かれて、大きな岩を通り過ぎて、池のほとりの草むらの中に金色の光を見付ける。

 そこまできて、さすがに角くんの袖を離すしかなくて、そっと手を開く。角くんはちょっと自分の袖を見下ろしたけど、やっぱり何も言わないでいてくれた。

 それで、草むらの脇に降り立って、霧に濡れる草を掻き分けて出てきたのは──「ネックレス」だった。


「角くん! 『ネックレス』だった!」


 持ち上げて、飛び上がって、角くんの目の前に「ネックレス」を差し出して見せる。

 金色の粒が連なっているその「ネックレス」は、わたしの指先に絡んできらきらと輝いている。さっきの「ほし」にも似た金色の光は、おとぎばなしなんかで出てくる宝物庫に無造作に積み上げられた宝物みたいだった。


「おめでとう」


 角くんが、わたしの手から「ネックレス」を取り上げた。「ネックレス」を持った手が下から伸びてきて、角くんよりも少し高い位置を飛んでいたわたしの首にその手が回される。わたしは角くんに捕まえられてしまった気分になる。

 角くんは、わたしの首に「ネックレス」をかけると、手を下ろして、わたしの胸元を見て笑った。


「光ってて綺麗で、本当に妖精みたい」


 角くんの言葉がなんだか恥ずかしくて、目を伏せて胸元の「ネックレス」に指先で触れる。確かにきらきらと輝く「ネックレス」は、綺麗だ。


「財宝を勝手に着けちゃって大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないかな、持ってさえいれば。それに、こうしていれば失くさなくて済むよね」


 ちょっと目を上げたら、角くんと目が合って、それで角くんは首を傾けて微笑んだ。それでわたしは、また目を伏せてしまった。





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