決闘2(語り:ミシア)

ミシアは再び構えた。

そして再びショウに向かって走る。

ショウの正面で、再び横に移動…するように見せかけて、ミシアは威力よりも速度を重視した左パンチを打ち込む。


プッシュ「フェイント?!」

パープル「でも見抜いてる!」


ショウはフェイントには反応せず、鞘から片刃剣を高速で引き抜く。

ミシア「(来たっ!!)」

ミシアもそれは分かっていた。魔力を出来るだけ集中させ、左腕を強化する。

斬られるか打ち抜けるか、勝負だ!!


ショウの片刃剣が斬り上がって天を指し、ミシアの左腕が肩から離れて宙を舞った。


アーキル・ケニー「!?」

コノハ「(そんな!?)」

ルディア「(ああ…ミシアちゃんの腕が…!私たちを何度も守ってくれた、腕が…!)」


パープル「(まさか本当に斬るなんて…!)」

パープルはショックを受けた。長らくショウと冒険を共にしていたが、ショウの鉄をも切断する技が人間相手に使われたことは、今まで一度も無かったのだ。


ミシア「くうっ(駄目だったか!でもこの隙に!)」

ミシアはこうなることも覚悟していたので、即座に右パンチに切り替えた。

左パンチが耐えられれば良し、そうでなければショウが油断した隙に右パンチを叩き込む、というのがミシアの計画だった。

普通は腕を切り落とされれば、激痛で行動不能になる。しかしミシアは腕の痛みを感じないので、気にせず行動できる。

ショウはそれを知らないはずだから、これでミシアが行動不能になったと思って隙が出来るだろう。


プッシュ「(さすがショウ。だが、まだ…いける!)」

プッシュとてショウが人間相手にここまでするとは思っていなかったが、反射的に次の戦術を判断していた。

ショウの片刃剣は一瞬で2回斬れるほどの速度があることをプッシュは知っている。


そして、ショウは油断していなかった。

ミシアの右腕の動きの兆候を捉えると、斬り上げた片刃剣を今度は振り下ろした。

ミシアの右腕が砂浜の上に落ちる。


ミシア「うわぁ!(そんなに速いなんて!)」

これ以上はミシアは事前に考えていなかった。

しかし身体は反射的に動いた。左足を軸に身体を一回転させ、右足で蹴りを繰り出す。

ミシア「(こなくそっ!)」


しかしショウはそれも見切った。

片刃剣を二閃。

ミシアの蹴り足と軸足の太ももに剣閃が走り、両足とも胴体から離れる。


ミシアは砂浜に倒れ落ちた。

ミシア「う…うわああぁぁ?!!」

ミシアは悲鳴を上げた。

ミシアは手足の感覚が無いので、斬られても痛みは無い。しかしさすがに両手両足を失ったのはショックが大きかった。


ショウはミシアの前に立った。

片刃剣を鞘に納めたが、いつでも剣が抜けるように柄を握っている。

そして冷静な目で足元のミシアを見つめた。

さすがに命まで奪うつもりは無かったが、相手がこの状態からまだ攻撃してくるようなら…。


と、ショウは後ろに大きく飛び退いた。

直後に、ショウが立っていた場所の砂浜が弾ける。

アーキルが跳び込み、両手剣を叩き付けたのだ。


アーキル「おいおい、ショウさんよぉ。いくら何でもそれはやりすぎだろう…!!」

アーキルは怒りに燃えた目でショウを睨みつける。

ショウはその目を真っ向から見返した。

ショウ「手加減はしないと、言ったはずだ」


ケニーたちも倒れているミシアに駆け寄った。

ケニー「治癒魔法をかけます!腕を拾ってきてください!」

コノハとルディアが(ルディアは泣きながら)ミシアの腕を拾いに行く。

パープル「わたしも手伝うわ!治癒魔法なら使えるから!」

ケニーは同じく駆け寄ってきたパープルをちらっと見た。

ケニー「お願いします!」

パープル「でも、治癒魔法で傷は塞がって繋がると思うけど、元通り動くようになるかは…」

骨や筋肉や血管は治癒魔法でなんとか繋がるが、神経がちゃんと繋がるのは難しい。普通は動かせなくなってしまうのだ。

しかし。

ケニー「ミシアに関しては、その心配は無用です。とにかく繋いで傷を塞いでください!」

パープル「分かったわ!」

ケニーとパープルは、ミシアの手足を元の形になるように置き、全力で治癒魔法をかけた。


その間も、アーキルとショウは対峙していた。

アーキル「傭兵は喧嘩っぱやいから、よく殴り合いをするもんだ。しかしそれ以上の事はしねえ。かなりキレたときでも、せいぜい骨を折る程度だ。骨ならくっつきゃまた戦えるからな。

だが、これはやりすぎだ。下手すりゃ死ぬし、生きてたとしてももう戦えねえ。傭兵が戦えねえってことは、死んだも同然だ」

アーキルは冒険者になる前は傭兵だった。アーキルのようなサラム人にはよくあることだ。ショウもその背景は理解した。

ショウ「私は傭兵ではない。しかし言いたいことは分かる。冒険者とて、命に関わるような争いはしない。

だが今回は、私はチャーリーの…弟のために、絶対に譲るわけにいかないし、ミシアさんもそれは同じだろう。

ミシアさんの気迫がそれを物語っていた。私はそれに応えたまでだ」


アーキルは怒っていたが、ショウの弁明を聞いて引っかかる事があり、少し冷静になった。

アーキル「…ん?ちょっと待て。今なんて言った?」

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