決闘1(語り:ミシア)

決闘の場所は、共にジャイアントオクトパスと戦った浜辺ということになった。


重苦しい雰囲気で双方無言のまま、洞窟を戻り、地上に出て、小船に乗って浜辺まで戻ってきた。


ショウ「決闘の方法は?」


冒険隊パーティーの人数だけで言えば、エスウィングは5人、ショウパーティーは3人で、エスウィングの方が多い。

しかしメンバーの熟練度からすれば、ショウパーティーの方が間違いなく格上。

同数の3人ずつで戦うことにでもなったら、ショウパーティーが断然有利だ。


そもそもショウたちと張り合えそうな実力を持っているのは、エスウィングにはアーキルしかいない。

アーキルも熟練の冒険者であり、同じ魔物を倒すという勝負なら、ショウと同格だろう。もっとも、アーキルは重剣士・ショウは斬剣士という違いはあるので、例えばラスタングという魔物(金属を錆びさせる能力を持つ)が相手だと、アーキルは武器の重さで斬るので錆びてもまだ大丈夫だが、刃の鋭さで斬るショウだと不利になるかもしれない。

しかし1対1の対戦なら、ショウの方が有利だと思われる。ショウの方が素早いし、鉄をも斬れるので、アーキルの両手剣グレートソード金属鎧プレートアーマーが役に立たない可能性があるからだ。


アーキル「代表者を1名ずつ出し、1対1で勝負だ」

ショウ「承知した」

ショウは迷わず承諾し、ショウパーティーの代表として前に進み出る。


アーキル「こっちは…」

ミシア「ボクが出るよ」

アーキル「いいのか?相手の方が遥かに格上だぞ?」

ミシア「分かってる。けど、あの子を助けたい気持ちは、アーキルよりボクの方が上だと思う」

ルディア「ミシアちゃん…」

アーキル「…よく分かってるじゃねえか」

アーキルも戦うならば手を抜くつもりは無かったが、そもそも船に乗って海に行くような依頼を引き受けること自体にあまり乗り気ではなかったのだ。

コノハ「そんな!本気なの?!とても勝ち目があるようには…」

ケニー「…ここは、ミシアに任せましょう。助けたい気持ちが一番だと言うなら、自分で戦った方が納得がいくでしょう」


進み出たミシアを見て、ショウはちょっと意外そうな顔をしたが、すぐに表情を引き締める。

ショウ「手加減はしないぞ?」

ミシア「こっちだって!」

2人は距離をとって対峙する。

それぞれのパーティーメンバーは離れたところから2人を見守る。

薬の小瓶は、双方のパーティーから等距離にある岩の上に置かれた。


ショウは姿勢を若干低くし、腰に差した鞘に納められている片刃剣の柄を握った。

片刃剣は、薄くて軽い刃とショウの腕前で、鉄をも両断することが出来る武器だ。その切れ味は、ミシアもこれまでの戦いで何度も見てきた。

ショウの長い黒髪が潮風になびく。


ミシアも両腕を上げて格闘の構えをとり、魔法を使うために精神を集中する。

ミシアは自らの手足を操作する魔法を発展させ、肉体強化魔法としても使えるようになっている。シャチに噛まれたのを防いだときのように肉体を強化して相手の武器を受けることが出来れば、勝機がある。


ショウはミシアの出方を窺っている。

ミシアはショウに向かって駆け出した。足が浜辺の砂を踏みつけ、砂煙が舞う。

ショウの正面、もう少しでショウの剣の間合いに入るというところで、ミシアは地面を蹴って左に移動した。

そのままショウの横に移動し、さらに背後まで回り込む。

しかしショウは微動だにしない。

ミシアは反対側をまわって、結局ショウの正面に戻ってきた。


プッシュ「きたねえ、煙幕かよ?!」

ミシアがショウの周りを走ったことで、砂煙がショウを包んでいた。

パープル「周りにあるものを利用するのは、卑怯なことじゃないわ」


ショウは落ち着いていた。

周りを砂煙に囲まれても、小さな音で気配は察知できる。砂が目に入らないように目を閉じて、辺りに気を配る。

不意に、ショウに近付く――飛んでくる――気配を察知した。

ショウは抜剣し、飛んでくる気配を切り裂いた。片刃剣はすぐに鞘に戻る。


びしゃっ。


ショウに水がかかった。

ショウが斬ったのは、ミシアが砂煙の外から投げ入れた水袋だった。


ミシア「かかったね!」

ショウは閉じていた目を開いて、正面にいるミシアを見た。砂煙はもう収まっている。

ミシアは腕組みをして、胸を張って立っていた。

ミシア「えっへん!もし今のがただの水じゃなくて毒だったら、ショウさんはとんでもない事になってたよ?だからボクの勝ちね?」


アーキル「あいつ…」

コノハ「ミシアらしいっちゃ、らしいわね」

ルディア「はい…入隊試験のことを思い出します」

ケニー「しかし、今回の相手が納得してくれるかどうか」


ショウ「…なるほど、本当に毒が入っていたのであれば、酷いことになっていたかもしれない。

しかし例え毒を浴びても、私は戦いをやめない。私を納得させたいならば、本物の毒を持ってくることだ」

ミシア「ちぇっ、頑固者だなぁ」


プッシュ「あのチビ、せこい事を思い付きやがって!」

パープル「でも、本当に毒が入っていたら…。何でも斬るのは、確かに危険かもしれないわね」


ミシアはちょっと思案した。

ローパーの毒でも持ってくれば良かったかなぁ。

あと毒っぽいものと言えば…魔畜瓶に入っている魔液?(魔液は肌に直接触れると火傷したような症状が出る)

いや、毒なんて本当に使うつもりは無い。2度目も通じるとは限らないし。

ショウさんには、やっぱり真っ向から勝負だ!

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