シャチ(語り:パープル)
ギクトパスがシャチに乗って逃げたので、脅威は去った。
あとは目的を果たすだけだ。
ミシア「じゃあ、薬を取りに行こう」
洞窟の手前と奥を隔てる水の中には、よく見ると橋があった。水面の下ぎりぎりに浮いているので分かりづらかったが、その上を通って向こう側に渡れそうだ。
ミシアはうきうきと足を踏み出した。
ショウ「待て!」
再び水面がざばーん!と割れ、逃げたと思われたシャチが飛び出した。(ギクトパスは本当に逃げたようで、シャチに乗っていない)
そしてミシアの腕に噛み付き、ばしゃーん!と水中に引きずり込んだ。勢いで海中魔灯は手から離れてしまった。
ミシア「うごごごご…」
ミシアは腕をシャチに噛まれていても(拷問の後遺症により)痛みは感じなかったが、このままでは腕を喰い千切られると瞬時に悟った。
腕に魔力を込めて肉体を強化し、必死に抗う。魔法の発光現象で、黄色い光が放たれた。
急に水中に引きずり込まれたので、息も苦しい。
ミシア「ううぅぅ…ごぼごぼごぼ」
水上からは、魔法の発光現象と思しき光と、それに遮られる形でシャチの黒い影がかろうじて見て取れた。
光と影は、洞窟の横壁に向かって動いている。
パープル「壁に向かってる?!」
ショウ「いや、おそらく…水中では外の海と繋がっているのでは?」
ルディア「それじゃ、ミシアちゃんが連れ去られちゃう…!」
パープル「プッシュ、どうにか出来ないの?!」
プッシュ「炎の魔法は水中じゃ効果が薄いし、氷の魔法じゃみんな凍っちまう」
プッシュは炎の魔法だけでなく氷の魔法を使うことも出来るのだが、今使うのは得策ではない。
ケニー「くそっ!!」
ケニーはよく見えない水中に、シャチの前方と思われる場所に当てずっぽうで魔法の壁を立てた。ケニーの防壁魔法は、基本的に空気中に魔法の壁を作るものだが、柔らかい場所、すなわち水中にも作ることが出来るのだ。
勢いよく動いていた光と影が、壁を立てた辺りで急に止まった。首尾よく魔法の壁に激突したのだろう。
アーキル「やったか?!」
パープル「チャンス!」
パープルは水に飛び込んだ。思いのほか海水の透明度は高い。水上から入ってくる海中魔灯の光でもシャチの場所が分かる。
止まっていたシャチが、再び動き出した。
ミシアを咥えたまま向きを変え、パープルの方に向かってくる。
パープル「(その子を…放しなさい!)」
パープルはシャチの突進をかわし、すれ違いざまに急速老化魔法をお見舞いした。
シャチはミシアを放して、今度こそ完全に動きを止めた。
パープルはミシアを抱えて浮上する。
ルディア「ミシアちゃん!」
プッシュ「パープル!無事か?!」
パープル「ええ!それより、この子をお願い!」
パープルはミシアを陸上に残っていたメンバーに引き渡した。
ケニー「しっかりして下さい!」
ケニーはミシアに応急手当を施した。
ミシア「げほっ、げほっ。…はあ~」
ミシアはぐったりしていたものの、かろうじて意識は失っていなかったので、すぐに回復した。
ミシア「ふう~…。…ケニー、ありがとう」
ケニー「お礼なら、パープルさんに。水に潜ってミシアを助けてくれたんです」
ミシア「…パープルさん、ありがとう。また助けてもらって」
パープル「いいのよ。ローパーではこちらが助けてもらったんだし、お互い様よ」
プッシュ「それにしても、よくシャチに腕を喰い千切られなかったな。シャチのアゴって、強いんだぜ」
ミシア「強化魔法にはちょっと自信があるからね!」
ミシアは魔法の発光現象で光ったままの腕を見せて、強化をやめた。光が収まる。
アーキルとショウは水中を警戒していたが、これ以上何かが現れる気配は無さそうだ。
アーキル「もう、大丈夫だろう」
ショウ「ああ」
ケニー「僕の防壁魔法で外の海との通路に蓋をしてますから、大物が新しく入ってくることもないでしょう…。他に出入り口が無ければ、ですが」
ミシア「じゃあ、今度こそ!」
ショウ「私も行こう」
ミシアとショウは警戒しつつ、水面下の橋を渡った。
そして今度は何者にも襲われることなく、ついに台座まで辿り着いた。
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