ギクトパス

ミシアたちエスウィングと、ショウたちショウパーティーは、一緒に洞窟を進んできた。

そして洞窟の最奥と思われる、ひときわ広い場所に出た。


そこは手前と奥の陸地が水で分断されていた。

洞窟の奥を海中魔灯ランタンで照らすと、壁際に台座のような物が設置されていた。そこに薬があると思われる。

洞窟を分断している水は、前に通ってきた浅瀬とは違い、かなり深そうだ。


アーキル「いかにもって感じだな…」

ショウ「ああ。…水中に何か居そうだ」

慎重に水辺に近付いていく。


果たして、水面にぼこぼこと泡が湧き立ち始めた。

一行「!」

水中からいくつもの赤い物が飛び出した。そのまま一行の頭上を飛び越え、洞窟の入り口――一行の背後に着地する。

コノハ「逃げ道を塞がれた?!」

ケニー「あれは…空飛ぶエビ型の魔物…フライエビ!」

外見は人間が抱えられそうなサイズの大きなエビだが、しっぽで陸地を叩き、ぴょんぴょんと跳んでいる。

プッシュ「いや、その上位種の…エビフレアだ!気を付けろ!炎を吐いてくるぞ!」


エビフレアは口から火の玉を吐いて飛ばしてきた。

アーキルは両手剣で防いだ。

ショウとコノハは避けた。

ルディアに飛んできた火の玉はケニーが防壁魔法を張って防いだ。

ケニーに飛んできた火の玉はミシアが、プッシュのはパープルが、それぞれガードする。


コノハが矢を放ち、エビフレアを1匹しとめた。

アーキル「大した強さじゃねえな。コノハ、ルディア、ミシアに任せる!」

コノハ・ルディア・ミシア「了解!」

ミシアはエビフレアに殴りかかった。はさみでミシアの拳が受け止められる。エビフレアはミシアの拳を切断しようとして力を込めたが、しかし魔力を込めて硬さが強化された拳はびくともしなかった。

ミシア「へへん!どんなもんだい!」

ルディアの刺突剣レイピアはぴょんっと避けられたが、避けた先でコノハの矢が突き刺さる。

ミシアが動きを抑え込んでいるエビフレアにも矢が刺さる。


ショウ「他の者は、水中を警戒!まだ何か来るぞ!」

水中から、白いクラゲが十数匹、ふわふわと空に浮かび上がってきた。

ケニー「クラゲですね!これも麻痺能力持ちです!」

パープル「数が多いわね?!」

アーキル「だが、こんなノロマは相手じゃねえよ!」

アーキルの両手剣グレートソードの一薙ぎで、数匹の浮クラゲが吹っ飛ぶ。

ショウも剣を振るい、一閃で数匹の浮クラゲを両断する。ショウの武器は片刃剣。刃が薄くて軽く、速さで斬ることに特化した武器だ。

2人の活躍で、瞬く間に浮クラゲは全滅した。

プッシュ「我が軍の圧勝だな!」

パープル「油断しないで!まだ来るわ!」


今度は、人間大の黒いタコのような魔物が1匹、陸に這い上がってきた。ネコのような耳とひげも付いているのが特徴的だ。

ケニー「これは…ギクトパス!」

アーキル「はっ、こんなチビ、一撃だぜ!」

アーキルはギクトパスに駆け寄り、両手剣を頭に振り下ろした。

さらにショウも駆け寄り、片刃剣を横に一閃。

ギクトパスは哀れ4つに切断された。

パープル「やった!」

しかし。

4つの断片はぐにょぐにょと形を変えて膨らみ、それぞれが元のギクトパスと同じ大きさ同じ形になった。

プッシュ「ばか、ギクトパスには複製クローンという特殊能力があるんだ!切ったら分裂するぞ!」

アーキル「そういう事は先に言え!」

ケニー「言う暇も無かったじゃないですか!」

ショウ「斬ってはいけないという事か?!」


パープル「それなら、わたしが!」

格闘士であるパープルが、ギクトパスの1匹にパンチとキックの連打を浴びせる。

…分裂はしなかったが、大したダメージにもなっていない。

パープル「それなら…あまり使いたくなかったけど、仕方ない…」

パープルは拳を構え、深く呼吸する。

パープル「はっ!!」

そして正拳突きを叩きつけた。接触面が激しく光を放つ。

光ったところからギクトパスの体がぼろぼろと崩れていった。

アーキル「ひゅう、すげえ」

パープルの必殺技、急速老化魔法だ。


パープルは治癒魔法を使えるが、治癒魔法は肉体の治癒力を活性化させるもので、重傷の傷には効かないなど、弱点も多い。

そこでパープルは治癒魔法を強化し、細胞そのものの営みを高速化させることをイメージした新しい魔法を作ろうとした。

しかしその結果出来たのは、細胞を急速に老化させて死に至らしめる魔法だった。

とても人間相手に使えるものではない。

だが、魔物と戦うには必殺技となった。魔素マナから出来ている魔物であっても、生物の形をとっている以上、その体は生物と同様の仕組みで動いているからだ。


プッシュ「おれも続くぜ!」

プッシュは両手を2匹のギクトパスの方に向けた。

プッシュ「今度こそたこ焼きになりやがれ!」

手の平から巨大な炎が噴き出す。その大きさは、エビフレアの火の玉の比ではない。

炎はギクトパスを包み込み、そのまま焼き尽くした。

プッシュ「見たか、大攻魔士プッシュ様の力を!」

ミシア「すごい!」

ちょうどミシアたちはエビフレアを片付けて、アーキルたちに加勢しようとしていたところだった。


コノハ「こんな炎の魔法を…」

プッシュは自信に満ちた様子で炎の魔法を鮮やかに操っている。

コノハ「(それに引き換え自分は…)」

コノハも強力な炎の魔法を使えるが、それは自らの憎しみを源にしているので、コノハは自身の炎の魔法を嫌っていた。


アーキル「残りは、あと1匹だな」

残ったギクトパスは、触手を1本上げた。

アーキル「…なんだ…?」

アーキルたちは剣を構え直した。


それは、水中への合図だった。

ざぱーん!

水中から黒い大きな魚が飛び跳ねる。

ギクトパスは魚の背に飛び乗った。

そのままざぶーんと水に潜る。

そして…浮上してくる様子は無い。


アーキル「逃げやがった?!」

ケニー「今の黒いのは…知らない魔物ですね…」

プッシュ「今のは魔物じゃない。普通の生物だ。たぶんシャチだな」

ケニー「そうか…。ギクトパスは様々な生物を手なずけるという能力も持っているんでしたね」

ショウ「目的は討伐ではないから、逃げてくれるのならそれでも結構だ」

アーキル「そうだな」


ミシア「それにしても、ショウさんたちはやっぱり強いね!」

ショウ「君たちもな」

プッシュ「ああ、あの子供がこんなに強くなってるなんて、驚きだぜ」

パープル「ええ、本当に」

ミシア「へへ~」

ミシアは誇らしそうに照れ笑いした。

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