ラリル村(語り:ローラ)
ミシア達は浜辺沿いの道を進み――実際は、道沿いの浜辺を歩き――、昼前に、目的地であるラリル村に到着した。
ラリル村は海岸沿いにある村だけあって、住人のほとんどはウィンズ人だ。
ウィンズ人は青味をおびた肌色をしており(オラク人が赤味のおびた肌色をしているのと同様に)、水に潜る魔法に長けている人種である(シルフ人が空を飛ぶ魔法に長けているのと同様に)。
ウィンズ人は泳ぐのが好きなので、いつでも水に入れるよう、袖が無くて身体にフィットした軽い服を着ている。また、男女ともスカートを穿いていることが多い。
ローラ「ようこそ、ラリル村へ。私は村長のローラと申します」
ミシア達が泊まる予定のラリル村の旅館『レ=ローラ』に到着すると、村長のローラが出迎えてくれた。ローラは村長というイメージにはまだ若い、女性のウィンズ人だった。
ミシア「ボクが!甘いはちみつ亭の看板店長、ミシア!です!」
ミシアがローラの前に出て、拳を腰に当てて胸を張る。
すかさずタリアがミシアの右側に片膝をついてしゃがみ、両手をミシアの方に向けてひらひらと振る。
タリア「ほら、あんたも!」
タニア「え?こんな所でやるの?」
タニアは慌ててタリアの逆側で同様の姿勢をとる。
ローラ「これはご丁寧に、ありがとうございます。遠い所からお越しになって、お疲れでしょう。どうぞごゆっくりお寛ぎください」
ローラは微笑みながら頭を下げた。
急に妙なポーズを見せられても全く動じないその姿に、アーキル達は戦慄した。
アーキル「動じねえな」
コノハ「動じないわね」
ケニー「さすがです…」
ライラ「まぁ~、村長さんが自らお出迎えなんて~、わざわざ、ありがとうございます~」
ローラ「いえ、村長なんて名ばかりですし。ここは私が経営している宿屋なんです。ラリル村の住人のほとんどは、漁業と宿泊業で生計を立てていますから」
ルディア「そうなんですね」
ケニー「アースクースも似た感じでしたね」
ライラ達がローラに挨拶しているのを見ていて、ミシアはローラのスカートの脇に太い糸が付いていることに気付いた。
ミシア「あ、村長さん、スカートにごみが付いてるよ」
ミシアは、その糸を取るために掴んだ。
ケニー「あ、それは…!」
ケニーは湖の国アースクースの出身であり、アースクースにはウィンズ人も多く住んでいたので、それがごみではなく重要な紐であることを知っていた。しかし止める間もなく、ミシアは掴んだ紐を引っ張った。
すると、ローラのスカートがくるくると巻き上がった。
ローラ「きゃあっ」
アーキルはそれを見ていた。
アーキル「おお、これは…!」
コノハ「見るんじゃないっ!」
素早く状況を察知して、コノハはアーキルの目玉に人差し指と中指を突っ込んだ。
アーキル「ぐわあっ、目が、目がぁ!?」
ルディアもケニーの目を手で塞ぐ。
ルディア「見ちゃ駄目です!」
ケニー「見てませんよぉ」
タリア・タニア「お姉さま?!」「おねえちゃん?!」
ミシア「うわあ。ごめんなさい!」
慌ててミシアは手を離した。
ローラ「…いえ大丈夫です。知らない方には分からないでしょうから」
ローラは恥ずかしそうに苦笑しながら、スカートを元の形に戻した。
ローラ「ウィンズ人は人魚の姿――下半身が魚――に変身する魔法を使える者が多いんです。変身しても服はそのままですから、スカートが泳ぐ邪魔にならないように、こうして巻き上げて小さくすることが出来るようになっているんです」
アーキルは「パンツは変身するとき邪魔にならないのか?」と思った(パンツを穿いていることは直に見て分かっていた)が、口にすると皆から白い目で見られることが必至なので(特にコノハから何をされるか分かったもんじゃないので)、言うのを我慢した。が。
ミシア「パンツは邪魔にならないの?」
ミシアはストレートだった。
タリア・タニア「お姉さま?!」「おねえちゃん?!」
ローラ「それは当然の疑問ですね」
しかしローラは取り乱さずに答えてくれた。
ローラ「パンツやズボンを穿いていると、それが邪魔して変身することが出来ません。だから、ウィンズ人は男女ともスカートを穿いていることが多いです。
それで、変身するときはパンツを脱いで、スカートを巻き上げるときに一緒に入れておくんです。そうすれば失くしませんからね」
ミシア「へぇ、よく出来てるね!」
ケニー「そうなんですよ」
感心するミシアに対し、ケニーが相槌を打つ。
コノハ「…知ってたんなら、止めなさいよ」
コノハが白い目でケニーを見るので、ケニーは慌てて反論した。
ケニー「止めようとはしましたよ!」
ミシア「まぁまぁ。ケニーに悪気は無かったんだしさ」
ケニー「どうして僕が悪いみたいになってるんです?!」
ミシア「それより、早く遊びに行こうよ!」
タニア・タリア・ルディア「「お~!」」
ケニー「ええ~?」
言い分を聞いてもらえず、取り残されるケニー。
アーキルは同情するような沈痛な面持ちでケニーの肩に手をぽんと置いて、何も言わずに首を振った。
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