ジャイアントオクトパス(語り:ケニー)

浮き島の操縦士が言っていた通り、歩いて海に近付くのも良いものだった。

潮の香りがただよってきて、丘の先に見え隠れしている海が、歩くたびに徐々に広がってくる。

ミシア「うわ~、やっぱりすごいね~!」


浜辺に着いたミシアやタニア達は、走り出した。

ミシア「うわ、水が…行ったり来たりしてるよ」

ケニー「それは波ですね」

波なら村の近くにある泉でも起こるが、それとは大きさが全然違う。

海の波が跳ねて、ミシアの顔にしぶきがかかる。

ミシア「うわっ、しょっぱい!」

ケニー「海は塩水ですからね」

ミシア「ひえー、これ全部塩水なの?」

ミシアは周りを見回した。

ミシア「ん?」


ミシアは右の方の浜辺の先に、何か巨大なものを発見した。

そして、それと交錯する人影。


ミシア「誰かが戦ってる!」

全員、そちらの方を見た。

ミシア「助けなきゃ!」

ミシアは走り出した。皆も続く。


ケニーは走りながら、行く先に見える魔物を観察した。巨大なタコだ。

ケニー「あれは…ジャイアントオクトパスでしょうか。かなりの強敵です!」

ミシア「あっ、それは知ってるよ!海水浴に来た女の子を絡めとって、水着を脱がすやつだ!」

ケニー「どういう知識ですか、それは?!そんなわけないでしょう!?」

ミシアの知識は、サティが持ってきた大人の絵本によるものだった。

ケニー「ジャイアントオクトパスやクラーケンは…巨大なタコやイカの形をした魔物ですが、大きな船に巻きついて破壊するほどの怪力なんです。人間なんか、骨までばきばきにされちゃいますよ!」


ミシア「えー、そうなの??じゃあ、スライムが女の子の服を溶かすっていうのは?」

ケニー「そんな話も聞いたことがありませんよ!スライムは肉や骨を溶かすんです、人間なんか髪の毛しか残りませんよ!」

ミシア「下の毛も残らない?」

タリア「なに言ってるんですかお姉さまぁぁ!?」

ミシア「だって気になるじゃん?」

ケニー「それに言及されている報告は聞いた事がありませぇーーん!!」


アーキル「バカ言ってねえで、準備しろ!」

ミシア達は話しながら走っていたが、そろそろジャイアントオクトパスに近付いていた。


戦っているのは冒険者のようだ。アーキルは戦っている者たちに声をかけた。

アーキル「助太刀するぜ!それとも、手を出さねえ方がいいか?」

冒険者の不文律。先に戦っている者がいる獲物に、手を出さない。


剣士「いや、手を貸してくれるなら助かる!」

剣を手にしている黒髪の冒険者が声を張り上げた。女性の声だ。言いながらも、ジャイアントオクトパスの気がアーキルに逸れた隙を見逃さず、敵の足を1本鮮やかに斬り飛ばす。

アーキル「分かったぜ!」

アーキルも両手剣グレートソードで斬りかかる。意外と硬い弾力に阻まれそうになったが、力でねじ伏せ、足を斬り裂いた。


もう一人接近戦を挑んでいるのは、ミシアと同じ女性の格闘士だった。

格闘士「ふんっ!」

ミシアとは違う大きな胸を揺らしながら拳でジャイアントオクトパスの足を弾き飛ばし、剣士を援護している。

格闘士を狙う足を、ミシアが飛び込んで防いだ。

格闘士「ありがとう!」

ミシア「にししっ、どういたしまして!」


剣士とアーキルによって、ジャイアントオクトパスの足は瞬く間に減ってゆく。

それを見て、戦っていた3人の冒険者の中の唯一の男性が声を張り上げる。

攻魔士「よし、止めはおれの火炎魔法で、ジャイアントたこ焼きにしてやるぜ!」

しかし、それには女性の格闘士が反対した。

格闘士「無駄なことはやめなさい!」

攻魔士「けどよう。おれ様の格好いいところをギャラリーに…」

格闘士「魔力は温存しなさい!」

攻魔士「ちぇー」

男性の攻魔士は不服そうだったが、結局魔法は使わなかった。


全ての足を失ったジャイアントオクトパスは動かなくなり、やがて魔液に変化した。

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