スタンガルドの国王(語り:アーキル)
首都オルジェクトでは、ミシア達は冒険者ギルドではない普通の宿屋に泊まることにした。冒険者として仕事をしに来たわけではないからだ。
ミシア達は、昼間は水着を買いに行ったり街を観光したりして過ごした。
そして夕食時がくると、宿屋の近くのレストランに適当に入った。
ミシア「ねえねえ、お城って王様が住んでるんだよね?どんな人なのかな?」
ミシアの両側に座ったタニアとタリアから食事を口に入れてもらいつつ、ミシアが訊ねる。(手が不器用でスプーンも上手く握れないミシアは、こうやって妹たちに食べさせてもらうことがある)
アーキル「なんだおまえ、そんなことも知らんのか?」
ミシア「アーキルは知ってるの?」
アーキル「そりゃ、一応オレもこの国に住んでるんだからな。とはいえ、最近のことはオレも知らんがな…ちょうどいい、聞いてみるか」
レストランの片隅で歌を披露している吟遊詩人に、アーキルは手を挙げて合図を送った。
しばらくして、歌い終わった吟遊詩人がアーキルの所にやって来た。
吟遊詩人「お呼びでしょうか?」
アーキル「ああ。ちょっと話を聞かせてほしくてな」
アーキルは金貨を1枚握らせた。1000セッカ。1時間働いて1000セッカならまぁまぁの稼ぎという金額だ。ちょっと話を聞くだけなら充分だろう。
ミシア「なんで吟遊詩人の人に聞くの?」
アーキル「吟遊詩人はいろいろな噂を聞いて情報を持ってるもんさ」
ミシア「そうなんだ?…吟遊詩人から情報を聞くなんて、なんか冒険者っぽーい!」
アーキル「だろ?」
コノハ「そう?」
吟遊詩人「まぁ、情報を知っているといっても人並みですが」
得意げなアーキルとは対照的にコノハは首をかしげ、吟遊詩人は苦笑した。
吟遊詩人「それで、どのようなお話をいたしましょうか?」
アーキル「この国の王について教えてくれ。なにせこいつら田舎者だから、自分の国の王のことも知らねえんだ」
ミシア「なんだよう。アーキルだって知らないって言ったじゃないか~」
アーキル「オレは最近のことは知らんと言っただけだ」
吟遊詩人は手にした楽器をポロン♪と鳴らした。
吟遊詩人「では…。現在の国王様は、名をセレティアム=イル=スタンガルドといいます。通称、『武の賢王』。武力に秀でた賢い王という意味です」
ミシア「武力?強いの?」
吟遊詩人「この場合は個人の強さではなく――剣の技量もかなりのものとのことですが――用兵の上手さのことです。
つい最近も騎士団と傭兵団を率いて北の『強欲の国ガーヴァ』と戦い、町をひとつわが国の領地にしたそうです」
アーキル「ガーヴァか…」
強欲の国ガーヴァ(そこに住む当人たちは『強者の国ガーヴァ』と呼ぶ)は、オラクルード地方の主要7国のうち、最も好戦的な国だ。
この7国は数年に一度合同会議を開くほどの連携はあるのだが、ガーヴァは領土拡大の野心を捨てないのだ。
昔から、隣接する『普通の国スタンガルド』や『芸術の国フェックス』と国境争いをしている。(『魔法学院国ヤードック』とも国境を接しているが、さすがにヤードックには侵攻していない)
ミシア「戦争なんかしてたの?!」
アーキル「まぁな。傭兵にとっちゃ、食いっぱぐれずに済んでありがたいこったが」
タリア「街には活気があって、戦争しているような雰囲気ではありませんでしたが…」
吟遊詩人「そこが賢王と言われる所以です。戦争をしつつも、国の統治は平時と同様に行われているのです。戦争のための増税などもありません。むしろ戦争特需で好景気と言えるかもしれません。
前国王は『治の賢王』と呼ばれ、統治は優れていましたが、領地を広げるような戦争はしませんでした。
現国王は、前国王より優れていることを示すために、統治は前国王と同等に行い、さらに領地を広げようとしているのだそうです」
ミシア「ふーん…」
アーキル「ま、良くも悪くも、オレが知ってる話と変わってねーってことだな」
アーキル「話を聞かせてくれて、ありがとよ」
吟遊詩人「いえ、こちらこそありがとうございました」
アーキルは追加で金貨をもう1枚渡し、吟遊詩人は去っていった。
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