ライラの過去(語り:ライラ)


それは、タニアが2才の時のことだから、今から11年前の話になる。


タニアが原因不明の高熱を出したのだ。

ハルワルド村の医士パブリでは手の施しようが無く、タニアの両親は、村の馬車を借りて急いでタニアをパーマスの町へ連れて行った。(両親が不在の間、5才のミシアは村長に預けられた)

折りしも大雨が降っていたが、止むのを待っている余裕は無かった。


幸いにして、パーマスの町の女医スティッキーのところにあった特別な解熱剤が効いて、タニアの症状はすぐ治まった。


村にミシアを残してきた両親は、なるべく早く帰りたかった。

大雨の後に崖に魔物が出るという言い伝えは知っていたが、冒険者を護衛に雇うことで、川の増水が収まるのを待たずに村へ帰ることにしたのだ。

そのときに雇われた冒険者が、ライラたちだった。

ライラたちはタニアの両親から事情を聞き、護衛の依頼を引き受けたのだ。


しかし、ライラたちは失敗した。


4匹のトラキャットに襲われ、2匹は撃退できたものの、ライラの仲間たちは相打ちになっていた。

馬車も崖の下に落ち、残ったのは2匹のトラキャットとライラ、タニアの両親とタニア。

ライラ一人で2匹のトラキャットを倒すのは不可能だ。

そう悟ったタニアの父親は、身体を張って谷の方に1匹を誘導し、襲い掛かってきたトラキャットもろとも崖下の川に転落した。

もう1匹もライラ1人では抑えきれず、トラキャットはタニアを襲った。そしてタニアを庇った母親をトラキャットが切り裂いた隙に、ようやくライラはトラキャットに止めを刺すことが出来たのだ。


そうして生き残ったライラは、タニアだけを連れて、ハルワルド村に辿り着いた。


・・・


ライラ「それが、この場所なの…」

ライラは花畑を前にして、語り終わった。


ミシア「…じゃあ、ここが…お父さんとお母さんが死んだ場所…」

タニア・タリア「…」

ライラ「本当に、ごめんなさい。あのとき、私たちに…私に、もっと力があれば、あなた達のご両親を死なせずに済んだのに…。ごめんなさい…」


アーキル「仕方ねえよ。トラキャットは、なかなかの強敵だったからな」

アーキルが不器用なフォローをする。

コノハ「ちょっと、アーキル!言い方ってものが…」

ライラ「あなたたちは、ちゃんとミシアちゃんとタリアちゃんを守ってくれたものね。感謝しています」

ライラはアーキルに向かって頭を下げた。


ライラ「それに引き換え、私は…。せめてもの罪滅ぼしにと、ご両親に代わってミシアちゃんとタニアちゃんを育てると誓ったものの、2人とも誘拐されて、また守ることが出来なくて…。

あまつさえ、タニアちゃんが7年間も捕まったままだったことにも気付けず。私ったら、ほんと駄目で…。

…ミシアちゃん達は家族旅行と言って私も誘ってくれて、本当に嬉しかったけれど、本当は、私なんかに参加する資格は無いのよ…」


ミシア「そんなことないよ!…そりゃ、お父さんとお母さんのことは残念だったけど、その後ずっとライラさんがボクたちを育ててくれたことは、しっかり覚えてる。いつも感謝してるんだよ!」

タリア「そうですよ、ライラさん。本当にありがとうございました」

タニア「あたしも、ライラさんの所に戻れて良かったって思ってるわ。…正直、お父さんやお母さんのことは記憶に無いから、ライラさんが本当の母親みたいなものだって思ってるし…」

ミシア「だから、胸を張って、堂々とボクたちの家族旅行に一緒に来てよね!」

ライラ「ミシアちゃん…。タリアちゃん、タニアちゃん…。ありがとう」


4人はひとかたまりになってお互いを抱き合い、しばしの間、涙を流した。

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