花畑(語り:ライラ)

そうして冬が過ぎて春が来て、夏が始まる時期になった。

いよいよ海水浴に出発だ。予定期間は、往復の道行きも合わせて1ヶ月ほど。


計画はこうだ。

まず、ハルワルド村から最寄りのパーマスの町に向かう。今回は期間が長いので村の共有財産である馬車は使わず、徒歩で行く。

パーマスの町から、スタンガルドのほぼ中央にある首都までは乗合馬車が使えるはず。首都から主要な町へはなんと航空便が出ており、海水浴場までそれで行けるとのことだ。

ミシアたちは海水浴も初めてだが首都へ行くのも初めてなので、楽しみにしている。

ちなみに、ハップ(村への入出記録をつける魔法具)に長期休暇を登録したもの初めてだった。


そんなわけで、まずは最初の行程。村を出発して森の中を進み、やがて崖に出た。

以前、大雨の影響で崖の下を流れる川が増水し、トラキャットという魔物に襲われたこともあったが、今回はよく晴れていて、その心配は無かった。


崖の道の途中で、広場のような空間が出来ている場所に差し掛かった。道は大きく左側へ曲がっており、右の谷側に道が張り出している格好で、広場になっている。

その広場の谷側の先端にはたくさんの花が咲いていて、さしずめ花畑のようであった。

タリア「前に来たときも、ここに花が咲いていましたよね、お姉さま」

ミシア「うん、そうだね」


ライラ「あの~、少しだけ、時間をもらっても、いいかしら~?」

ライラは普段と違う旅行用の服装だが、それでもいつものおたまを右の腰にぶら下げ、背中におなべのフタを背負っていた。

そして、なぜか花束を用意して持ってきていた。


ライラは持ってきた花束を取り出し、花畑の中央に捧げた。

ミシア「…それは…?」

ライラ「いつも、ここを通る度に、花をお供えしていたの~。そうしたら、いつの間にか、花畑みたいになっちゃって~」

タリア「え?この花畑は、ライラさんが作ったんですか?」

タニア「どうして?」

ライラ「…そうね~。語るべき時が、来たのかしらね~…」


ライラは遠くを見るような目で空を見上げた。

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