水着(語り:タニア)

ミシアは、冒険に出ているとき以外は、甘いはちみつ亭で暮らしている。

ミシアとタニア・タリアは3人で一部屋であり、場所は甘いはちみつ亭の2階の一番奥だ。

3人分のベッドを並べているので、部屋の中はほとんどベッドで埋まってしまっているが…。(タニアとタリアがミシアを取り合って喧嘩しないように、中央のベッドがミシアだ)


タニア「あたし、海水浴って行ったことないんだけど…」

タリア「わたしもないわ…。お姉さま、何を準備しておけばいいでしょうか?」

ミシア「ボクも初めてだけど。普通に旅行の用意をすればいいんじゃない?あっ、でも海水浴だから、水着は要るかな?」

タリア「水着…ですか?」

タリアも子供の頃に村を流れている小川や上流の泉で水浴びをすることはあったが、身に付けていても下着で、水に入るための専用の服なんてものは持っていなかった。

ウィンズ人は泳ぐのが得意なので、いつも水着を着ていると聞いたことがあるような気はする。


タニア「それって、どんなの?」

タニアは学校に通えなかったので、そういった一般知識を学ぶ機会が無かった。

字の読み書きも出来ないので、暇なときに(嫌々ながら)タリアや他の誰かから教わっていた。


ミシア「うーんと、泳ぎやすい下着って感じかな?女性用だと、胸と腰だけ隠して、おへそを出すとせくしーらしいよ?」

タリア「それって、大人の絵本の知識ですよね?…正しいんでしょうか…?」

大人の絵本とは、時折りサティが「町で流行ってるのよ。これで勉強なさい」と言って持ってきてくれるもので、大人の女性が学ぶべき知識との触れ込みだったが、タリアはどうも内容が偏っているように感じていた。


タニア「それって、いつもおねえちゃんが着てるようなもの…?」

ミシアは普段、胸に白い布を巻いただけで、腰とお尻にぴったりフィットした黄色い短パンをはいて、素足にサンダルという格好だ。

指が自由に動かせないミシアは服を着るのを面倒くさがり、そんなミシアが着易いようにとタリアが作ったのが今の服なのだ。


ミシア「あー、ほんとだね!?じゃ、ボクは水着いらないかなー?」

タリア「駄目ですよ、お姉さま。あの服は水に入るためのものじゃないんですから。似ていても、ちゃんとしたものを用意しないと」

タニア「えぇ、あんな格好をするの?!恥ずかしいわ、無理よ」

タリア「わたしもちょっと…」

タニア「なによ、真似しないでよ」

タリア「真似したわけじゃないわ」

タニア「真似したじゃないの!あたしに逆らうつもり?偽…」

ミシア「タニア!」

タニアが「偽者のくせに」と言おうとしたので、ミシアが鋭く制した。

ミシア「いつも言ってるけど、それは言っちゃダメだよ。約束したよね?」

タニア「…ごめんなさい…」

ミシア「タニアもタリアも大切なボクの妹だから、仲良くしてほしいな」

タニア「…うん」

タリア「はい…」


時折り、タニアはこうしてタリアに突っかかることがある。長年の「偽者タリアのせいで」という思いは、そう簡単に消えはしないのだ。

一方でタリアも「急に自分が偽者だと言われた気持ちは誰にも分からない」という思いを抱えており、タニアに対して優しくなれない面があった。


ミシア「それにしても、ボクの格好って、そんなに恥ずかしいかな?」

タニア・タリア「ううん、そんなことないけど」「ううん、そんなことないですが」

ミシア「ははっ、ぴったり揃ったね!」

ミシアは笑い、タニアとタリアは「しまった!」という顔をした。

揃って同じことを言ってしまったのが、二人とも気に入らなかったのだ。


ミシア「まぁ、水着は海水浴に行く途中で買おうか。ボクが買ってあげるからね」

タニア「ほんと?おねえちゃん、ありがとう」

タリア「本当ですか?お姉さま、ありがとうございます」

ミシア「任せといて!それも旅行資金の内だから」

またもやミシアは笑い、タニアとタリアは「しまった!」という顔をした。

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