ミシアの思い付き(語り:ミシア)

ケニー「それで、わざわざ僕らを集めたのは、何のためですか?」

ミシア「ふっふっふー、それはねー。聞きたい?聞きたい?」

アーキル「お前がみんなを集めておいて、その言い草は何だ。それに、その言い方には、なんか嫌な思い出がある気がするぞ…?」

ミシア「気のせいじゃない?」

アーキル「確か、お前が無理矢理オレ達の冒険隊エスウィングに入ったときの…」

コノハ「はいはい、脱線はいいから。何の用事なの、ミシア?」


アーキルがわざわざ昔のことを説明しようとするのを、コノハは遮った。

しかしルディアは空気を読めずに、ミシアのきらきら演出の話を続ける。


ルディア「新しいポーズのお披露目じゃないですか?タニアちゃんとタリアちゃんのコンビネーションは、息がぴったりで見事でした!」

ミシア「へへ~、そうでしょう?」

タリア「ありがとうございます、ルディア様」

タニア「あたしは、タリアがやってたのが羨ましかった…じゃなくて、言われたから仕方なくやっただけで」

タリア「またまた~。嬉しそうにやってたくせに」

タニア「違うもん!」

ミシア「タニアは、面白くなかった?」

タニア「ううん、そんなことないけど…」

タリア「ほら」

タニア「違うもん!」

アーキル「そんなもんのためにわざわざ呼ぶんじゃねぇ!」

コノハ「ルディアも、混ぜ返さないで…」


ケニーが再度軌道修正を図る。

ケニー「それで、皆を集めた理由は何なんですか?話が発散しないうちに教えてください」

ミシア「仕方ないなー。そこまで言うならー」

全員「…」

ミシア「海水浴に行きます!!」

全員「…海水浴ぅ?」


皆の間に沈黙が降りる。


その沈黙をスカリィが破った。

スカリィ「かいすいよくって、なーに?」

ケニー「海水浴とは、海で泳いだり遊んだりすることですね」

スカリィ「うみって、なーに?」

ケニー「海とは、えーっと…大陸の外側を囲んでいる大量の水ですね」

スカリィ「たいりくって、なーに?」

ケニー「えーっと…」

アーキル「だあ!いい加減にしろ!」

ルディア「スカリィちゃん、後でゆっくりと教えてあげますから」

コノハ「ケニーが」

ケニー「僕ですか?!」

コノハ「適任でしょ?」

ケニー「丸投げ、よくない…」

ケニーはがっくりと肩を落とした。


・・・


『クラスタリア』は、この世界の名であり、この星の名でもある。

クラスタリア最大の大陸『ハイオズ大陸』の、中央から東部にかけて存在する大平原が『オラクルード地方』である。

オラクルード地方には大きく7つの国があり、南西に位置しているのが『普通の国スタンガルド』だ。

スタンガルドの北西側は山脈に面しており、ハルワルド村は山脈の麓にある。そして国の南側は海に面している。

つまりハルワルド村から南下すれば、海に行くことが出来るのだ。

しかし国を縦断することになり、かなりの大ごとである。ハルワルド村で海を見たことのある者はほとんどいなかった。

ハルワルド村から一番近いパーマスの町は湖に面しているが、幼いスカリィはそれすらも見たことが無かった。


アーキル「オレは、旅の途中で海を見たことはあるがな」

コノハ「私も同じね」

ルディア「私も見たことがあります。膨大な青い水が遠くまで広がり、空との境が一本の線になって…水平線というんだそうです」

ケニー「僕は湖の国アースクースの出身ですからね。広大な湖をいつも見ていました。あ、もちろん本物の海も見たことがありますよ」


スカリィ「へえ!いいなぁ。あたしも見てみたいでしゅ」

サティ「ふふん、わたくしもまだ海は見たことがありませんが、見に行ってあげてもよくってよ」

ミシア「あ、ごめんね。サティとスカリィは留守番だから」

スカリィ「…!?」

サティ「はあ?聞いてませんわよ?!」

ミシア「いま初めて言ったからね!」

サティ「だったら、なんでわたくし達を呼びましたの?!」

ミシア「今回は、家族で行きたいんだ。ルディア達も一緒にね。それで、サティには店番を頼みたいんだ。こないだもサティに店番をやってもらったよね?」

サティ「あの時は、タニアを医士に診せるために町へ行くと言うから引き受けただけですわ。…でもまぁ、ライラ様と一緒に居られるなら…」

ミシア「あ、今回はライラさんも一緒に行くから。家族旅行だからね!」

ライラ「あらあら~?私も~?」

サティ「なんですってぇ?!」

ライラが厨房から声をかけた。

ライラはミシアやタニア・タリアの育ての親で、甘いはちみつ亭の料理担当でもある。黒い給仕服とエプロンを身に着け、料理に使うわけでもないのに右の腰におたまをぶら下げ、背中におなべのフタを背負っている。

サティはある事情(趣味嗜好)でライラを崇拝していたのだった。


サティ「そうしたら、甘いはちみつ亭は完全に休業じゃないですの?!」

ミシア「そうだね。まさに、店長であるボクにしか出来ない決断…!」

ミシアは拳を握り締め、身体がわなわなと震える。

サティ「村の皆さんは、けっこう楽しみにしてるんですのよ?」

ミシア「だから、サティに店番をお願いしてるんだよ。出来る範囲でいいからさ~。お土産は買ってくるから!」

サティ「まったく、そう言われましても…」

しかしミシアが色々ゴネた結果、結局サティは引き受け(させられ)たのだった。


アーキル「それで、オレたちも行くってのか?」

ミシア「いいじゃん、一緒に行こうよ~」

コノハ「そもそもいつ行くの?海水浴って、夏にするものでしょう?」

今は、秋も深まり、そろそろ冬になろうかという時期だった。

ミシア「もちろん、来年の夏だよ!それまでに資金を貯めなくっちゃ」

ケニー「旅行費用もこれからですか…」

ルディア「いいじゃないですか。ミシアちゃんは、帰ってきたタニアちゃんに良い思い出を作ってあげたいんでしょう?私たちも、そのお手伝いが出来たら嬉しいです」

ミシア「ええ~、別にそういうわけじゃなくもないけど…。でもありがとう!」

ミシアは照れ隠しに腕をわたわたと振りながら、ルディアに礼を言った。


アーキル「まぁ、リーダーがそう言うなら、別にいいけどな」

コノハ「またまたー、楽しみなくせに」

アーキル「ばか言うな、海は金属鎧の手入れが大変なんだぜ…」

愚痴を言いながらも、アーキルの顔はほころんでいた。

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