第418話・決戦。
大友軍本陣 大友宗麟
砲音が響いている。
なんと城には大砲が備えられていたのだ。
至近からの砲撃により搦手口を攻め上がる兵が一掃され、鉄砲兵がおる高櫓が破壊された。バラバラと水濠や地面に落ちる兵の姿がここからでも見えた。
さらに大砲は進軍する隊列に撃ち込まれた。街道は城に向かって真っ直ぐ延びている故に、一発の砲弾が数十名の兵を肉塊に変えた。本陣にも砲弾が飛んで来ておぞましいほどの状況だ。
なんて事・まさかこんな事が・・・
「搦手口から敵!! 」
敵の隊列が搦手口の通路を逆落としに降りてくる。
何隊も何隊も。
あの単純な搦手口は、突撃の為の縄張りか・・・
「御屋形様!! 」
不意に衝撃が来て体が後ろに飛ばされた。
なんだ・・・何が起こった?
頬が熱い。血だ・・・
後ろにいた護衛が矢に貫かれている・・・二人もだ・・・太い長い矢だ・鎮西殿の弓、あの噂は本当だったか・・・
源の鎮西八郎為朝・都を追われ瞬く間に九州を制圧したという伝説の男だ。強弓を軽々扱う龍造寺隆信はその弓を持っている。或いは血を引く者だという噂だ。
恐ろしい・・・
あの距離からあのような矢をいとも簡単に飛ばしてくるとは・・・
体が瘧のように震えている。
「しっかりなされませ、御屋形様! 」
側近に揺られ目が覚めた。瞬時・自失していた様だ。
そうだ。今は戦の最中、指揮を取らなければならぬ。
状況は・・・街道を進んでいた隊列に砲撃され、兵が左右に散らばっている。そこに敵がこちらに真っ直ぐ突撃して来ようとしている。
「突撃隊は隊列を纏めて、敵を挟撃せよ」
「はっ。隊列を纏めて敵を挟撃! 」
街道は味方兵の残骸で足元が悪い。そこで突撃が緩んだ敵を左右で纏まった兵が飲み込んだ。突撃隊は相当な被害を受けたが、まだ左右には一千数百兵がいるのだ。
「濠際の楯隊は後続を遮断、鉄砲を放て」
「はっ。伝令、行けぃ! 」
「本隊前進、出て来た敵を叩く」
「本隊前進! 」
出て来た敵は二千ほどだが長く延びている。挟撃である程度は減るだろう。だが、先頭の数隊の勢いが強い。肩から上が出た大男、その前の味方兵が跳ね飛ばされている。あれが龍造寺四天王か、凄まじい男だ・・・
「敵隊、挟撃を突破して来ました・」
やはり来たか。血まみれの大男が率いる一隊が囲みを破ると、次々突破した兵が纏まる。
数は・・・一千ほどか、半減したな。最も我が隊も激減している、左右とも五百ほどだ。
最後に出て来た巨漢は龍造寺隆信か、奴を中心にして纏まりこちらを見ている。
なるほど。こわっぱめ、儂の首を取りに来たか。
ふん。取れるものなら取ってみよ。返討ちにしてやる。
「後衛隊が襲撃されています! 」
「なんだと・・・」
背後を守る後衛隊二千に、敵数隊が突撃している。いずれも鋭い攻撃だ。数は我が隊が少し多いが勢いで負けている。長くは持たぬな。
あれが四本槍か・・・
前に四天王、後ろに四本槍。逃げ道は無いという訳だ。
面白い。
ならば四天王を討ち取って、隆信の首を取るまでだ。
「敵は突撃して来るぞ。正面を厚くして、弓隊は左右へ」
「はっ!! 」
「左右の隊を突撃させよ」
「はっ! 」
おおおーと怒号を上げて突撃した左右の隊。それを受け止める少数を残して、
左右から射竦める弓矢をものともせずに敵本隊が真っ直ぐこちらに突進して来た。
出した一千の兵は奴らを何とか止めた。
だが先頭の大男の暴れ振りに兵の腰が引けている。
百人力の百武か・なかなかやりおる。
「西から味方隊、来ます! 」
「南からも味方隊! 」
西から道雪隊が南から田原隊が駆けて来ている。これで我らの有利だ。
「田原隊は背後に回せ! 」
「はっ! 」
既に後衛は壊滅状態だ。背後の敵は、田原隊に足止めして貰おう
遂に敵隊の一部が先陣を断ち割って出て来た。
先頭にいるのは、龍造寺本人だ。
「大友宗麟の首、龍造寺隆信が貰い受ける!! 」
「礼儀知らずの小童め。我が薙刀の錆にしてくれるゎ! 」
こいつは背より横に大きい巨漢。まさしく熊だな。身の程知らずの貪欲な醜い熊よ。
「戦国の世に礼儀など笑止。脅されて国を盗まれた臆病爺の言うことよ! 」
なんだと! 臆病とは許せん!
突進して来て真っ直ぐ振り降ろしてきた大薙刀を柄で受けると手が痺れた。
糞力め! まともに受けるのはまずい・・・
再度の斬撃を受け流して手元に切り込んだ。
右の小手に届いたが浅い。
「く・おのれぃ! 」
切られたと知って横に斜めに大薙刀を振り回してくる。
馬鹿め。そんな大振りが当るか。それに戦場で大振りすれば味方当る・・・傍の味方兵が逃げているわ。
そんな事もわきまえぬ阿呆な熊だな。ほれみろ、息が上がって顔が真っ赤だ・
熊は止まって肩で息をしている。そこに顎を狙って下段から振り上げると、のけ反って辛うじて躱した。すかさず持ち替えて石突で喉を突く。
後ろに倒れた熊の喉元に刺そうと腰の刀を抜き薙刀を踏みつける。視界の端に横から伸びて来た薙刀が見え、飛び下がって躱したが勢い余って尻餅を着いた。
邪魔したのは百武だ。
その百武の延びてきた白刃が、ガキンと弾かれた。
道雪だった。馬車で駆けてきた道雪が百武を止めている。道雪の馬車は、戦でも使える小振りの鉄で出来た馬車だ。
その隙に龍造寺は下がって逃げ兵に囲まれていた。
「逃げるのか。臆病者の阿呆な熊こわっぱ! 」
「ぅぅぅ・・・強欲爺が・・・ 」
喉を突いたで、奴は声が出ていない。力では負けるが手管では負けぬ、あと言葉。
「強欲なのは貴様だ。それにまだ儂は爺では無いぞ」
「・・・引けぃ・」
龍造寺隊は囲もうとした隊を突破して、真っ直ぐ水ヶ江城に向かった。
すぐに西から道雪隊が続々と駆け付けて来て、東には南口から吉弘隊が到着したのを知ったのだ。北にいた隊も去って行く。
「東に移動、吉弘隊と合流せよ」
「はっ! 」
ここにいては大砲に砲撃される。
それにしても多くの兵を失った。負傷者は万を越えるだろう。今まで経験したことの無い数だ。この痛手を癒すのにいったい何年掛かるだろう・・・
だが龍造寺の兵も半減した筈だ。ならば兵数ではまだまだ有利であるが城の大砲が生きている以上、攻撃すれば更に大きな損害が出る・・・継戦は出来ぬ。
「戦は終わりだ。死傷者を収容せよ。収容出来次第撤退する」
「はっ。手分けして死傷者を収容せよ! 」
「戦は終わりだ。死傷者を助けよ! 」
此度の戦は分けた。だが、おそらく次は勝てぬだろうな・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます