第414話・大友の秘策?。


 水の江城 百武親賢


 大友隊に夜襲朝駆けして一日が経った。半数の損害をだしたかの隊は、死傷者を運ぶ事で手一杯、当面の脅威は無い。

 問題は南の隊だ。広く展開して奇襲を防ぎながら罠を壊し、盛り上げた土を運んで見晴らしを良くしながら蒲田城の出撃口を埋めている。

 手強い敵だ。数百なら阻止出来るが五千兵となると手出しが出来ぬ。見事な陣形だと犬塚殿が言ってきている。


日の出と同時に「ドン・ドン・ドン」と遠くで砲音がこだました。見晴らしが効く所に出ると、有明の海一面に大きな船が並んでいる。

 水軍・大友水軍の船だろう。大砲か・・・



「百武殿、殿がお呼びで御座る」

「相分った」


 既に評定場には皆が勢揃いしていた。某が入ると、殿と鍋島殿が現われて上座に座し、すぐに鍋島殿が切りだした。


「既に一同ご存じのように、今朝未明、大友水軍の関船およそ十隻が突如、海に現われて、夜明けと同時に海に近い城・複数に砲撃して御座る」


「複数というのは? 」

「六角川河口から佐留志城・陣の森城、筑後川河口からは鹿江城で御座る」


「それでも一里はある。当るとお思いか・」

「まず、当りますまい。届きはしても揺れる船の上からの盲撃ちで御座る」


「ならば脅威ではあるまい」

「いいえ、そうでは御座らぬ。船には三百名余が乗って御座る。操船に十・漕ぎ手に七十名・守備兵三十を残しても二百兵は上陸できましょう。十隻で二千から二千五百の兵が守備の薄い南に現われた訳です。兵を嘉瀬川河口に降ろせば、ここまで一刻ほどで来ましょう」


「なんと・・・」


「信生、船から上陸するときは脆い。すぐに一隊を出せ。鹿江城にも反撃させよ」

「はっ。ならば・・・大村殿、木下殿、五百を率いてすぐに向かって下され。大砲はまず当りませぬが、潮が引けば船は安定して危険で御座る。ご留意を」


「畏まった」

「承知。ではご免! 」


 二人が慌ただしく席を立ち去った。ともかく一刻を争う事態だ。

有明の海は干満の差が大きい。昼頃になると潮が引いて船は立ち往生する。夕方に満ちてくるがそれまで敵の大砲も狙いがつけやすいのだ。


「鹿江城に砲撃せよと伝令を出せ」

「はっ! 」


 実は我らも蘭国の供出品を平戸で購った大砲を持っている。それ故に大砲の射程などが分る。これは北上する薩摩水軍に備えてのものだが、此度の大友軍に対する備えにしたのだ。無論、船では無く陸に備えているが。


「宗麟が画していた策はこれか。敵も大砲を使うか・・・」


「はい。恐らくは少ない兵で我らを誘き出して、背後を突く策だったかと・」


「ふむ。出撃していれば危ういところであったな・しかし、これで宗麟本隊は出て来ような・」

「はい。本隊五千と道雪隊五千が動き出したと伝令が御座いました」


「・・・」

 遂に大友軍が総攻撃を掛けてくる。ここからが本当の戦・乾坤一擲の正念場だ。


「信生、兵の配置を決めよ」


「はっ。東の田原隊は放置・動き有ればここから対応します。手強き南の吉弘隊は百武殿五百・犬塚殿五百の一千で何とか凌いで下され」


「承知した」


「道雪隊・宗麟隊は恐らく北に移動してくるかと。これを迎撃するのは、上瀧殿・江里口殿・成松殿・圓城寺殿の各五百兵。無論、これに小城の石井殿五百も加わります」


「承知した」

「承った」


「うむ。隙あれば例の一手だな」

「左様。その時には某が五百でこの城を守りまする」


「楽しみだ。かっかっか」



筑後川河口 大友水軍


「おら、どんどん行くっちゃ! 」


 筑後川河口に入った三隻は、左手奥の鹿江城に向けて砲撃を繰り返していた。

砲撃する度に船が左右に大きく傾き、横滑りする。それを左舷の漕ぎ手が櫂を小刻みに動かして元に戻す。

 最早、砲煙で目標は見えないが、砲手は準備が出来次第放っている。つんのめって少し先の地面を削る砲弾もあるが気にしない。元より目標に当るとは思っていないからだ。

『鹿江城方面に向けて一門五発放て』それが命令だ。一隻で四門・三隻六十発砲撃して敵を驚かせば良いのだ。


 不意に大きな音を上げて先頭の船の楯板が粉々になって吹き飛んだ。


「なぬ・・・ 」

「暴発したちゃっか? 」


「違う。敵の反撃っちゃ! 」

 「敵の城には、大砲があるだか・・・」

「聞いてないっちゃ・・・」


 鹿江城・目標辺りに砲煙があるのが見えた。それがぽっぽっと増えた・・・


「又来るぞ!! 」

「伏せるっちゃ! 」


 皆慌てて床に伏せた。廻りに盛大な水飛沫が上がった。直後に衝撃が来た。


「「ぎゃあ! 」」「痛か!! 」

最後尾の砲手が転げている。砲弾が左右の楯板を突き抜けて通過、バラバラになった楯板が周囲に飛び散り砲手に刺さったのだ。


「あそこから当るか、なんちゅう・・・」

「あっちあられん・・・(考えられん)」


「とにかくお返しじゃ。ぼっとすなっ、ちちまわせ! (やっつけろ)」

「おお! 」


 威勢を上げて一通り反撃したが、無数に襲って来た砲弾が先頭の船の喫水下を貫きすぐに沈み始めた。

こぞって川に飛び込む兵や水夫、そして岸や仲間の船へと泳ぐ。一隻に二百五十もの人がいるのだ。蟻の巣が水に落ちたような騒ぎだ。


「砲撃は続けろ。他の者は仲間を引き上げろ」

「ちくしょう。行ったれっ! 」



 城からの砲弾が盛大に水飛沫を上げる中、果敢に反撃しながら仲間の救出を続けるも後の船も被弾してにっちもさっちもいかなくなった。


「もう、しゃっちゅー! (無理)」

「にごじゅーじゃ! (お手上げだ)」


「砲撃止め。後・左岸に着けよ。上陸するっちゃ! 」


 当初より砲撃後には五百兵を上陸させる予定だったのだ。それが水夫を入れて七百五十全員が筑後側に上陸した。そこは蒲池氏の柳川城下で大友家の勢力圏だ。

潮が満ちるまで沖に戻る事が出来ない以上、砲撃の的である船に残る事は危険で選択出来なかった。


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