第413話・龍造寺家攻め4。
大友軍攻撃隊陣地 田原親賢
何十回と繰り返された夜襲が不意に止んだ。もう明け方が近い筈だ、もうすぐ夜が明ける・・僅かでも寝て体を休まなければ。引き込まれる様に眠りについた・・・・・・・・・
「敵襲ーー」「敵襲!! 」
「殿、起きて下され。敵が侵入して来申した! 」
側近に揺り動かされて目覚めた。その場で座ったまま寝ていた様だ。
辺りはうす暗い。ほんの僅かの間、寝ていたに過ぎないだろう。まったくもう少し寝かしてくれ。いちいち某の指示を待たぬともよかろう・
「・・・敵の夜襲が又来たのか。だが鉄砲の音が聞えなかったが・・・」
「違いまする。夜襲では無く敵の攻撃で御座る。北口から侵入した敵がすぐに広場に達しまする」
「・・・なんだと」
言ったことを理解するのに少し掛かった。夜襲では無く攻撃だと、敵が侵入して来たと言ったな・この村の中で戦になるのか・・・
「どれ程の規模だ・」
「分りませぬ」
「迎え撃てるか・」
「無理で御座る。将兵の殆どは寝て御座る・」
「たたき起こせ! 」
「それよりも敵が早う御座る・」
そうか。敵の夜襲が終ったとき、皆も休め。と言った記憶がある。とにかく眠たかったのだ・・・
「鉄砲を放て。それで兵を起こすのだ」
「鉄砲を放て! 」
「パン、パン、パン、パンッ」と傍にいる警護兵が空に向けて撃ち放った。
それで広場の兵はゾロゾロと立ち上がって、何事かとこちらを見た。
「敵だー、敵が来る。備えろ! 」
「来ました! 」
左から一隊が突入してきた。立ち塞がる兵をものともせずに広場の兵を断ち割る。突出した巨漢がいる。その前に立った兵が薙ぎ払われて空を舞う。とんでも無い強さだ・・・
「あれは・・・百人前の無双者と言われる龍造寺四天王の百武で御座ろう」
「向こうからも来るぞ・」
南からも兵を断ち割って一隊が来ている。その中にも頭一つ飛び出た武者が大暴れしている・・・
「右からもです・」
右方向からもひしめく兵を断ち割って一隊が進んでくる。やはり頭・いや肩から上が出た巨漢がいる・・・
「左からもう一隊来ました・」
百武隊が断ち割り、塞がった群れを再び一隊が断ち割る。やはり巨漢が大薙刀を振り回している。その隊が中央に達して、南からの隊・西からの隊と合流して回転して兵らをなぎ倒している・・・
「また西から一隊・」
空白が出来た広場中央から二隊が東と北に進む。西からの一隊が再び兵を断ち割って中央に向かう。
「ん・・・」中央に残った隊。その中の巨漢がこちらを見ている。なんだ・弓を構えているのか・馬鹿な三町(330m)はあるぞ。しかも打ち上げ・鉄砲でも届かぬ・・・
「・・・あれはまさか、今為朝といわれる龍造寺隆信・本人か・・・」
直後、それは来た。某に向かって一直線に!
ドンという音と衝撃。顔の横・こぶし一つ横に矢が震えている。見たことのない太い矢。
体の力が抜けて尻が落ちた。腰が抜けたのだ・・・
「大友家の将兵に申し上げる。
・遠路遙々ご苦労であった。今宵の隆信のもてなし・心ゆくまで堪能されたし」
カッカッカと言う声が聞えてきた。
・・・放心していたようだ。
眩しい朝日が広場を照らしている。そこには夥しい数の兵が横たわっている。とても現実だと思えぬ。だが、振り仰げば柱に矢が刺さっている・・・太く長い矢だ。敵の総大将・今為朝が放った矢だ。
「状況は分るか・」
「まだ、しかとは分りませぬが、おそらく半数はやられたかと・・・」
半数・・・四・五千か・・・さもあらん。
立ち塞がる兵は恐ろしい勢いで弾き飛ばされていたのだ。龍造寺には何という男共がいるのだ。某はあんな化け物らと戦おうとしていたのか・・・
蒲田江城 犬塚弾正
「殿、お目覚めか・」
「佐兵衛。今なんどきだ? 」
「はっ。巳の中刻(10時)で御座る」
昨夜は四百兵と共に夜通し働いたのだ。ここに帰ってきたのは辰の刻(7時)、一刻半ほど寝たわけだ。
「どうかしたか? 」
「濠が埋められております・」
「濠・」
眼前に広く展開した兵が、盛り土を崩して運び大手道の竪堀の先を埋めている。要所には矢除け弾除けの竹束を立て並べて防御をしている。遠くまで斥候を放ち、仕掛けた罠を次々と破却している。その上に即応部隊が所々に待機していて、阻止しようとすれば強力な反撃を受けるだろう。
見事な陣形だ・・・
「攻撃を加えますか? 」
「止めておけ。どうせ当らぬ、無駄玉だ。それに他に出口がある」
大手口に繋がる竪堀は他に三本ある。例えその全てを埋められても、搦手がある。今は土で隠しているが、掘り返せば使えるのだ。
「吉弘鎮信と言ったか・」
「はっ。先年・吉弘鑑理殿が亡くなり吉弘家を継いだ、まだ二十八の若手です」
「父親以上の将だな。恐るべき相手だ」
「まさしく左様。あの兵の動きには舌を巻き申した・・・」
「良い。何もしなくとも良い。だが、あの陣形をしっかりと目に焼き付けよう」
「はっ!」
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