第383話・飫肥城陥落。
都城・本丸 北郷時久
「山中隊が来襲。高松の関所が落ちました! 」
「なに! 兵数は? 」
「およそ三十」
「三十だと、三百の間違いでは無いか・」
「いえ、三十兵です。さらし首を奪い関所を壊しておりまする」
「む・」
三十とは少ない。だとしたら先遣隊か・月夜原には一千程の兵がいる。後方には一千の部隊がいる・・・
「月夜原にいる兵の動きは? 」
「いつも通りの動き。道普請をしておりまする」
道普請だと・目眩ましだな。そんな手にのるか。
「我らの兵はいかほど集まったな? 」
「およそ八百で御座る。相久様は三百、忠虎様は百五十と聞いて御座る」
「合わせて一千二百五十か。少々少ないな・」
あの見せしめの処刑が裏目に出たか・しかしあれを放置するわけにはいかなかった・・・
良い。
なに・一千二百五十もおれば充分に戦える。それで飫肥からの援軍が来たれば一気に攻勢に移れるわ。
「出陣だ。相久は街道北の中尾谷に、忠虎は南の池山に布陣。河越隊百は忠虎隊に合流させよ」
「はっ! 」
「我らも出陣する、隊列をとれ。前衛は敷根・廻・梅北隊の三百。その後が本隊三百、後衛は頴娃百だ」
「はっ!! 」
十分物見を放って、ゆるりと行軍した。
進出している山中隊一千は、前衛と南北からの三百三隊で打ち破れる。そのあと追撃して志布志城を囲む。
すかさず禰寝・鹿屋らを呼び込んで国人衆を取り込む。彼奴らも島津に裏切られて鬱憤が溜まっているからな。
志布志城を落とせば大隅は儂のものだ。臆病者の島津から自立して覇を競う立場になるのだ。
ぐっふっふっふ。
「報告。相久様、忠虎様、布陣! 」
「うむ」
「物見から報告。山中隊国境の菱田川を越えて高松原付近まで、街道の縄張りを進めて御座いまする」
「うむ」
思った通りだ。街道の縄張りは立ち塞がる池山を避けて、高松原に入り都城に向かうだろうと。だだっ広い高松原は大軍を動かすのに適していて、我が本隊との戦いに最適の地だ。
がしかし南の池山・北の中尾谷からの両側面から兵が出せるのだ。
そこが山中隊の墓場よ。敵将の・何だったかな・・・そうだ堀内某と兵たちの碑でも立ててやろうか。北郷時久の猛名と共にな。
「山中隊後方から援軍が来ています! 」
「来たか。援軍な・そちらが本隊であろう。大将の堀内某はいるか? 」
「将は分りませぬが、黒赤の戦衣を纏った異様な隊です」
「異様だと・・・数は?」
「およそ二百兵で御座る」
「二百だと。他の八百はどうした? 」
「いえ、月野原の兵では御座いませぬ。月夜原の兵は変わらずに街道普請をしておりまする。報告ではその隊は志布志から来たと・」
ほう。それならば堀内の隊確定だな。二百の黒赤の部隊、堀内の直属隊か・
つまりその隊を壊滅すれば、志布志城も難なく落ちると言うことだ。こりゃあ、儂に運が巡ってきたわい。
「・ならば我らも高松原に向かおう。前進せよ」
「はっ。全軍前進! 」
☆☆☆
この部隊は志布志湊に残る熊野丸二隻から編成され派遣された陸戦隊だ。率いる将は堀内氏虎では無くて近藤兵衛門。つまり熟練兵の集まり山中国の正規兵隊だ。
肝心の堀内氏虎といえば・・・
「おん大将。準備は万全でっせ! 」
「ならば始めるか」
少し時間は遡るが、堀内氏虎の乗る熊野丸は広渡川を遡上して、飫肥城に狙いを付けていた。
旗艦の大和丸は河口に停め、その陸戦隊員が川の周囲を固めている。
他の船の陸戦隊は、上陸して飫肥城に迫っていた。
氏虎の乗る熊野丸は、十二門の新型大和砲で飫肥城への先制攻撃をしようとしていた。河口から一里以上の距離がある飫肥城は、船からの砲撃を想像していない。そこが付け目なのだ。
「よーし。始めろ! 」
「一番から三番、砲撃!! 」
船側を見せている左舷の三砲が同時に火を噴いた。その反動に船は後に傾き軋んだ。
同時に飫肥城の門付近に着弾した三発の砲弾。その内の一発は偶然門に当たり破壊した。距離から考えると脅威の命中率である。砲手十二組は、船団の六十組から選抜した腕利き達、そのなかでも一位から三位の者らである。
「ぐわはっ。やりおるわい! 」
「さすがに水軍一の砲手らで御座る! 」
「ようし、残りの砲も順次放て」
「他砲も順次砲撃! 」
船の揺れを診ながら残り九門が順次火を噴いた。砲弾は見事に城の周囲に着弾した。これらは城兵を威圧するための砲撃だ。
遠く離れた船からの攻撃に為す術も無く恐怖に打ちのめされた城兵は、堪えきれずに白旗を上げた。
そこに熊野丸からの陸戦隊三百が入り、城を制圧するのに大して時間は掛からなかった。
志布志城と日向国との間にある飫肥地方は、以前島津豊州家の支配地であったが今は北郷家と行動を共にする立場にある。
氏虎は肝付良兼の願いもあり背後でもある飫肥から敵勢力を払拭すべく出陣していたのだ。炭薪を必要とする船が入る港には山間の地も必要だ。
こうして飫肥城は呆気なく陥落した。
なお、無理に遡行した船を河口まで戻すのには大変難儀したらしい。
ぐはっ。
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