第352話・陸奥国人衆の願い。



 山中国国主を迎えて、多賀城大広間でこれから国府の有り様が示された。


「皆に無理言うたけど色々世話になった、おおきに。代官のワテはあと数日で終わりやけど、何か聞きたい事はおまっか? 」


 いつもの清水殿の砕けた口調だ。


「ならば代官、殿と百合葉様に従う者は? 」


「ああ、それや。大隊長と真柄・生子・島野と右近や。それとな新介に替わって孝勝に気張ってもらう。柳生道場と藤内の元でみっちりと鍛えられたさかい、武術は左近とええ勝負するらしいで、孝勝、前に出て挨拶しよし・」



「北村孝勝で御座る。細かい事は不得手で、父や殿からは武術馬鹿だと言われています。若輩者ですが宜しく頼み入りまする」


 前に出て来て話した者は、見たところ十代の青年だ。だが相当な剣客の雰囲気がある。どうやら孝勝殿とは北村殿の倅らしい・・・



「黒川で御座る。我が領地が山中領を分断しているようで心苦しい。この際、我らも山中国の家臣にお加え下され」


「そうなれば黒川はん、領地がなくなりまっせ」

「宮城野が豊かになる様子を見てきておりますれば、我が領地があのようになれば望むところで御座います」


 清水殿が赤虎殿を見る。頷いた赤虎殿が口を開く、いやこの場合は山中勇三郎様になるか・


「相解った。黒川晴氏、其方を家臣として山中隊隊長、兵五百の指揮、棒給五貫文を給する」

「はっ。有難き幸せ! 」


「領内の城塞は自ら撤去せよ。但し鶴巣城は屋敷としそのまま使用すれば良い」

「いいえ、某の屋敷は麓の館で十分で御座る。鶴巣城は解体して普請兵の宿舎と致しまする」

「うむ。ならばその様にされよ」


 黒川が三万石の領地を返上したか・・・長江領は元景に任しておるから考えずとも良いが・・・


「他にありまっか?」

「志波姫でござる。某もお伴して大和を見とうござる」


 なるほど。それが叶うならば儂もお伴したい。よし。

「某もお伴したし! 」


「「某もでござる! 」」

 おやっ、月斎殿や黒川殿、氏家殿や田尻殿らが声をあげたな。まっ、そりゃあそうか、誰しも異国の様に栄えていると聞く山中の本国を見ておきたいわな・・


「待ちなはれ。山中の家臣となったからには本国を見物に行くのは構いません。けどな、ここに来る船に・いや蒲生代官に頼めば四日もあれば畿内に行けまんや。皆で話し合って交代で見物に行きなはれ。長旅になる我らの伴にならんでも宜し」


 そういう事でござろうな。だが儂は各国の拠点を巡視するという国主一行に是非お供したい。あとで願ってみるか・・・



「他には?」

「代官、各地から国人衆が来られておりますが・」

「おおそうであったわ。この場にお呼びせよ」




「某、岩城重隆で御座る」

「相馬盛胤で御座る」

「田村隆顕で御座る」

「某、此度最上の家督を継承致した最上義光で御座います」


 おう、山中様到来に合わせて参上していた方々が来られたな。さて、方々は何を求めているかのう・・・


「岩城殿、相馬殿、田村殿、此度の多賀城普請に兵を派遣して下さり真にありがとう御座います。山中百合葉・国主として御礼を申し上げます。先ほど皆にも申したが心ばかりの御礼もさせて頂きまする」



「いいえ、陸奥国人として当然の事を致したまでで御座る。その上で岩城は陸奥国府である山中様に領地安堵を願いまする」

「相馬も・で御座いまする」

「田村も同じで御座いまする」


「・領地安堵ですか。勇三郎様、如何致しましょう」


「うむ。国府としてはお三方の領地を大筋では認めよう。だが、三国とも隣国との係争地があろう。その土地までの領有は当然、ここで認めるわけには行かぬ。我ら成り立ちや経過までは知らぬからな。基本的には当事者で決めなければならぬ。それで良いか?」


「・・それで構いませぬ」

「・・相馬も同じで御座る」

「田村もそれで構いませぬ」


「もう一つ言っておこう。三国の隣国である佐竹は帝のおわす京へ兵を派遣して王都の守護をしている山中の友好国である。佐竹が他国から攻められたときには山中国は兵を出すことを厭わぬ」


「ついでに言うておきまひょう。京都守護所に加わっている以上、佐竹はんも隣国への侵略は出来まへん」


「・・・」

「・・・」

「・・・相分かりました」


 うむ。友好国とは同盟に近い関係か、佐竹領への侵略は国を滅ぼすことになると言う訳だ。九戸が葛西領に進出したのは、山中国の意向を受けての事だ・・・



「さて、最上はんは陸奥では御座らぬが、我らの隣国となられはった・・・」


「はっ。今一揆を起こしている方々は最上領におられましたが、最上は山中国に対立する気は毛頭御座いませぬ。更には暗躍している伊達家とは遠戚でありますが、関係を一旦打ち切りまして御座います」


 うむ、最上は伊達との縁を切ったか。そう言えば最上義光の室は、大崎殿の娘御であったな・・・



「左様ですか。山中国は他家同士の関係には関与しませぬが・」


「山中国は商いを大事になさると聞いておりまする。実は酒田の商人から、山中銭への両替を嘆願されておりまする。なにとぞ最上領への便宜を計っていただきたく、お願い申し上げまする」


 おう、最上殿は平伏している。若いがなかなかに胆の座ったお方だな・・・


「その節に関しては、岩城も何卒お願い申し上げまする」


 ふむ、岩城も湊があるからな。そこへ行くと長江は塩釜湊に近いでしごく楽じゃな。


「・・・ならば月に二度、他国経由で両替船を回航しよう。だが当分の間、両替出来る量は限られる。その訳は両替船・熊野丸は武装船で、銭座は大和にあるからだ。百六十名の乗組員が遙々海を越えて、荷を積み替えて内陸の大和まで銭を運ばなければならぬのだ。大変な人手と労力が掛かる、その事を考えてみてくれ」


「・・・某の考えが到りませぬで御座った」

「・・・量の事、承知仕った。何卒宜しく頼み入りまする・」


 なるほど。安易に両替船といっても、その裏には大変な労力が使われているのだな。おこぼれに預かれる長江領は真に幸せじゃな。これは元景によく話して聞かせねばならぬな・・・


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