第349話・大崎仕置2。


 元大崎家の国人衆九名とその側近らが来て三月経った。

 まだ誰も脱落する事なく毎日泥だらけになりながら頑張っている。


 意外だな。

 ひと月もせぬ内に何人かは脱落すると思っていた。新介らが統治している領国の新兵は、ねをあげて脱落する者も相当数いるのに。

「武士が土いじりなど出来るか!」と言って脱落するのは大概古参の者だ。そういう者に限って生産方や勘定方などの他の仕事も不得手だ。


特に労働などしたことが無かっただろう大崎義隆は、何度も血豆を作りながらも耐えている。それも父義直殿が宥め励まして共に鍛錬や普請を熟しているからだろう。

ひと月程で「義隆の地位を一兵卒にして頂きたい」と言ってきたが却下した。その地位の重さを認識してのことだが、半年はそのままだ。ここは元国主として諦めて欲しい。

最も隊長・兵長・五十人頭と言っても、配下の者を付けている訳では無い。まずは山中国の調練に慣れてからだ。




 彼等の指導は明石(の配下)に任せた。元備前・宇喜多家家臣の明石掃部は武芸も内政も人柄も優れて安心して任せられる男だ。まあ義隆はついていけないので義直殿が指導しているが。

 三月経ち調練と普請にも慣れると、いよいよ個人の得手分野に移動してもらう時だ。


「明石、彼等の様子はどうだな」


「はい。どなたも不平を言わずに頑張っておいでで御座る。富沢殿・津沢殿・田尻殿は政に、三迫殿・氏家真継殿・新井田殿・志波姫殿は武芸に優れて、一栗殿は普請にご興味があり、氏家吉継殿は重臣であっただけに統率力に優れていまする。志波姫殿は武闘派ですな」


「そうか。いずれもなかなかに骨がありそうな男達だな・・・」

「左様。彼等が組んで一揆に走られたら難儀しそうで御座る」


 葛西もそうだけど大崎家の統治が上手く行かぬ理由は、直轄領が少ないことだ。骨のある家臣が多く、その内の二人が手を組めば主家を上回る勢力になる。しかも家臣の方が武に優れ内政にも秀でているとなると、国主を頂点とする強力な権力を持つ戦国大名にはなれぬ。それ故に両家は崩壊するのだ。



「大将が気にしていた一揆の動きが確認されておま・」

「やはりか・」


 古い態勢の両家が無くなり、新しい波に乗れぬ者どもは一揆を起こして足掻くだろうと思っていた。北の民特有の粘り強さがそれに拍車を掛ける。奥州の一揆はなかなかに手強いのだ。


「場所は何処だ?」

「栗原郡の東で九戸領との堺にある大又砦という中規模な砦で。三迫と志波姫との境界でもあり、何やら所属が曖昧な所らしいでっせ」


「ふむ。一揆を起こすのにはおあつらえ向きだな。追っ手が来れば他領に逃げ込む算段だな・」

「へえ、。山伝いに最上領にも出られるとか・」


「指揮者は解るか、人数は?」

「葛西晴信と留守政景が指揮しているようです。その側近や家来が二十名ほどに、浪人が三十数名。百姓らも五十ほどいると・」


「きやつら、最上に逃げ込んで機を伺っていたものの、情勢がすっかり変わって焦りが出たのかのう・・」

「さいでんな。他家に長逗留するのは、さぞかし居心地が悪うござろう」


「しかし、旧葛西・大崎領で新体制について行けずに不満の溜まった者どもが集まればそれなりの勢力になろう。・・・まあ塵掃除には丁度良いかも知れぬな」


「・・・さいでんな。ならば一通り集まるのを待ちますか。兵糧や銭はどうしまっかな、最上や伊達が出すやろか。領内を荒らされないようにする必要がおますな・・」


「うむ。一揆は泳がせよう。領内を荒らされないように役人を派遣、九戸にもこの旨を伝える。それとここに居る国人衆が繋がっていないか監視せよ」


「合点だ!」




 大又砦 留守政景


 葛西晴信殿と共にここで旗揚げして二ヶ月だ。

当初最上領から三十名で入った我らも、浪人どもを加えて五十・百と増えて今では三百名を越えた。

人はまだまだ多く集まる気配だが、兵糧の問題があるために入城させるのは抑えている。銭と兵糧は最上殿と伊達家から運んで来たもので限りが有るからだ。名簿に記入して、領地が出来るまでは待てと伝えてある。


特に大崎領の治政は激変した。兵は以前の半数ほどに減らされ、多くの武士が余っている。全ての国人衆の領地は取られて城塞も破棄されたのだ。召し抱えられた者は、以前の身分を問わずに給金を与えられている。

永年続いてきた家系や身分を問わぬとは馬鹿な話だ。商人上がりの武家の考えそうなことだ。


「紀伊、南部の様子はどうだ? 」

「はい。平泉を本拠として、国人衆と家族を住まわせて精力的に領内整備をしておりまする」


「ふむ。平泉から北の果てまでとは、南部は大きくなったな・」

「はい、奥州の半ばが南部の領地で御座る」


「良し。我らに与力する者が五百になれば、その勢力を持って南部に臣従する」

「はっ。承知致しました」


 元太守様で逃げ出した葛西殿では南部に会わせる顔が無かろう。そこで某が出て行くのだ。南部とて伊達家の者である某と縁を持つのは喜ぶであろうからな。葛西殿はそれまでの名代で役立って貰おう。葛西の名が有れば、ひょっとして旧地の寺池城をくれるかも知れぬからな。


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