第321話・葛西軍との激闘2。
突撃で中央と左右の三隊の先陣百が、山中隊の縦横無尽な攻撃で倒された。だが後続の二百兵は隊列を乱さずに進み、遊軍の一隊と共に小さく固まった山中隊を前後左右から包囲し押し込めた。
残りの遊軍一隊二百は敵本隊七十に対して構え、我等の本隊三百兵は後方で待機している状態だ。
「月鑑斎殿、山中隊の動きは噂通りに凄まじいな・・・」
「左様ですな。しかしあれ程の動きが長く続くわけはありませぬ。多勢を相手にジリジリと体力が尽きましょう」
「だと良いな・」
包囲した四隊はそれぞれ二百、対して囲んだ山中隊は百五十未満だ。八百に囲まれた百五十、圧倒的な兵の差だ。幾ら山中隊が強力でも殲滅するしか無いだろう。
激しい攻撃が始まった。槍先を揃えて隙の無い攻撃が山中隊の四方を崩す。
良い感じだ。
焦る必要は無い。三兵で敵兵を一人倒せば、寡兵の敵はすぐにいなくなる。
「どうやら前後から突撃するようです・」
山中隊を囲む前後の二隊が機を合わせて突撃した。
・・・敵が消えた・・・
突撃した勢いのまま、味方の隊どうしが鉢合わせしている。
「やったのか? 」
「?う・・・」
背後で敵本隊が牽制の遊軍に突入した。
敵は遊軍の中に突入して、そこから破裂したように放射状に・・・凄まじい・・・あっという間に遊軍二百が消えた。
まるで遊軍が爆散したようだ。
「大原隊、壊滅! 」
「敵隊が味方右翼隊の中にいます! 」
「まずい・・・」
消えたはずの敵隊が右を囲んだ右翼隊の中で暴れている。左にいた柏山隊の背後に敵本隊が突入・・・
「右翼、熊谷・薄衣・千葉隊壊滅! 」
「遊軍、柏山隊壊滅! 」
瞬く間に二隊が壊滅した。だが山中隊は止らない、何という体力だ!
「敵隊、中央・長江隊に突入! 」
「敵本隊、左翼、浜田・馬籠・山内首藤隊に突入! 」
「こうなれば止む無し。月鑑斎殿、逃げるぞ! 」
「某は我が兵を見捨てることは出来ませぬ。残りまする」
「儂は逃げる。退散だ、寺池城に戻る! 」
「退散!! 」
太守と寺池城兵は蜘蛛の子を散らすが如く逃げ去った。
一人残った儂は 全身から力が抜けてその場に座り込んだ。
負けた・・・
一千五百対二百二十、圧倒的多勢なのに手も足も出なんだ・・・
何が悪かったとかどうすれば良かったとか考えられない程の力の差だった。
一刻ほども経ったろうか。倒れていた兵が立ち上がりトボトボと帰路についていた。我が小野城の兵も集まってきつつあった。
「父上、ご無事でしたか」
「おお、お前も生きていたか・」
長江勢を率いていた倅の元景が生きていた。
「山中隊の武器は棒でした故に、兵の殆ども生きておりまする」
「なんと、あれでも手加減していたのか・・・」
「はい。凄まじい程の精兵でした。特に敵将の堀内殿は闘神で御座る。我が兵ではまるで相手になりませぬ」
「中央の将は堀内殿と言われるか。左翼の大きな将も凄まじかったが・・・」
「真柄殿は太郎太刀と呼ばれて、身の丈七尺を超えていると・」
「真柄殿な・・・その様な事を誰に聞いたな?」
「我等の手当てをして頂いた山中隊の兵にで御座る」
「敵に手当てを・・・」
「はい。国府の兵にとっては葛西兵も民だと言っておりまいた・」
「・・・負けたな」
「はい。徹底的に」
「元景、ここに普請兵を置いて行かぬか」
「宜しいので。太守様の手前もありましょうに・」
「良い。それに太守様ももはや・・・」
「ならば。元気な者百名ほどを普請兵として置いて行きまする」
「それが良い。儂もここに残る」
葛西軍は前衛三隊と遊軍二隊を失った。といっても殆どの者が棒で打ち倒されていて死者はごく僅かだ。寺池城勢と留守勢が占める葛西本隊三百は、彼等を見捨てて我先にと逃げ散り戦は終わった。
負傷者の手当てに、多賀城から見物していた普請兵が降りた。大勢の手当てが行なわれているなか、小野城の長江月鑑斎が国府普請兵に加わると百兵を率いてきた。それを見た大原・柏山・千葉・山内首藤も普請兵を出してきた。ここで四百の普請兵が加わった。後日、葛西領に残り北方を警戒していた江刺氏も普請兵百を派遣して来て、葛西領から八百もの普請兵が揃った。
此度の戦で弱まっていた葛西家の力は地に落ちた。もはや再興することは望めないだろう。葛西領の十家以上ある有力国人衆もドングリの背比べで強力な存在がいない。また大きく乱れて民が迷惑するのを避けたい。
だからといって山中国が統一して国を一から作り直すのも面倒で、家臣にも余計な負担をかけたくない。やはり畿内とは習慣の異なる地方は、この地の者が差配するべきだ。そこで一計を打った。
「赤虎殿、御用で御座るか」
「九戸殿、南部家との間はどうだな?」
「・・晴政殿は信直殿を養子に迎えてから、何やら人が変わった様で・・・」
豪傑で有名だった南部晴政も後年にはその雰囲気も変わる。養子に入った南部信直も細心な性格で、豪傑の九戸政実との相性は悪い。そんな事もあって結局九戸政実は南部家と袂を別ち独立するのだ。
「此度の戦で惨敗した葛西家は、もはや立ち直れまい。お主が混乱する葛西領を鎮めてくれぬか」
「某が、で御座るか?」
「そうだ。南部家ではなく九戸家で治めよ。まずはここにいる浜田・熊谷・馬籠らを説得したらどうか」
「もし戦に及んでも京都守護所は咎めぬと?」
「なにごとも陸奥の安定の為だ。国府を攻撃した葛西家を成敗するという名目で良い」
「相解りました。九戸政実、陸奥の安定の為にひと暴れ致しまする!」
「頼んだ。これから南部家とは少し距離を取ると良い」
「承知!」
少し後に、九戸子飼いの大浦為信が南部信直の実父・石川氏を倒して領地を奪い、南部家とは犬猿の仲となる。九戸も微妙な立場になる。
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