第320話・葛西軍との激闘1。



旧多賀城跡 葛西軍軍師・長江月鑑斎


 多賀城に葛西家中の国人の旗が立っているとの報告に、陣中の浜田隊・馬籠隊・熊谷隊の将が呼ばれた。味方の兵が敵の城中にいるという事態に、太守様は相当なお怒りだ。儂とてどう判断したら良いかと戸惑っている。



「多賀城に其方らの旗が立っておる。どう言う事だな?」


「どうもこうもありませぬ。我等は防人の司様の通告に応じて普請兵を出し、太守様の出兵要請にも応じました。それだけで御座るが」


「・・・多賀城に攻め入った時にはどうするのだ。家中の兵を敵として戦うのか?」


「戦いませぬ。そもそも普請兵は普請するための者、戦う兵とは違いまする」



「詭弁を申すな。我等は多賀城を攻めに来たのだ。そこに居る者は全て敵だ!」


「太守様、多賀城は朝廷が命じた防人の司様が普請する国府で御座る。そこを蹂躙すれば朝敵となり申す。そのおつもりで御座るか」


「ぐぬぬぬぬ・・・・」


 痛いところだ。それを言われれば、返答できぬ。ここは助け船を出さねば、陣が崩壊するかも知れぬ・・・


「晴信殿、出て来た山中隊を倒せば、多賀城に兵を入れること無く決着致しましょう」


「・・・山中隊だけが出て来るかの?」

「出て来ましょう。普請中の多賀城では戦えませぬ故に」


「・・・、ならば多賀城普請兵の総勢はどのくらいなのだ」

「おおよそ一千五百かと」


「・我等と同数ではないか。しかも九戸・岩城・相馬・田村と有力国人がおる」

「彼等が言うように普請兵は普請兵、いくら数がおろうとも関わりありませぬ」


 無論、実際はそうでは無い。普請兵を送った国人衆は、山中隊に賛同していると思わなければならぬ。ヘタをすれば彼等は敵に回る。葛西が軍を起こしてここまで来た以上彼等を敵にせぬように、何らかの結果を出さねば収拾が付かぬのだ。


「・・・では山中隊の数は? 」

「おおよそ三百かと。それも出て来れば分かり申す」


「・・・山中隊が出て来れば壊滅させる。その上で多賀城に使者を出して普請兵を解散させる。それでどうだ」

「宜しきご判断かと思いまする」


「ならば陣を改めよ。敵三百を包み込んで壊滅する陣容だ!」

「ははっ! 」


 これで良い。細かい事は後で良い。まずは不埒な山中隊を叩くことだ。




「山中隊、多賀城より出て来ました!」


「兵数と配置は?」


「前衛五十のあと本隊七十、本隊の左右に五十ずつの二百二十です」


「うむ、山中隊だけで出て来たか。思ったより少ない、噂通りに強気だな。ならば我等も出ましょうか月鑑斎殿」

「左様ですな。雌雄を決する時で御座る」


「進軍せよ」

「「進軍!!」」



葛西軍一千五百が縦列となって静々と押し出した。その先に布陣している敵山中隊と背後の普請中の多賀城が見え次第に大きくなってくる。


「大きい・・・」

 近づくにつれて普請中の多賀城の大きさが見て取れる様になる。盛り上げられた土、その頂点に立てられた柵が真っ直ぐに伸びて、その柵に沿って国人衆の旗が連なっている。


「物見、多賀城はどのような縄張りか?」

「はっ。単純な四角で一の郭は二丁、二の郭は五丁ほどで、その外十丁四方に縄がうたれておりまする」


 十丁四方、旧多賀城の丘陵がすっぽり入る大きさか。その範囲に土盛りするとは途方も無い・・・


「土は何処から運んでおるな?」

「当初は周囲の山から運んでおりましたが、今は背後に開削中の湊から運んでおりまする」


「背後に湊な・・・」

「はっ。塩釜湊を越える大きさで、二隻の大きな帆船が停泊中です」


 ・・・山中隊は船で来たのだったな。兵が急に増えたのは船で運んできたからか。

 ・・・九戸も船で来たか。なるほど船な。それなら北から我等の目に触れずに兵が来ている訳が分かる。



 進軍して、敵隊を見回せる三丁の間合いに布陣した。兵が増えたといっても二百二十兵、こちらの一千五百余りに比べ圧倒的に小勢・七分の一だ。

 だが、敵に動揺は見られない。落ち着いて静かにその時を待っている。背後の多賀城には柵際に人がびっしりと取り付き見ている。左右の小山にも民の人だかりがある。


「月斎殿、大勢の見物人の前で葛西軍の強さを見せつけてやろう。山中隊を追い散らした後は、多賀城で兵を休めようぞ。入れる建物や食い物には事欠かぬらしいし、女もいる。銭もたんまりあろう、帰りは船に命じて石巻まで運ばせようか・」


「ははっ」


 晴信殿はご機嫌だな。普請場には九戸や黒川・相馬・岩城・田村の兵がおるのを失念しているわ。船は負けたと分かれば海に逃げよう。そう上手くは行かぬ。

まあ、全ては山中隊を追い散らしてからだ。


「配置はどうする?」

「敵前衛三隊に三百ずつ、二百二隊を遊軍として左右に放ち、残りを本隊に」

「うむ。それで良い。浜田らは前線に出せ」


「陣を整えよ。中央は長江勢、右翼熊谷・薄衣・千葉勢、左翼浜田・馬籠・山内首藤、柏山勢と大原勢は遊軍として左右に寺池勢と留守勢は本隊に! 」


「「はっ!! 」



「陣立て終わりました! 」

「よし。一気に敵を蹴散らす。突撃! 」


「「全軍突撃!! 」

「「おおおぉぉー」」



 我等の動きを見ても山中隊は超然としている。流石だな、だが多勢に無勢、多賀城の前は大勢が展開出来る広い平野にしたのが運の尽きだ。普請で近場の土を運びたいのは分かるがな。

 儂ならば険しい立地に砦を築いて待つだろう。


 我が軍がすぐそこまで迫ると、山中の各隊は小さく固まるように動いた。

 まあそう来るだろう。大軍に対してそうするざるを得まい。葛西の各将はすかさずそれを取り囲む動きに変わった。重包に囲み孤立させて少しずつ切り取るのだ。


 おう! 縦列のまま取り囲もうとした先陣に山中隊が切り込んだ。先陣は二つに割られさらに早い動きで四つ、八つと割られた。その中を龍が暴れる如く凄まじい働きで味方を蹂躙して行く。


 うぬぬ、先頭の将は圧倒的な力だ。まるで兵が跳ね飛ばされるほどの勢い・・・

バラバラにされた先陣隊、こうなると兵の指揮どころでは無い。


 先陣三隊が消えた。流石に山中隊はとんでも無く強い。だが失ったのは精々百兵の部隊だ。後の二百兵は隊列を維持してゆっくりと圧迫している。

不意に敵の三隊百五十が一つに固まった。それを二百の部隊三つと遊軍二隊が囲み、ゆっくりと圧迫して押し込めている。


 三百は失ったが、仕切り直しだ。戦はこれからだ。


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