第319話・亘理隊の攻撃。
我が亘理家の騎馬隊が山中隊の火縄銃によってあっという間に壊滅した。儂は、いや我が隊は、その途轍もない衝撃に打ち震えていた。
「殿、前方に敵が来ております!! 」
騎馬隊に気を取られている間に、前方の山中隊が迫って来ていた。それを見て背筋を冷や汗が伝った。まさか圧倒的少数の敵が援軍と合流する前から迫ってくるとは思ってなかったのだ。兵にも大きな動揺が走っている。
まずい・・・
「慌てるな。敵は少数だ、各隊広がって包み込め!」
動揺しながらも各隊がまとまって迎撃態勢が出来る。それを見て取った敵隊がすんでのところで止まり、敵の援軍が合流するのが目の端に見えた。たちまち陣を組み替えて広がる。見事な動きだ、だが合流したとて百六十、こちらは四百だ。
「右翼左翼を百ずつで牽制、残り全軍で本隊に当る」
「聞いたか、右翼左翼は牽制だ。敵本隊を討つ!」
「承知した! 」
「突撃!」
「「おお!! 」」
敵中央の本隊八十程に突撃した。敵から火縄銃の攻撃は無かった。間近に迫った敵隊から
「筒先を揃えよ! 」
「動きを合わせるのだ! 」
「落ち着いて調練通りにやれ! 」と言う声が聞こえる。
どうやら相手は新兵らしい。それを知った兵らは勢いがついた。先頭は敵陣を見事に断ち割った。
いける、聞いていた程では無い、倒せるぞ。
だが、不意に進撃が止った。
正面には船から降りた援軍が構えていた。
「今だ。打ち掛かれ!!」
「おう・やあ!」「せい・やあ!」「おう・やあ!」と言う掛け声が聞こえると
次第に左右の兵が一枚ずつ剥がされて行く。まだ敵の新兵が残っているのだ。割ったのでは無く包み込まれたのか・・・正面からも衝撃が来た。そして強い衝撃が体を襲い意識を失った。
・・・、
高い空に薄い雲が掛かっている。
もう秋も深い・・・
! 戦・・・
そうだ。戦をしていたのだ。・・・あれでは負けたな、少数の敵に、騎馬隊を失い、目前にいる敵に突撃したが、次第に兵が減って、まだ生きておる。死ななんだか・・・
「お目覚めですかな」
儂を覗き込んだのは泉田殿だ。
「泉田殿も生きておられたか・」
「うむ。某は二度目じゃ・」
「左様か、兵はどうなった?」
「火縄を浴びた騎馬隊は二十余名が亡くなった。残りは生きて御座る」
「・・そうか。何故、我等は討たれなんだか?」
「分からぬ。だが山中隊は民を殺すのを控えている様だ」
「民・・・敵兵も民か・」
「なにしろ山中隊は陸奥国府の兵で御座るからな」
「国府兵か、我等はそれを討とうとした・・・」
「亘理殿、船で兵が待って御座る。戻られよ」
「泉田殿は?」
「某は武士を辞め、見知った土地で土でも耕そうかと思って御座る」
「・・・左様か」
傍にいた兵に支えられて川岸に向かった。大勢の兵らがそうしている。喉が痛い、喉元をやられて気を失った様だ。その様な兵が多い。
逸らそうとした槍をかいくぐって延びて来た青く光るあれは竹槍だったようだ。真槍ならば生きてはおらぬ。
完敗だ。しかも命まで助けられた。
ともかく戻ろう。全ては戻ってからだ。
半日ほど前の旧多賀城跡葛西軍陣地 長江月鑑斎
われら一千五百の葛西隊は、敵地を進軍して来て旧多賀城跡の丘陵地に陣を敷いた。
先行した政景殿の元に留守家の旧臣は殆ど集まっていない。出陣を急かして意気込んでいた政景どのらが、すっかり意気消沈して御座った。
どうやら領内の元気な者は宮城野の稼ぎに出ている様だ。老人女子供でも働けばそれなりの給金が貰えるという。民の気持ちも分かる、銭があれば冬の間に凍えなくとも済む。
山中隊は遠い陸奥まで来るだけあって、相当な銭を持っているようだ。その銭で民の気持ちを掴んでいる。多賀城や宮城野の普請場では大勢の民が集まっているようだ。戦が始まるのにも関わらずに・・・
「月鑑斎殿、城兵が予想より多いという報告があります」
「働きに来た民を数えているのであろう」
「おそらくはそうでしょう。ですが、兵民入り交じっているために分けて数えるのは困難かと思われます」
宮城野にいる山中兵は、数百の民の中の一割程度と思われると言う物見の報告だ。数百がどれぐらいかも数え切れていない。多賀城内部も似たようなものだろう。兵だけ出陣してくれると有難いが・・・
ま、いずれそうなるか。
「晴信殿、ここまで進出したのです。焦る必要は御座りますまい。兵を休めて待機するように伝えては如何か」
「承知した。兵を休め武具を改めて来たる時を待つべしと各隊に伝えよ」
「はっ! 」
「斥候から報告。数日前に大崎の普請兵百五十が多賀城に入ったと」
「・・む。そうか・・・」
「亘理殿より報告。相馬・岩城・田村の普請兵七百が多賀城に向かったと」
「何! 」
「物見から報告。多賀城一の曲輪に三つ山の大旗。二の郭には無数の旗が上がっていると」
「何処の旗か分かるか?」
三つ山の旗が山中家の旗であろう。二の郭の旗は普請兵が来ている家の旗だろう。それを確認すれば態勢は分かる。
「二の郭の旗は、黒川・大崎・相馬・岩城・田村それに・・・」
「それに? 」
「九戸の旗があります・」
「何だと、まさか?」
「間違いありませぬ。九戸家の九曜紋は目立ちまする」
九戸が多賀城に付けば、挟撃されるのは我等だぞ・・・
「それに・・・」
「何だ。まだあるのか?」
「はっ。それらの端に浜田・馬籠・熊谷の旗もありまする」
「なにぃ。三隊の将を呼べ、事と次第によっては只では置かぬ」
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