第318話・鵜ヶ崎城下の戦い。
亘理城 亘理元宗
各所に放った斥候によって色々な情報が次々と報告されてくる。それは今まで無かった内容でとんでも無い事が多い。得体の知れない戦雲が我が身・我が領地・我が隊に降りかかっているのだ。
「留守政景殿利府城下に到着! 」
「宮城野と多賀城は普請を継続中です」
「鵜ヶ崎城の守兵は百兵ほどと思われまする」
「葛西軍、鳴瀬川を渡りました!」
「留守殿より亘理隊は南の山中隊を打ち破って多賀城に進出願いたしと」
「多賀城の普請兵は一千五百を上回ると思われまする」
「宮城野では四百を越える民が山中隊と普請中」
我等の矛先の鵜ヶ崎城は手薄だ。この段階でも普請を続けているからだ。大勢の普請兵や民を動員しないのは、新しい領地である故に信用できないからだろうが・・・
「牧野家老は出兵には消極的です」
「輝宗様、手勢五百を率いて米沢城を経ったと」
伊達家に出した伝令が帰ってきた。この事態になっても伊達家は割れている。当主の輝宗様が煮え切らぬ執政を無視して出陣したようだ、だが到着するまでには数日掛かろう。伊達本家の勢は初動では当てにはならぬのだ。
「葛西軍、多賀城近くに布陣しました」
「泉田勢・福田勢が出撃を願っております」
葛西軍到着と同時に出撃するとの約定だ。それは守らねばならぬ。
「出撃せよ。渡川して鵜ヶ崎城に攻め入る!」
「「出撃!! 」
「全軍、鵜ヶ崎城を目指して川を渡れ!」
「「おおー」」
鵜ヶ崎城 北村新介
「亘理勢、渡川を始めました! 」
「来たか・・」
ここで戦える兵は、右近・島野の二十と新兵四十それに山下が忍び衆素波衆三十を連れて来ている。総勢九十名、五百が相手では多勢に無勢、まずは城の守備に徹するしか無い。新兵四十も日々の調練で槍働きは出来るようになっている。他に数十人の民が応援に来てくれているが、戦闘には参加させるわけにはいかない。
厳しい戦になろう。
「河口に船、熊野丸です!」
うむ。確かに山中国の旗を上げた熊野丸だ。津田船団の船だな、応援に来てくれたか、有難い。
「伝令を出せ。援軍求むと」
「はっ!」
城から下流に向かって馬が出る。亘理隊の渡川場所は河口より一里半里ほど入った所だ。そこを避ければ何処へでも兵を降ろせる筈だ。
「我等も出て陸戦隊と合流する。山下、後は頼む」
「畏まりました! 」
陸戦隊百と会わせて百六十ならば敵は三倍まで減る、何とかなろう。
「大隊長、良い所に熊野丸が来てくれましたな」
「おう。助かったわ」
「おそらく多賀城には津田丸が来ておりましょう。あちらも安心ですな」
「うむ」
城下を出て渡船場に続く街道・敵の真っ正面半里に陣を敷いた。小高い丘に兵を上げ左右に馬防柵を並べる。
亘理勢には百の騎馬隊がある。大和で水畑らの騎馬隊と調練をして騎馬隊の威力は知っている。ここにも馬は揃っているが、まだ騎馬隊を編制する余裕は無い。強い騎馬隊を育成するには数年は待たなければならぬだろう。
亘理隊も我等に気付き、こちらに向かって陣を敷くが、まだ半数兵も渡川してなく大きな動きは無い。
「熊野丸の陸戦隊、来ます!」
河口から遡上した熊野丸から下船した陸戦隊が、大胆にも亘理勢を迂回する事無く真っ直ぐ向かって来ている。
「岡殿ですな。敵をわざと挑発しておる・」
「うむ。二連短筒か・」
「あの野郎、儂の楽しみを奪うつもりか・・」
陸戦隊を率いる岡太郎次郎は騎馬隊を引き寄せて短筒で始末するつもりだとみた。津田船団の将は、元雑賀の者が多く火縄銃の扱いは山中国随一なのだ。
右近は相変わらずだな。どうやら一番強力な敵の騎馬隊と対するつもりだったようだ。
「右近、新兵の配置はどうする。考えはあるか?」
鵜ヶ崎城の新兵の調練は松山隊が担当した。つまり新兵の力を一番知っているのは右近なのだ。間も無く陸戦隊が到着する、その配置を決めなければならぬ。
「・・・ならば全員、某にお任せあれ」
「よし。右翼は松山隊に新兵四十、左翼は島野隊と熊野丸の陸戦隊四十、残りは
某と共に中央だ。良いな!」
「はっ」
右近は新兵を隊に組み込むように配下に命じた。それぞれの得手・不得手を知る彼等はすぐさま隊列を整えた。
「大隊長。火縄銃で敵は混乱するのは必須。我が隊はそこを突きまする。宜しいか」
「うむ。良かろう」
右近の的確な判断だ。敵に隙が出来れば援軍を待たずとも攻撃するべきだ。
「敵・騎馬隊出ました!」
敵としても、すぐ近くに敵の援軍がいるなら攻撃して当然だ。こちらは六十、援軍百を潰せば圧倒的に有利になるからな。
「野郎ども、実戦調練だ。日頃の調練の成果を見せるのだ!」
「「おおお!! 」」
「某も向かいます!」
松山隊に続いて島野隊も敵に向かって行った。我等だけここに残っても仕方が無い、その後に続いた。
敵騎馬隊は土煙を上げながら陸戦隊に向かって進んでいる。最初はバラバラだった馬列がすぐに綺麗な縦列となった。良く調練された騎馬隊の証だ。
しかし陸戦隊は、向かってくる敵騎馬隊を無視するが如く何の動きも取らずにこちらに進んで来る。敵の不意を撃つ岡太郎次郎の策だ。当然火縄を点けた火縄銃を隠しているだろう。
果たして、亘理の騎馬隊は火縄銃には慣れているかな・・・
「敵騎馬隊、陸戦隊に当たります!! 」
亘理隊 亘理元宗
留守政景殿・葛西晴信殿と山中隊を南北から挟撃すべく出陣した。
我比の差は五百対百ほど、我が陣営が圧倒的に有利で負ける筈が無い戦だ。だが徐々に不安が湧き出て・・いや不安は当初より有った。それが次第に大きくなってゆく。
河口に一隻の大船が来た、滅多に見る事の無い大型帆船だ。まるで予定していた様に現われたその船は、いったい何処から来たのだ。
その船はあっという間に遡上して兵を降ろした。およそ百兵、鵜ヶ崎城・山中隊の援軍だ。
それを確認した様に鵜ヶ崎城から六十という少数で山中隊が出て来た。船からの援軍を入れても百六十兵しか無い、我が勢の三分の一それでも勝算が有るかのように堂々と出て来た。
船から降りた援軍は回り込まずに真っ直ぐ山中隊に向かって行く。その側面ががら空きだ。我等に騎馬隊がある事を知らぬのか・・・
「騎馬隊、援軍を合流させるな。追い散らせ」
「畏まって候!」
鍛え抜かれた我等の騎馬隊は奥州随一であろう。百の歩兵など難なく蹴散らせる。船から降りた援軍は馬防柵を所持していないのだ。
それにしても無防備に側面をさらけ出して進軍するとは迂闊な・・・
「突っ込みます!」
騎馬隊が敵援軍の土手っ腹に突っ込もうというその時、凄まじい音が続けざまに上がり周囲を硝煙に包まれた。
「あぁぁ・・・」
火縄銃の射撃を浴びた馬が転倒して、後続の馬が次々とそれに巻き込まれる。それでも何とか半分ほどが態勢を立て直しまとまった。
その刹那、
再び射撃音が鳴り響いた。今度は馬が棒立ちになり暴れ出して、騎乗の者のいうことを聞かなくなった。錯乱した馬は、騎手を振り落として好き勝手な方向に駆け去った。
「騎馬隊が・・・」
「・・・火縄銃か、山中隊は火縄銃を持っていたのか・」
火縄銃によって、あっという間に虎の子の騎馬隊が消えたのだ。それにしても長く重い火縄銃を持っている様には見えなかった。
どう言う事だ。
或いは新型の火縄銃かも知れぬ。山中国は畿内にある。我等の知らない武器を持っていてもおかしくない。
それにしても頼りの騎馬隊があっという間に壊滅するとは・・・
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