第317話・多賀城兵の配置。


 亘理郡亘理城 泉田郷右衛門


「上流から兵が来ます。相馬勢です! 」


 その知らせは、葛西軍の着陣を待って川を渡ろうと待機していた我隊に緊張をもたらした。

 すぐ上流の丸森城を奪った相馬は、伊達家と厳しく敵対中だ。その相馬が攻めて来たのかと思った・・・



「相馬勢二百は右岸を鵜ヶ崎城下に向かいました。多賀城に向かう普請兵のようです」


 国府の通達に応じた普請兵か。相馬が伊達家を牽制するために出したか・・・



「また兵が向かって来ておりまする! 」


「今度は何処の兵だ?」

「岩城勢です。岩城勢二百が国府への普請兵として通ると通告がありました」


 岩城だと、岩城は伊達当主のお方様の家だ。伊達家とは親密、なのに何故に山中隊が再興している多賀城へ普請兵を出す?

 帝か・・朝廷の意向というのを真に受けているのだ。

 馬鹿な・・・

 しかし、岩城は朝廷とは深い間柄と聞いた。真なのか・・・防人の司というのは・・・





 更に半日経った。岩城隊が通った後は、城中の動揺が我々にも伝わっていた。

そこに更なる報告があった。


「上流から、またしても兵が向かって来ておりまする・・・」

「何処の兵だ?」


「田村です。田村家の普請兵三百がまかり通ると・・・」

「なんと・・・」


 田村もか、田村は今、佐竹と事を構えてそれどころでは無い筈。それなのに三百もの普請兵を多賀城に派遣するのか。どう言う事だ・・・

 さらに城中の動揺が広がって重臣らが集められたようだ。すぐに各地に向けて早馬が出された。我等の目の前に七百もの軍勢が国府に向かったのだ。戦況に重大な変化があったのだ。




 多賀城 赤虎重右衛門


 数十の留守勢が先遣隊として利府に進出して、葛西本隊一千五百が鳴瀬川を渡った。

 いよいよだ。あと二日で来るだろう。だが多賀城の普請は続いている。相馬家二百と岩城家二百が加わり田村家三百も到着したところだ。葛西家中の三百もいて普請場は一気に賑やかになった。山中隊もその指導で大わらわ・戦どころでは無くなったわ。


「赤虎殿、船が来ます。津田丸です!」


 みれば松島湾を三隻の船が真っ直ぐに向かって来ている。大和丸一隻に熊野丸二隻の津田照算が船団長の南廻り艦隊の船だ。


一隻は塩釜湊に向かい、二隻が弧を描いて整備中の多賀城湊に入って来た。

 最初に降りて来た大きな男が、そこにいた氏虎と肩を叩き合っている。

 誰だろう?


「九戸政実殿です!」


 南部家の九戸か、京都守護所に兵を連れて来たついでに、数ヶ月も山中兵に混じって稽古した男だ。南部家といっておるが、どうやら九戸の判断で守護所に参加した豪傑だ。俺とは大和通過の際に多聞城で一度会っておる。

その時には久慈為信を連れていた、近々津軽に養子に行くと聞いていたが、もう大浦家に入ったかな・あの少年が津軽為信だ。


とにかく多賀城に武術馬鹿が一人増えたな・・・



「赤虎殿、南部九戸殿が普請兵三百を連れて来てくれましたぞ!」


 九戸が普請兵を? 南部家には通達を出しておらぬが・・・


「赤虎殿・?? あっ・これは!」


 九戸は俺の顔を覗き込んで、三歩飛び下がって平伏した。それを見て氏虎が喜んでいる。こんにゃろうめ、驚かせようと何も話さずに連れて来たな・・・


「九戸殿、立ってくれ。多賀城軍師を努める赤虎重右衛門だ。そんなに畏まる必要は無いぞ」


「は・あ・赤虎殿で御座るか。九戸政実、多賀城を再興されている山中国が普請兵を求めていると聞き及び、我が九戸も陸奥国の端くれであれば、些少の兵を連れて急ぎ馳せ参じまいた」


「左様か、南部家は遠隔地ゆえに通達を出さなかったが、来てくれて真に有難い。遠路遙々ご苦労でしたな。今日は宿舎や周辺の見学をして体を休めて下されよ」


「畏まりました」


 氏虎が九戸を案内して行った。船からは九戸家の兵が降りてこちらに向かって来ている。照算も船から下りて二の郭に上がってきた。


「赤虎殿、やけに賑やかですな」

「うん。大崎から新たに百五十の普請兵が来てな、それらに指導している最中に葛西家中から三百の兵がきた。更に相馬・岩城・田村の七百が来てくれた、それに九戸の三百だ。戦をしている暇が無い」


「左様で。ならば船の陸戦隊を降ろしましょうか?」


「・・・うむ、ならば熊野丸一隻を阿武隈川・右岸の鵜ヶ崎城に向かわせてくれ。新介が六十兵で五百の伊達勢と対峙している」

「承知しました。すぐに向かわせます」


 照算が背後の舟入に人を走らせると、熊野丸が出航の準備に入り俄に甲板上で人の動きが活発になった。武装熊野丸は船を動かす人員を残しても百の陸戦隊を出せる。彼等が到着すれば新介の動きにもかなりの余裕が持てるだろう。


「こっちも折角葛西が一千五百も連れて来てくれたのだ、兵を出して歓迎しなければならぬ。氏虎を軸に真柄隊・蒲生隊を左右に出す。陸戦隊五十をそれぞれに付けてくれるか」

「承知致しました。赤虎殿は出られますか?」


「儂は氏虎の後ろに黒川勢三十を伴って出る」

「某もそれに同行して宜しいですか」

「構わぬが、我等に出番は無いと思うぞ」

「左様ですかな。それでも構いませぬ」


 と言う訳で国府隊の配置が決まった。


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