第316話・留守勢の先鞭隊。


多賀城 赤虎重右衛門


「赤虎様、家老の氏家吉継が普請兵百五十を連れて参りました」

 大崎義直殿が報告に来た。事前に氏家と相談して準備をしていたのを聞いている。大量の兵糧や寝具(藁)などと共に、先行していた六十名分の武具も持ってくると。普請に来るとはいえ兵であるからには調練も必要なのだ。


「ご苦労で御座ると伝えて下され。今日は長屋や普請場などの見学をして体を休めるようにと」

「畏まりました」


 以前から来てくれている大崎六十名、黒川六十名は新規普請兵の案内や普請の指導も出来るようになったで助かっている。山中兵がいなくともそれなりのことを熟せるのだ。



「赤虎様、気仙郡の浜田家普請兵百が向かって来ます。遅れて熊谷家普請兵百、馬籠家普請兵百も来ておりまする」

「うむ。葛西領で普請兵を出してくれたのは、その三名か」

「左様で。彼等は太守・葛西晴信の出兵要請にも同数の兵を出して御座る」

「ふむ二股膏薬か、面白いな・」



 葛西領内の国人衆にもそれぞれ通告を出した。それに応えてくれたのは海岸沿いの三名だ。いずれも葛西領内にあって葛西家と反目している者達だ。大崎家もそうだが葛西家は有力国人衆が横並び状態の国で、強権を発揮出来る戦国大名家では無い。


 例えば同じ程度の石高であった北近江・浅井家は、機を見て即座に八千もの兵を動員出来たのだ。比べればその差は途轍もなく大きい。


つまり陸奥国は、いずれ滅びる古い慣習・構造で成り立っている家だ。伊達家も例外では無い。まあ政宗君が成人すれば、強い権力を発揮する様になるがな。




「しかし一千五百か、思ったより多かったな」

「はい。当の葛西家も驚く程、兵が集まって御座る」

「となると、多勢に無勢の我等は武装を強化するしかないか・・・」


 多賀城で迎え撃つ兵は、山中隊が五十、黒川六十の百十だ。隣の小泉城には十蔵と山中隊二十と新兵が六十の八十だ。南の鵜ヶ崎城には新介と山中隊二十と新兵四十だ。どこもちょっと厳しいのは分かっていたが、葛西隊が一千五百もいるのならば大和丸から火縄銃を持ち出すかな・・・

 いずれにしても大和丸はすぐ背後に止っている。弓でも鉄砲でもすぐに持って来られる。いざとなれば葛西勢の真ん中に大砲を撃ち込むことも可能だ。



「赤虎殿、南から相馬家普請兵二百が来ておりまする」

「そうか。それは助かるな」


「赤虎殿、田村からも普請兵を寄越せと甥に要請しておるぞ」

「月斎殿、田村は伊達に近い。普請兵を寄越せるだろうか」

「何、国府の要請に応えるだけじゃ。近隣の者に遠慮が要るものか」

「「ふっふ」」


 なるほど。浜田らも太守葛西家にそういう言い訳をするのかと思った。




 宮城郡 留守政景


 小野城に葛西軍が続々と集って来た。いよいよだ。某はその先鞭を勤めるべく鳴瀬川を渡った。山中隊の待ち伏せが無い事は分かっていた。


 懐かしの旧領だ。街道が広く真っ直ぐになっている、山中隊が素早く移動するために整備したのだな。だが此度は役立たぬ、一千五百の多勢に反撃する機を逸したのだろう。


「旧主が戻った。大軍にて偽国府隊を追い払う。武器を取って直ちに駆け付けよ」と村々に触れを出しながら進んだ。

 我等を止める者は誰も無く、広くなった街道で進軍は捗る。途中の落とすべき山砦が無かったから、あっと今に高城を過ぎ小野城から四里半の利府に着いた。既に夕闇が訪れている、今夜はここまでだ。城下外れの寺に厄介になる。


利府は旧臣・村岡の城下だった所だ。ここまで来ると懐かしの岩切城は近い。周囲の村々に触れを出したで、明日になれば集まって来る兵できっと満ちるだろう。そうなれば岩切城下に凱旋するのだ。


「和尚、厄介になる」

「政景殿、ご無事で何より」


「後続は葛西の一千五百だ。明日になれば周辺の足軽らも集まってこよう」

「さようで御座りますかな・・・」


「・ん、何か?」

「いえ。この辺りの元気な者は皆、宮城野に働きに出ておりまする故に・」


心なしか民が少ないとは思っておったが、そういう事か。宮城野に普請役で送られておるのか。


「済まぬ。某が不甲斐ないばかりに、民に苦労を掛けておる」

「えっ・」

「民は山中隊に連行されているのだろう。もうすぐ某が解放致す故にお待ち下され」


「そうではありませぬ。民は給金目当てに進んで働きに出ておるので御座います」

「給金・・・」


「山中国には役はありませぬ。兵役も普請役もです。働けばそれに応じて銭が支払われまする」

「・・・馬鹿な。それでは国が成り立たぬ」




 一夜明けた。まず見たのは城山だ。見事に破棄されて構造物は皆無だ。


「ひょっとして、岩切城も・・・」

「はっ。岩切城も破棄されていると・・・」


 なんという事だ・・・・・・・・・


 まあ良い。無い物は無いのだ。某が前より立派な城を築けば良いのだ。


「兵はどのくらい集まったか」

「そ・それが十名ほど・・・」


 十名だと。伊達家の三男で留守家三万石の某が戻ったのだ。百兵ほどはすぐに集る筈だ・・・

 そうか、元気な者はみな、宮城野に出ておるのだったな。老人女子供でも仕事はあるとかで、冬支度の前に銭を稼ぎに行っておると・・・

 集った十名を加えても我等は四十兵に満たぬ。おまけに今朝来てくれたのは、まるで山賊の様な風体の者らだ。そんな少数のみすぼらしい隊で凱旋とは行かぬ・・・


「・・ここで後続の葛西軍を待つ」

「はっ」


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