第299話・派遣兵を募る。


「と言う訳だ。十蔵」

俺は大坂から多聞城に戻って陸奥の話を十蔵らに話して聞かせた。


「へっ、それで奥州に山中が進出すると言う訳ですな」

「うん。防人の司としては多賀国府周辺が乱れているのを放置するわけには行かぬからな」


「血縁で縛られて家臣も分裂・昨日の友は今日の敵とは、なかなかにややこしい土地でんな。で、誰を行かせまする。兵力は?」

「畿内とは人の性質も習慣も違う難儀な所だ。それに何処までやるかの案配もムズい。俺が行こう。大和も次世代に移るべきだからな、だが山中では無くて「赤虎重右衛門」で行く」


「へっ、大将が、匿名で・・・次世代って太郎様はまだご幼少ですが・」

「山中国は百合葉に任せる。連れて行く者は希望者を募り兵力は最小限にする。総勢百名程にしようかと思っておる」


「お方様なら間違いありますまいが、希望者を募るのも分かりま、しかし百名とは少なすぎでは・・・」


「大軍を出せばあっという間に片が付くだろうが、兵力で強引にねじ伏せれば国人衆の間に不満が募り将来に必ず捻れる。故に少数の兵で時間をかけて地道に浸透させてゆくのだ」


「地道に・・・そうなりますか。確かに大軍を前にすれば否応も無く従わざるを得ない、しかし相手が少数兵ならば国人衆も大いに悩み考えますな」


「そうだ。これが畿内から遠い大国・陸奥の者らと今の山中国にとっても最適な動きだと思っている」


「まあ、大将が言うのならそうなのでしょう。それでも百名とは・・・」

「兵百名と言うわけでは無いぞ。役人や職人・忍び・乱派・女衆まで国一つ作るに必要な者ども全て入れた人数だ」


「なんと・・・いやそれはあきまへん、せめて兵百、いや二百は連れて行って下され、選りすぐりの者どもを」


「だがな十蔵、兵百・それも新兵ばかりで狭川領に攻め込んでいった時の事を覚えているか。それに比べて今の兵ならば五十もあれば十分だと思わぬか」


「狭川侵攻。覚えてまんがな、わてのというより山中隊の初出陣みたいなもんでした。・・・なるほど、あの時の感じでっか・・・」


「そうだ、十蔵。あの時の生き生きとした感じは貴重だぞ。そう思わぬか」


「さいでんな。けど忍び・乱派衆はすぐに送りまひょう。前もってお国言葉や風習に慣れなければなりまへんさかいに・・・そう言えば、わっしも倅はいっぱしに育っていて世代交代の時期でんな。国を作るのには老練な内政方もいりま。わっしも応募しようかの・」


「うむ。忍び衆は別にしてすぐに派遣しよう。十蔵が応募するのは構わぬが、それを審査するのは筆頭家老のお主だぞ」


「そうでんな。わしが儂を審査・・げへっ」

「「ぐわはっ」」



「それと十蔵、山中国は従兄弟までの近親婚を禁止する。濃い血を混ぜることによって頭と体が弱い子供が出来る可能性があるからだ」


「体が弱いのは分かりますが、頭が弱いとは阿呆になると言うことでっか?」

「そうだ。気狂いの場合もある」


「へっ、それは怖い・・・どこぞのお殿様が女子をいたぶって喜ぶという話を聞いたことがおま。あれもそうでんか?」

「そうかも知れぬ」


「そりゃああきませんな。すぐに家中に徹底させまひょ」

「頼む」




京都守護所 大崎義直


 某らは京都守護所の一間を与えられて都に滞在して居た。毎日市中を散策して物珍しい都の様子を見聞していた。特に諸国の派遣兵が協力して普請や警備に邁進している様子は心を打たれた。


 遠国から来た彼等は、日の本の中心・京の都の安寧のために心を砕いているのだ。

 某など、いや奥州の国人衆など、おのれの領地と利権のために血眼になっている。まさに『井の中の蛙』だったと思い知らされたわ。

 何やら畿内に流れる風やお日様の光りまでが奥州と違って穏やかに感じられる。人々の顔つきまでが違う訳だ・・・


そんな毎日は過ぎるのが速かった。数日経って我らを総裁の十市殿が訪ねてこられた。どうやら山中様の御返事が届いた様だ。


「大崎殿、山中の殿は多賀城再興を決められた。来月にも奥州国府の多賀城に代官と役人や警備兵を送ると連絡があった」


「そうで御座いますか・・・奥州国府・・・代官ですか?」


 それは待ち詫びた話だったが、どうも某の思っていた動きとは雰囲気が違った・・・


「うん、聞き慣れぬ名だが、『防人の司』の殿が動けばそういう名になるようだ。奥州国府周辺が乱れていると判断なされ役人を派遣するのだ。前にも言ったように大崎家を救うための派遣では無い。そこはご承知下され」


「だとしたら大崎はどうすれば・・・」

「再興された多賀城から大崎家に対して特別な配慮は無いが、葛西・留守・黒川も大崎に構っている余裕は無くなろう。但し大崎とて多賀城に叛けば先は無い」


「先は無い・・・ならば多賀城に協力すれば、大崎は生き残れましょうか?」


「いや、協力・同盟などという曖昧なものは山中国には通用しない。戦って滅びるか臣従するかの二択だ」


「ならば、某が倅を説得致しまする。早急に多賀城に臣従して領地安堵を願うべしと」


「大崎殿、臣従しても領地安堵されるかどうかは分からぬ。現に大和では国人衆の城は破却・領地は全て没収だった。某の領地も没収されたからな。もっとも今は領地なぞ無い方が楽で良いと分かったがな」


「没収・・・」


 目の前が真っ白になった様な気がした。

 某はわざわざ来たのが、お家滅亡に繋がるのか・・・


 いや、そうでは無い。

 放っておいても大崎は伊達に葛西に潰されるのだ。


 ならば、

 ならば、山中様に臣従して一家臣として生き残れば良いのだ。


 十市殿の様に・・・



『奥州派遣兵を募る。

山中は混迷した奥州を鎮めるために代官と兵を派遣する。

代官は清水十蔵。率いる総員百名。うち役人枠二十名。

よって八十名の兵を募る。

奥州は気候も習慣も人の性質さえ違う、厳しい任務となるが我はと思う者は手を上げたし

防人の司 山中勇三郎』


「えっ、筆頭家老がお出ましかよ!」

「戦乱の陸奥に行くとは、ヤベえ・」

「おら、寒いとこ苦手だべ」

「奥州って三十五郡もある大国だと聞いたど・・」

「この間来た九戸はんも陸奥だって・・」

「拙者、行きたいで御座る」

「お主、誰やねんー」

「通りすがりの者で御座る」

「これ、山中兵限定だから」

「・・・(しょぼーん)」


 畿内各地の拠点に張り出された内容に、山中の兵だけで無く商人や民の間?にも話題が上がった。


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