第240話・佐渡・羽茂城。


 佐渡 大石湾 佐々木形部


 三隻の船から下りた兵が街道を真っ直ぐ北上して行く。操船方と片舷の砲手を残した百八十名の兵は河口から半里の羽茂城下を目指している。


 佐渡本間四家の内、ここの羽茂本間は一番評判が悪い。越後に近いだけあって商いが盛んでそれなりの兵を養っているが、傲慢で悪政を行い民を虐げる腐りきった一族だと他の船頭衆が言っておる。

 そんな輩に遠慮する必要は無いが、城下町は羽茂城の後にも伸びており砲撃すれば民に被害が出る恐れがある。それで兵を出して後方の民の避難をさせるのだ。




 羽茂城 羽茂本間高貞


「お・お許しを、わたくしには夫が・・」

「構わぬ。民は儂に体を張って仕える義務があろう。さあ、こっちに来い。」

「あ・あれぇぇお助けを・・・」


 おう、むっちりとした肉付きが堪らぬのう。嫌がるところがまたそそるわい。生娘も良いが眉をひそめる人の妻も堪らぬ。乳が揉むほどに手に絡みついてくる。熟れた女体の成せる性じゃの。

おうおう、儂のものも滾ってきたわ。とびきりの硬さじゃ。どれ、まずは口で奉仕させるかのう。


「さあ、こっちに向け。その熟れた口で奉仕せよ」

「い・嫌・・・」



「殿、大変です!」

「・・・」


 この馬鹿めが、誰も近付くなと言っておいただろう・・・

無視だ、無視。報告など後で聞けば良い。


「殿・一大事です!」

「・・・」


「と・殿!」


 ええい、しつこい。糞馬鹿めが、後で覚えていろよ。


「今は取り込み中だ、近寄るなと言っただろう!」

「そ・それが、まことに一大事なのです!」


「・・・言ってみよ」

「湊に大型船が来て、降ろした兵がこちらに向かって来ておりまする!」


「何だと、何処の兵だ、数は。・・・越後の上杉か?」

「上杉ではありませぬが、何処の兵か分かりませぬ。数はおおよそ二百」


「分かった、直ぐに行く。兵を集めて防備を固めよ!」

「はっ!」


 城にいる兵は五十ほどだ。敵は二百、城下の兵百が来れば防御は充分だろう。

 しかし、いったい何処の兵だ・・・何故ここに?



 城中は日頃と打って変わって慌ただしく、喧噪に満ちていた。無理も無い、城を攻められるのは初めてだ。だが羽茂六人衆の一人・白井が落ち着いて兵の指揮を取っている。


「状況は?」

「はっ、守備兵は各所に配置して、城下の兵が間も無く駆け付けてくる頃合いで御座る」


「敵は?」

「間も無く城下に入ると」

「速いな・・・」

「湊からまっしぐらに駆けてきた様で」


“報告します。城下に侵入した敵は、そのまま北に向かっております”


「どう言う事だな?」

「分かりかねまする。或いは北口から攻めてくるつもりか・・・」


 北は急斜面で攻め込むのは困難だ。この城で最も弱いのは東の山からの攻めだが、ならば北から東に回り込むつもりか・・・


”敵は城下で散開し一部は左岸に渡り、揃って民を追い立てている模様です”


 ・・・城下を焼き払うつもりか。

それは痛い、復興には銭が掛る。民草に使う銭は一銭たりとて無駄銭じゃ。使いたくない、いや使わぬ。なるべくならば焼き討ちなどご免だ。


だが今、出て行っては敵の思うつぼだ。ここはじっと我慢するしか無い。なに、兵糧はたっぷり蓄えておる。民からたっぷり搾り取ったものが役に立つな。


”城下の兵五十到着しました!”


「殿、足軽どもは敵に分断されて登城は困難であろうと思われまする」

「そうか、ならばこの人数で防備を固めようぞ」


 駆けつけて来たのは麓の上級武士ばかりか、城から離れた馬小屋もどきに住ませた足軽どもは来られぬか・・・

なに、敵は二百に足らぬと言うではないか、城攻めは通常四・五倍の兵力が要る。倍にも足らぬ兵でこの城を落とせる筈も無かろう。


「殿、須川砦が敵に奪われた様で御座る」

「そうか、仕方なかろう・・・」


 対岸でこちらより少し高い須川砦には、見張りの者十名程しかいない。敵が攻め上がれば逃げるしかなかろう。それにしても二百足らずの兵で、そんな所を取ってどうするというのか?

 ひょっとして、敵は馬鹿者か。




須川砦 島與四郎


 なるほどここ須川砦からは、羽茂城の様子が良く見える。うちの探索方の仕事は優秀だな。


「次郞、栄蔵、いけるか?」

「へい、この距離なら万全で!」

「右に同じで!」


 次郞と栄蔵は熊野丸の帆柱に登る見張り要因だ。人より特別に目が良いのだ。


「旗の準備は良いか?」

「あい、準備万端で!」


 儂らの役目は、大砲の着弾点を知らせることだ。

 船から羽茂城は半里(2km)、揺れる船の上からの砲撃は当たらぬ。そこで側面から見て砲手に大砲の仰角を知らせるのだ。船から城は見える、つまり方角は決められる。それに仰角さえ決まれば当たる確率は格段に高くなる。だが大砲を撃つほど船と水面が揺れるで最初の数発が肝心なのだ。



「お頭、城下の後藤隊長から合図が上がっただ!」

「よし。旗を立てろ!」


城下の民の避難が終わった合図だ。旗を立てて船にそれを知らせる。


「船の砲煙を確認、発砲しただ!」

「旗を降ろせ、観測方はよく見ろ!」


「上だ、だいぶ上、北の山に着弾」

「旗を急いで振れ!」


「発砲!」


「こんどは手前だ。大手道の半ばに土煙」

「ならば、旗振りは無しだ」


「発砲!」


「おう、惜しい。高櫓を掠めて川に落ちただ!」

「ゆっくりと旗を振れぃ!」


「発砲!」


「お、城門の手前だ。ほぼ当たりで良いでねえか!」

「ならば、旗を上げたまま停止!」


「発砲!」

「当たり。城旗が吹き飛んだだ!」

「よし、旗を細かく振るのだ!」


「発砲、多数!!」


 

 砲撃で羽茂城が徐々に破壊されて行く。城内はまさに地獄絵図だろうな。だが、それを見ている民からは大きな歓声が聞こえている。羽茂本間家はよっぽど悪政をしいてきたとみえて、民にとことん嫌われているな。

 これから山中国のまつりごとが始まる。佐渡の民の喜ぶ顔が想像出来るわ。


さて、これで某の任務は無事に終わった、船に戻るか。



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