第238話・佐渡・河原田城。
永禄八年三月 佐渡国・河原田城 河原田本間貞兼
春だのう、やっと春が来た。待ち遠しかったぞ。
「沢根、兵は揃ったか?」
「はっ、密かに集めた傭兵が三百、既に集っており申す」
「よし、明日 寅の刻(午前三時)、雑太城に向けて進軍する。それまで怠りなく準備致せ」
「はっ!」
しばらく雌伏していた甲斐があって、ようやく準備が整ったのだ。鶴子の銀山と沢根湊から入る銭で兵を雇い武具兵糧を蓄えた。今こそ佐渡を我が物とする戦を始めるのだ。
まずは本家が兵を集める前に雑太城を急襲して奪う。そこからだ。その後に召集した五百兵で、周辺の国人衆を各個撃破して雑太郡を統一する。さすれば佐渡の三分の二は切り取ったことになる。そこからは羽茂と久地を締め上げて屈服させればよい。
取りあえず奴らの降伏は認めるが、佐渡統一が成れば本家分家の者どもは始末するつもりだ、いつ反抗するか分からぬ者達など無用だからな。
ふっふっふ
「殿、船団が入って来ました!」
と、近衆が駆け込んで来た。
「左様か、どこの船だな?」
「何度か風待ちに入港したことのある紀伊熊野屋の船だと思われまする。ですが・・・」
「何だ、どうしたな?」
「いつもより船が多く、旗が違っており申す。しかも動きが妙な・・・」
熊野屋の船は若狭から蝦夷を往復する南蛮型の大型帆船だ。通常はここに立ち寄ることは無いが、たまに風待ち入港する珍しく大砲を積んだ武装商船だ。問題は起こさぬが、水夫が見るからに屈強な者達でもあり我らも無用な刺激は控えている船だ。
「ふむ、五隻の船、船旗は三つ山・・・南にも三隻ほどが向かって行くな。たしかに妙な・・・、誰ぞ、どう言う事か聞いて参れ!」
「はっ!!」
旗艦と思われる二隻がこちらに(城)向かって来て、残りの三隻が湊に横付けされた。船からは大勢が降りているようだ。
どう言う事だな?
「と・殿、船から降りているのは兵です。武装した部隊が降りています!」
「何、どこの兵だ?」
「分かりませぬ」
さては羽茂か雑太に先を越されたか、それとも上杉か、越後が攻めて来たとしたら我らでは対抗出来ぬぞ・・・
「申し上げます。船は大和山中国の船。入港の目的は佐渡の鎮圧だと申しておりまする。河原田が降伏するのならば直ちに白旗を揚げよと、そうで無ければ攻撃すると。明らかに敵兵です、武装した部隊二百が上陸しこちらに向かっています!!」
「なにぃ、佐渡の鎮圧だと!」
馬鹿な、何故に突然、しかも畿内から、どう言う事だ・・・
「と・殿、ご指示を!!」
い・いかん、あまりのことに頭が真っ白になっていた。とにかく敵だ、敵がこちらに向かっているのだ。迎撃しなければならぬ。幸いな事にこちらには準備の整った部隊が居るのだ。
「沢根、傭兵を率いて迎え撃て。磯田、兵の召集だ、急いで兵を集めよ。残りの兵は城の防衛だ。急げ、急ぐのだ!」
「「はっ!!」」
と言う事は湾の南に向かった船は、雑太城に向かったか・・・ならば羽茂城や久地城にも船団が向かっているかも知れぬ。大きな敵だ、降りたのは二百兵だが兵はそれだけでは無いだろう、しかも大船には大砲がある・・・
冷や汗が流れた、ひょっとしたら降伏した方が良いのか? いや、一度も戦わずに降伏など武門の恥だ、下るにしても意地を見せてからだ。
すぐに数百の民が城へ駆け上がってくるのが見えた。明日からの進撃のために何度もした訓練が役立っている。
「近隣の兵・二百が集りました。あと二百兵が半刻以内に、山間の村の百兵は一刻以内に集りまする!」
「殿、二百兵の準備完了、直ちに出撃出来ます!」
良いぞ、これならば山中などという敵を跳ね返せるかも知れぬ。それが叶えば、侵略者を討つと言って予定通り雑太郡を抑えれば良いのだ。却って戦を有利に始める切っ掛けになったかもな・・・。
「敵の様子を見る。暫し待て!」
「はっ!」
敵の旗艦と思える大船は、城の沖合十丁ほどの位置で船腹を見せたまま停船している。敵もこちらの様子を伺っているのだ。驚く程の速さで兵が集っているのを見てさぞや驚いているだろうな、むふふ。
「殿、沢根隊が接敵します!」
うむ。寸前に三つに分かれて敵を包み込む様にぶつかったな。さすがに良い動きをしておる。山間で密かにした調練の成果が出ているな、これから我が軍の中核となる隊だ。
「あ・・・味方が、」
うぬ、中央の隊が数を減らしておる。敵は左右の隊を気にせずに真っ直ぐに突っ込んで来たようだ。左右の隊も後続の敵に押されている。
ま・まずい・・・
「磯田、二百兵で出撃せよ、沢根隊を助けるのだ!」
「はっ!」
準備が出来た磯田隊が向かった。これで何とかなろうか。
おう、中央の隊が蹴散らされた。左右の隊は不利と見て少し下がったな。敵も隊を改めたな、磯田隊が見えたのだろう。
「磯田隊、到着!」
残っていた兵を磯田隊が吸収して、今度は隊を分けずに敵に突撃した。 激しい攻防だが明らかに我が隊が数を減らしている。それにしても敵勢が減っているようには見えぬのは何故だ、相手は二百だぞ・・・
「さらに二百兵の準備が整いました!」
振り返って見ると、城内に武具を着け武器を持った逞しき男らが整列している。どの顔もやる気に満ちているわい。日頃の訓練の成果だな。第三隊長は平清水だ。
「皆の者、良く集ってくれたな。そのまま待機せよ」
「はっ!」
「殿、お味方が全滅、敵がこちらに向かって来ます・・・」
「なぬ?」
ちょっと目を離した隙に全滅だと、たしかに敵がこちらに向かって来ている。戦場には多くの者が横たわっている。なんという事だ、沢根と磯田は討たれたのか・・・
「ドーン」という音に海上を見れば、船に大きな硝煙が上がって直後に凄まじい音と振動がきた。
「どうした?」
「門が、門が砲撃で!」
砲弾が門を貫いて建物の中に飛び込んだ様だ。中から遅れて悲鳴がしている。
「ドン・ドン・ドン・ドン」
と、続けて砲音がして、遂に城門が木っ端微塵になり、城内の建物も倒壊している物がある、城内は悲鳴に溢れて阿鼻叫喚の様だ・・・
「城方に申し上げる。我らの兵はまだまだ船に残っている。速やかに降伏か継戦か選べ。これが最後の通告だ」
「・・・うぬぬ、やむを得ぬな、降伏だ、降伏する。白旗を揚げよ」
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