第203話・助言する。


 松永様の話を聞き、今後のことを考えると、一晩眠れなかった。


歴史では謎とされていた永禄の変の原因が解ったのだ。

主謀者は将軍様だ。


あの事変は取り返しのつかない事を将軍様がやっちゃった結果だったのだ。その後に宣教師が急いで都から追放されたのは、そういう訳だったからだ。帝も同意した追放劇だったのだ。帝・三好家・松永家が揃っての宣教師追放、それは珍しい出来事なのだ。


つまりこの時代の人々は、永禄の変の事情を知っていたと言うことだ。皆広く知れ渡っていたのに違いない。


 何故、その事実が後世に伝わらなかったか、或いは隠されたか? まあ、歴史にはそういう事がよくあるのだろう。考えても仕方がない。



 考えるのは、これからの三好家の事だ。実直な三好冬康様の事、松永殿の事、それに将軍家の事だ。

俺は、山中家は、それにどう関わりどう動いて行くのか、これからの事を決めなければならぬ。


だが一晩考えても、取り留めのない思考が頭の中を巡っただけだった。既に朝が来てしまった。決めなければならぬ。



 問題は、松永家の事だ。


うち(山中家)の事はある程度の事態を想定して動いているので、今のままで問題は無い。

だが恩がある松永様に頼られては無視も出来ぬ。ならば、この先に起きることを考えて幾つかのアドバイスをすると決めた。相手にとっては突飛なことで実践するかどうかは分からないとしても、一応は最適と思えることを助言しておこう。




 再度話し合いの場が持たれた多聞城の奥座敷に来られた松永様の顔色は昨日より多少良かった。俺たちに話すことで少し楽になったのだろうか。


「さて、それがしが考えた結論を申し上げると、この一連の出来事は事態が進みすぎて既に手遅れです。我らはこの事態が収束するのを静観するしか無いと言う事で御座る」


「うむ、やはり・・・」


「松永様は隠居を理由に両家から距離を取るのが良いと愚考しました」


「それは儂も考えていた事だ。だが久通はどうするな?」


「某も若輩を理由に出来るだけ出仕を控えたく思いまする」

「うむ、それで良かろう。だが山中どの、事態はどのように収束すると思うか?」


「はい。長慶様は亡くなられ、この事実を知った三好家が上様と争いになるでしょう」


「う・上様と三好家が争い・・・戦か、さもあらんな」


「左様です。それもおよそ一年の間の事でしょう」



「一年か・・・・・・その後はどうなる・・・」


「はっきり言って長慶殿亡き後の三好家は行けませぬ。徐々に衰退して阿波と讃岐を維持するのも難しくなりましょう。土佐の長宗我部が力を伸ばしています」


「ふむぅ・・・そう断言できるのが山中どのの怖さよのう。ならば松永はどうすれば良かろうか・・・」


「まず長慶様亡き後は三好家と将軍家から離れること。領地の摂津と丹波を固めることの二点です。いずれは三好家と戦になりましょう」


「うむ・・・・・・」


「丹波も北の国人衆は手強く、現状維持をお勧めします。出来るならば長頼様を滝山城に入れて対三好戦に備えて守りを固め、松永様は機を見て河内を取るべきだと思いまする。南河内と和泉は楠木殿に」


「うむ、山中と楠木との友好を保てば東と南は安泰だ、松永は西の三好にだけ向き合えば良いと言う訳か・・・」


「本願寺もお忘れなく、これと戦うとなれば三好以上に厄介ですぞ。ですが四国からの三好勢は山中水軍に阻まれましょう」


「そうだな。海は山中どのの天下じゃ。儂は三好を河内から追い払うだけで良い。本願寺とは出来るだけ友好的に行きたいの・・・」


 すでに松永様の目は、その時の摂津と河内に向いている・・・と思いたい。


 もしこの時代に松永家が残るのであれば、戦の天才と言われる内藤(松永)長頼殿が赤井勢の奇襲に討たれるのは痛い、極端な事を言えば丹波は亀岡だけ有れば良いと俺は思っている。丹波の赤鬼と播磨の別所は手強過ぎるので放っておくのに限る。


そして魑魅魍魎の住む都と宗教の化け物の本願寺を懐柔するのは、博識を持ち辣腕・豪快でしかも狡猾である松永様がこの時代の者では一番の適任だろう。俺はそんな怪物どもの相手するのはご免だ。松永様が受け持って貰えると助かるのだ。


この先に起こる将軍家の死については敢えて言わなかった。それを知らせて松永様が事前に止めようとするのは拙いからな。それと三好冬康様の事と都の事もだ。都を我らでどうにかするという様な事は、色々と問題があるからな・・・・・・


 まあ、こんな助言だけではどうなるか分からない。結局は実際に起こった事に対処してゆくしかないのだ。



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