第158話・宇喜多の戦術。


備前石山城 宇喜多直家


 石山城の普請は始まったばかりじゃ。そこにあった古城を南北に大きく拡げて旭川の流れで三方を囲む。西の平野に城下町を作り、福岡市や西大寺から商人や職人らを居住させて発展させるのだ。


 これからの時代は、平山城だ。商いを伸ばし銭を稼ぐ城で無くてはならぬ。銭を設けることが叶わぬ浦上の天神山みたいな山城は、もはや時代遅れの遺物じゃ。城の立地だけでは無く、浦上やら赤松などという古くさい家そのものが消えて無くなるな。

この儂は滅ぶゆく者らから離れ、ここから備前・備後・美作を切り取って宇喜多の名前を轟かせてくれるわ。その為には手段を選ばぬ。



「殿、今日は福岡の者らが来ませぬな・・・」


「なに、それは不審だな。急ぎ誰か見に行かせよ! 」

「はっ」


 商人どもめ、まったく何を渋っているのだ。雨が降る度に水に浸かる低地では無くて、水の心配の無い所に移してやろうと言うのに。長年住み慣れた土地だとか、引っ越しの費用が無いとか、あれこれぬかしやがって・・・・・・


「殿、吉井川の渡しがおりませぬで福岡市に行けませなんだ!」

「何故か周辺に人がいませぬ!」

「兵を上流・下流に廻しました故に、しばしお待ち下され!」


「うぬ・・・」


 渡しがいないだと・・・どう言う事だ。何があった?



「乙子城に見なれぬ旗が揚がっております!!」

「長船城、服部丸山城が敵の手に落ちております!!」


「なんだと!! 反乱したのは誰だ!!」


「丸に三つ山の紋、見た事の無い紋様です!」


 丸に三つ山・・・知らぬな? それより大事なのは本城の沼城だ。殆どの兵が普請に来ており、今は城兵がいない、拙いぞ・・・


「花房、二百を率いて沼城に向かえ!」

「はっ!」


「申し上げます。西の笹ヶ瀬川河口に兵がいます!!」

「なに、どこの兵だ、数は?」


「丸に三つ山紋、どこの部隊かは不明です。およそ四百で陣を作っております!!」


 うむ、ここからでも見える。

三村の兵では無い、どこの兵だ?

四百か、これに三村が呼応するとすれば拙いな。


「普請は中止だ、戦の用意をせよ。花房隊を呼び戻せ!」

「はっ!」


「報告します! 物見が敵に接触し真意を問いました。敵は大和山中隊四百、敵将は山中の奥方のようです。」


「なに、大和山中が何故、備前に来たのだ?」

「敵曰く、商人の難儀に応えて、戦の女神が備前の鬼退治に参ったと」


「女神に、鬼退治だと・・・正気か、そやつらはどこから来たのだ?」

「児島湾に船がおります。恐らくは船で」


 船か、だろうな。大和山中は博多湊で襲って来た毛利周防水軍を壊滅させたという噂だ。かなりの水軍を持っておろう。そやつらが上陸したか、これは油断出来ぬ事となった。


「本陣には揃いの甲冑の女兵が多数いると言っております」


だが、山中はなぜ女部隊を寄越した。宇喜多を舐めておるのか、女神やら鬼退治やらと思い上がった女狐めが・・・


「三村の動向を知りたい。西へ斥候を出せ、東にもだ」

「はっ!」


「花房殿も戻られて、兵の準備が整いました」

「よし、そのまま待機だ」



「撫川城に二百の兵が入ったと、そこに三村元親もいる模様!」

「福岡市を守る様に、確認出来ただけでも、東に二百ほどの山中兵がおります!」


「むむむむむ・・・」


 商人の難儀とは福岡市の事か、彼奴らは儂との長い好誼を裏切り、よそ者に助けを求めよったのか・・・


 だが、これは拙い。三村勢も四百兵はおろう、東の二百以上と南の四百の山中兵が三方から攻め寄せてくれば、普請中のここでは大事になりかねぬ。

 ここは奴らが攻撃して来る前に、全力で各個撃破すべしだな。兵は拙速で無ければならぬ。


「皆、良く聞け。我らの思いやりを理解出来ぬ馬鹿者がよそ者を招き込んだようじゃ。天の利・地の利はこちらにある。敵将はおのれを女神だという愚か者だ。女兵も多く恐るるには足りぬ、まずは南の敵を全軍で叩く。出撃!!」


「おおおお!!!」




 山中隊 九鬼春宗


 某が陸戦隊に参加する事になった。かといって総指揮のお方様の力は皆が承知のことで、某などの及ぶものでは無い。某はお方様の話し相手なのだ。


 前衛右翼に玉置殿の百、中央に氏虎殿百、左翼に竜玄殿の百、そして本隊は護衛隊五十と短筒を持つ華隊五十だ。

華隊とは女性兵の事で大将が名付けられたのだ。うん、名の通り華やかな朱色の甲冑で固めた隊だ。戦場でありながら良い匂いに包まれた一隊である。


「春宗、皆嬉しそうですね」

「はい、そのようです。ですが兵らがしこたま飲んだ泡盛が抜けたかどうか、某、ちと心配で御座ります」


 特に昨日までは竜玄どのは呆れた大宴会をしていた、氏虎どのも無論そうだろう。ここにいる半分ほどの兵士が豪快に飲んだくれていたのだ。


 児島湾の対岸に停めた船にはまだ二百もの陸戦隊に、一千を越える水軍兵が残っているのだ。皆が皆、戦いに出たい中で選ばれて戦場に出られる嬉しさが滲み出ていると言う訳だ。

 大将が選んだ隊は、まさに最強の隊だ。狙いは圧倒的な力を見せつける事なのだ。某もその戦場に立ててワクワクするわ。


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