第143話・護衛艦・大和丸計画。



「このあたりに拠点が欲しいな」

「左様ですな。ですが九州は微妙な地域で御座る」


 九州や四国の大名らは、いずれも水軍を持っている。

この大隅海峡周辺だけでも、坊津(島津)、肝付、伊地知、伊東に土佐海賊衆がいて、坊津・肝付・伊東は激しく争っている。九州北部には、佐伯・大友・五島・松浦がいて瀬戸内の村上・河野・越智・小早川などが加わる。

 それに平戸には倭寇の頭目・李旦がいると言う。


「李旦の勢力は?」

「ジャンク船や大船、十数隻だと聞いております」


 大船とは大型のジャンク船で、船内で多くの者が居住している船だ。それでもしっかりと武装はしていて脅威となる。それに十数隻とは、勢力が思ったより大きい。


「李旦は倭寇の頭目・王直の勢力を引き継いだ者です。明の討伐を逃れて平戸などに拠点を置いた王直は三十数隻一万人の兵を動員出来たといいます」


「・・そんなにか」


 これではそう簡単に拠点は作れない。俺の考えが甘かったようだ。交易と水軍の構想を改めざるを得ないな。


倭寇とは海賊でもあるがその実は貿易商だ。つまり同業者だ、ライバルでもある。だが内実は弱い者は攻撃して潰すという戦国の大名家と何も変わらない。中小の海賊衆が自分たちのテリトリー内で活動するのはその為だ。うっかり他所のテリトリーを荒らせば攻撃されるのだ。


俺は取りあえず交易船を作って、南蛮交易と国内の交易網を構築してから、強力な水軍を作ろうと考えていた。

だが、それでは交易網を構築する前に、各地の海賊衆に潰される可能性が大なのだ。


当然と言えば当然だ。


海を航走する船は格好の獲物だ。陸のように知らない間に商いで国を乗っ取ると言う訳には行かない。

まず強力な水軍を作って制海権を確保しなければ、交易の安全は担保されない。


大和・熊野屋の舟に手出しすれば山中水軍に殲滅される、と思わせなければならない。

或いは、前もって海賊衆の大掃除してから交易網を作る。


 うん、これは氏虎の大喜びそうな案件だな。




永禄四年十二月


「ドゴーン、ドゴーン、ドゴーン」

と祝砲を鳴らして紀湊に帰港した。


 新しい町には、少しの間にかなりの建物が建っていた。町衆・職人に多数の兵がそこら中から大きく手を振って歓迎してくれている。まさに母港に戻った感じがいっぱいだ。後から出航した瀬戸内船団も既に戻って湊に並んでいる。


 琉球大使一行は、栗栖城統括の相楽に託す。

山中国としては、大使館の土地を紀湊に与えるだけだ。大使とは建物を自力で建てて、琉球国や琉球国民のために活動するという事は出発前に説明してある。

まあ、柳生家や北畠家と同じ扱いだ。

その内に明国や葡国(ポルトガル)、蘭国(オランダ)などの大使館が出来るだろう。

 鋳職の林さんは火砲工房の芝辻清右衞門に預ける。



「出航!」


 翌々日、俺は新弁才船に乗って紀湊を出た。

乗員は瀬戸内交易のままで、堀内船団長に佐々木船長、新弁才船一隻に雑賀船二隻の構成だ。大隊長の新介と津田照算、周参見氏長・雑賀衆の後藤・狐島らの水軍幹部も乗せている。


目的地は新宮、熊野城の視察とこれからの造船と水軍編成の打ち合わせだ。


途中で田辺・日置と立ち寄り、新宮に着いたのは二日後だ。


田辺では小笠原右近と玉置直和が良い働きをしていた。炭焼きも始まっていて、もうすぐ出来上がった炭が出回りそうだと聞いた。

扶養善五郎と玉置図書介が船に乗りたいという話を聞いていたので同行させた。小笠原右近と曽根弾正も乗せた。


日置湊で一泊した。なんと由紀姫が身ごもっていた。

氏虎め、手が早いわ・・こんにゃろぅ、

大野五兵衛も元気そうだった。大野も乗せた。

さらに熊野・新宮見物を希望する者を乗せた。並木・矢田など五人ほどが手を上げた。

熊野・新宮・造船所見学ツアーだ。運転手は氏虎な・・




「ポン、ポンポンポンポン」

火縄銃を空に向けて祝砲代りに撃ち放ち新宮湊に入ってゆく。


海から初めて入る新宮湊だ。広大な熊野川河口左岸に出来た熊野城。その中に新たに開削した新宮湊が深く入り込んでいる。


大洋の荒波を防ぐ為に熊野川から直角に入り、更にL字型に曲った運河が設けられて、その岸際には十津川・北上川から来た無数の木材が浮かび、両岸には積み重ねられた丸太の山がある。


波止場では大勢の人夫が丸太と格闘している。広い熊野城の敷地の半分がそんな一大・材木集積地と加工場だ。

曲がって広くなった先が湊だ。無数の熊野衆の舟が繫がれた中に、大きな造船所が並んでいる。


 六つの造船所では、熊野丸の二号船・三号船が完成間近で、さらに四ー六号船が形になりつつあった。

俺たちはその様子をじっくりと見て回った。雑賀衆の者や扶養・玉置など初めて来る者が多い。尾鷲から九鬼春宗も呼んでいる。

 ガイドは造船番長の九鬼嘉隆だ。旗は持って無い・・・



「では、これからの造船の話をする」


 その夕、熊野城の大広間に一同が会した。


「当初の予定を前倒しして、より大きな舟を作る。それがこれだ」


「「「おおおおお」」」


 張り出された絵図に皆の驚きの声が出る。


「船長百五十尺(45m)幅三十尺(9m)、三本帆に補助帆が二枚。これに新型大砲を片側十二門積む。積載量は二千石ほどか」


 本当は60mクラスの大型船を作りたかったが、帆船でそんなに大きいのはどうなのだと思った・・

 頻繁に交易するのだから、少し小さめで取り回しの良さ重視で。攻撃力は船の数で勝負だ。それと大砲作りの技術向上が必須だな。


 大きさは四千石船クラスだが、大砲を積んで二千石ほどになろう。ちなみに熊野丸は一千五百の一千、弁才船は五百石積だ。


この大きさならば熊野丸の幅を少し拡げて長くした感じだから、今の持つ技術で何とかなる。だろう・・?


「乗員百六十名、舵は操舵輪にする。聞きたい事はあるか?」


「・・・・」


うん、無いよね。ちなみに造船費用は莫大だぞ。湊があって軍資金豊富な織田君あたりでもこれを作るのは無理かも知れん。

これを同時に三隻、並行して熊野丸も三隻作れる体制がここにはある。資金も充分なのだ。


「大将、名前は?」


 ”俺は山中勇三郎だ”と言おうとして止めた。

皆の表情が真剣すぎる・・・滑ったら痛そうだ・・



「・・・大和丸だ」


「「「おおっ」」」


 本当は「戦艦やまと」にしたかったのだが、ちょっと小さい、帆船だからな、あまり大きくしてもな。


それに「やまと」では、海の藻屑となりそうな気もするし・・・


「護衛艦・大和丸」だな。


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