第24話 学ぶ
負けた。
ただの負けじゃない。コールド負けだ。
『8対1で、光彩大山形高校。礼!』
初めて進出した県大会は、いともあっけなく終わった。でも、短いようで長い7イニングだった。
収穫もあった。
それは、試合直後にも関わらず、皆で今日の試合のことを話し合っていることだ。
「やっぱり6回表に2点目を取っておけばなぁ……」
「いつまでそれ言ってんだ、そこじゃねえよ」
「その裏に4点も取られたことが敗因だろ」
「そうそう。7回表だってチャンスあったじゃん」
栄に負けた時は重苦しかった雰囲気が、今は少し明るい。
『000 001 0|1
011 114 ✕|8』
スコアブックを無言で見せてくる遊佐。その顔は見るからに悔しそうだ。
「あんたは何か言わないわけ?」
遊佐の質問に、俺は小さい声で返した。
「……反省の一言に尽きるな」
4回途中までで3失点。マウンドを降りた時、ホッとしてしまった。
7回表、二死一塁。打者は高瀬の場面。
ここで高瀬がアウトになれば、俺は最後の打者にならなくて済む。
打つイメージが出来なかったのはともかくとして、そんなことを思ってしまうのは、チームの一員として失格だろう。
「吹浦くん」
監督が呼んだ。
「別にそのことを責めはしないよ。自分が考えてることなんて、誰にも分からないんだから」
そういうものだろうか。
「そういうものだよ」
*****
「千歳先生、お電話です」
「はい」
何だろう、と思いながら千歳は受話器を取った。
秋季大会はもう終わり、12月からは練習試合ができなくなる。
雪国に配慮した規定らしく、室内練習場が増えてきた昨今は撤廃の意見も唱えられていると聞くが、舟高のような貧乏公立校からすれば妥当だ。
まさか実家か……? と思ったが、幸か不幸か、実家ではなかった。
『あ、舟形高校監督の千歳さんでいらっしゃいますか?』
「はい、そうです」
『
「はい」
福和学園といえば、秋季東北大会ベスト4に入った、福島県の私立高校だ。そんなチームが何の用だろう。
『単刀直入に言いますと。そちら、舟形高校のチームと練習試合を組ませていただきたいのですが』
「……野球部ですよね」
舟高では、サッカー部とバスケ部は少しばかり強いので、千歳は間違い電話かと思った。もっとも、強いといっても野球部と比べればで、ベスト16がせいぜいだが。
『ええ、そうです』
なんと。聞き間違いではない。
「分かりました。11月の最終週なら大丈夫ですが、どうでしょうか」
千歳は即答した。強豪と試合ができる機会など、弱小校にはほとんどない。
『受けて頂けるようで、ありがとうございます。当方も11月の最終週を想定しておりましたので、問題ありません。……あ、それと一つ、お願いしたいことがあるのですが』
その一呼吸あとに放たれた言葉に、千歳は僅かながら納得したのだった。
*****
「という訳で、福和学園と練習試合をするから。多分今年最後の練習試合だね」
監督の言葉に驚いたのは、俺だけではなかっただろう。
「え、福和学園とですか?」
高瀬が聞き返した。
「そう。といっても、二軍だからね」
一軍が来てくれるとは思っていないのでそれはいいが、二軍でも相当に強い。
「で、質問だけど。君たちはこの間の試合から何を学んだ?」
それは、この前の試合後、プリントを渡されて書いたものだ。
実力、地力の差は大前提として、相手を慌てさせることや嫌がらせること、心理戦はそれなりにできていた、と思う。
それ以外で出た差は、手を打つ早さだろう。
予め用意させておき、流れがまずいと見るやすぐ投手を代え、最少失点に留めた
「いやぁ正直、耳が痛かったね。私の采配の甘さを突かれたな」
まあ、それもあるからそう書いたのだが。交代のための心づもりが足りなかった部分もある。
何しろ、登録メンバーは9人しかいないのだ。野手としてプレーしていたと思ったら登板なんてこと、恐らくこれから何度もあるだろう。
「負けから学ばなければ成長はない、ってこと、理解できたと思うけど。それ以上に大切なのが、自分たちで考えることだ」
監督は、こめかみに人差し指を突いた。
「勿論、それに行き着くまでには、大人の助けが必要だけどね。私もまだまだ未熟だし、間違ってたら文句は言ってね」
まとまりのない言葉で話をしめた監督は、「じゃあ練習」とすぐ目を逸らした。
*****
「礼!」
「「お願いします!」」
練習試合の日がやって来た。
一年生大会が行われた直後なので、過密日程で大丈夫かとも思ったが、そんな心配はいらなかった。
ちなみに舟高は、一年生大会には不出場。理由は勿論、一年生の男子部員が9人どころか1人もいないからだ。
オーダーには、女子選手である遊佐と白河の名前があった。監督曰く「『女子選手が見たい』って言われてさ」ということらしい。
試合は滅多にないのに、二人とも動きが良い。遊佐が二塁手として、センター前に抜けそうな打球を飛びついて処理すれば、白河は右翼手として、強肩を活かしたバックホームを何度も見せた。何度も、ということは、その分外野に打球を飛ばされているということだが。
しかし、こちらも大差で負けるわけにはいかない。わざわざ福島から来てくれているのだから、勝つまでとはいかなくとも、あまり手応えの無い試合は相手に失礼だ。そんな意識がチーム内にあるからか、こちらのエラーは全く無く、高瀬から今泉の継投策もどうにか成功している。
福和学園は、四回から八回まで1点ずつ、計5点。対する
試合はあっという間に最終回になった。
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