第17話 新入部員

「おー。いいな」

「そうだなー」

 俺たちは白河の守備練習に見入っていた。

 上手い。難しい体勢での捕球からでも一塁へドンピシャ送球だ。それを難しく感じさせないくらいに無駄な動きがない。

 一通りプレーを終えると、見ている俺たちに向かってペコリと礼をした。

「正ポジションは?」

 見ていた監督が質問した。

「一応、三塁手サードでした。でも外野につくことも多かったです」

 道理で、正確なスローイングと矢のような球筋を持っているわけだ。

「でも一応言っとくけど、公式戦には出られないよ」

 ノックを担当していた米沢が声をかける。ちなみにノックは交代制だ。理由は簡単で、監督はノックができない。というかやったことがないらしい。

「構いません。野球ができれば」

「そうか。ならいいけど」

 一方の清川だが、こちらは正直微妙だ。

「清川さん、これ。ボールの補修、お願いできる?」

「はい」

「お裁縫とか大丈夫?」

「学校の勉強は一通りできますが」

「うん、まあ、うん……」

 溶け込み始めている白河に対して、清川はまだぎこちない。体験入部的な所もあるが、冷徹……というほどではないが対応が冷めている。こちらとしては肩透かしを食らうような感じだ。

 それはともかく、俺、高瀬、米沢の3人は、今日も相変わらずバッテリー練習に終始した。こればかりは、練習するほかない。バッテリーの呼吸は、一日二日でできるものではないのだ。


 *****


「……千歳先生」

「ん?」

「私は、入部しないほうがいいでしょうか」

「なんでそんなこと聞くのさ」

「皆、同じ方向を向いてます。野球をするという。私は、何もありません」

「あー、なるほどね。でも、あいつらが特殊なんだよ」

「……特殊、ですか?」

「うん。高校生にどこかを向けって言う方が酷だと思うからね」

「……」

「どこも向いてない人って、結構いるよ。あ、向いてないっていうのは下手ってことじゃなくて、えーと」

「その意図がないことは分かってますから大丈夫です」

「そう? それならまあ、そういうことだね。辞めるかは自由だけど」


「どう? どう?」

「いや、分かんねえ。微妙」

 二週間後。清川は「練習後空いてますか」と監督に声をかけていた。相談するところなどほとんど見なかったから、これは重大な話だろうと思って後をつけてみたがこれは正解だった。


 ――どこを向いていなくても、やっていけるんですか?

 ――少なくとも今の私がそんなものかな。

 ――部員たちはどう思ってるんでしょうか? 私のこと。

 ――さあ。でも、私は助かってると思ってるよ。

 ――そうですかね。

 ――聞いてみれば? すぐそこに皆いるわけだし。


 その声が聞こえた直後、進路指導室のドアが勢いよく開いた。

「ねぇ? 立ち聞きだけして立ち去るはずないよね?」

 監督の目は据わっていた。


「好きにすりゃあいいじゃねえか」

 真っ先に声を上げたのは今泉だった。

「別に、他の奴に言われたからとか、そういうの関係ねえだろ。自分で決めればいいことだ」

「俺は正直、残ってほしいかな」

 米沢が、今泉に次いで口を開いた。

「清川さんが来て、とっても助かってる。清川さん自身はお手伝いって感覚かもしれないけど、たとえボールの補修一つでも大助かりなんだ。都合が良いとかそういうことじゃなくて、俺は単純に残ってほしいと思ってる」

「私も米沢に賛成……と言いたいところだけど、今泉の言うことも一理あるな。自分のことだから、自分で決めていいよ。『いいよ』って、そんな上から言える立場でもないけど」

 遊佐はあくまで中立のようだ。俺も、別にどっちでもいいと思っている。続けるなら続ける、抜けるなら抜ける、はっきりしてもらえれば後は何でも構わない。

 さて、清川はどうするのか。


「じゃあ、続けます。入ります、野球部に」

「ホント!?」

 白河が歓喜(かどうかは分からないが)の声を上げた。

「ありがとう、清川さん。じゃあ、正式なマネージャーとしてよろしくね」

「はい」

 この時俺たちは、知る由もなかった。

 清川と白河が入って、停滞していた歯車が大きく回りだすことに。




◆◇◆追記

 こんにちは。今回は少し短めになりましたね。すみません。

 この後は秋季大会になると思うんですが、はっきりしたことが言えません。というのは、試合をどうするかとか、細かいところまで詰め切れていないからです。

 週1ペースで上げていく予定ですが、内容が拙くて申し訳ないです(拙いのは最初からでしょうが)。

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