第4話 ありまくり
「なあ、今日の『練習』、結構ためになったと思わないか?」
「うん、なったと思う」
「俺も」
解散後、俺たちは駅前で話し合っていた。十人のうち、自転車通学なのは隣町から通っている今泉だけで、遊佐と米沢と俺は電車、それ以外の六人は全て徒歩通学。そして田舎の宿命とでも言うべきか、列車は大体一時間に一本。だからこうやって、待ち時間に喋ることができるのだ。
監督による試合中の心理の話が終わった後は、徹底的に話し合った。千歳は「
その結果、より距離が縮まったとこっちも思うし、何より言わなければ分からないことを口に出して言ったことで、多少なりとも理解できた気がするのだ。たった一回で不思議なようだが、今泉を除く九人の間にはそんな雰囲気が漂っていた。
「おっ、もう上りが来るな」
俺を含めた三人は、この上り列車で帰路に就く。
「じゃあ、お疲れ!」
部活でこんなに充実感を得たのはいつぶりだろう――。体を動かしたわけでもないのに、帰りはそう思った。
**********
新年度に入り、四月初め。俺たち十人は、一人も欠けることなく二年生に進級することができた。
しかし、一つ問題があった。明日の全校集会で行われる、部活紹介の内容を考えていない。野球部はそれなりに人が集まるのでは、とも言われるが、そこは少子化にあえぐ田舎町の例に漏れず、年度による。一つの学年に十人も入ったのは数年ぶりだと、入部した当時は関根に言われた。
まあ、そうは言っても必死に勧誘すれば来ることは来るし、リトルシニアから来る人はさすがにいないが、中学野球の経験者ならまあまあ来る。だから大丈夫だろう、と高を括っていたのがいけなかった。
「えっ!? 部活紹介は出来ない? どーしてですか!」
「ゴメン! なんか職員会議で言われちゃった」
監督の報告に、俺たちは愕然とした。
「陰謀だな」と米沢が言った。
「これ以上、学校のイメージを落としたくないんだろうよ」
「米沢、なんで分かってたことのように話せるんだ? まさか何か細工を……」
「な、なんだ? 職員室に盗聴器なんて、し、仕掛けてないぞ」
「じゃあその小っちゃいイヤホンは何だよ。今必要ないだろ」
「こここれは、ワイヤレスで音楽聞いてんだよ!」
平然を装っているが、その声は明らかに上ずっている。ってことは、仕掛けてるのかよ、盗聴器。
「盗聴器の話はともかくとして。今、米沢くんが言ったような経緯で部活紹介は出来なくなった。だから、自力で集めるしかないね」
すると、部室の前に人影が現れ、間もなく扉が開いた。
「勧誘の必要はないぞ……あ、千歳先生」
「え? なんだ、
やって来たのは、数学教師の幕ノ
「まったく、いつまでも……。まあなんだ、学生の本分は勉強なんだ。しっかりやってくれよ」
しかし今日は、それだけ言って去って行った。いつもより怒り方が甘い。「球遊びなんかに時間を割いて」が幕ノ内の
「ほうほう、なるほどなぁ……」
米沢が手帳に何やら書き込んでいる。中身は覗かないほうが良さそうだ。
「それにしても、『勧誘する必要はない』って、どういうことだろう?」
「私のほうからご説明しましょう、千歳先生」
そう言ってズカズカと部室に入ってきたのは、教頭だ。名前は……えーと、何だったか。
「
コホン、と一つ咳ばらいをし、その大滝とかいう教頭は話し始めた。
「まずは、廃部が決定している部活にわざわざ紹介をさせる必要はないという結論に至りましてね。なら勧誘活動も別にやらなくていいよ、ということを伝えに来たのですよ。どうせ廃部ですしね」
いちいち「廃部」を強調してくるのがうざったいが、それはスルーする。
教頭は、俺たちが睨みつけているところへ、さらに言葉を投下した。
「何か文句でも?」
「ありまくりです! 入りたい子だって居るはずでしょう!? その機会を奪うことになりませんか?」
真っ先に反論したのは監督の千歳だった。練習中でも見ないほどの篤さだった。
「さて、本当に居ますかねえ? 野球部はもう学校中の信用を失ってますし、評判は既に地に落ちてますし、そうでなくても結果を出してないですし……」
「お寿司」
おどけて教頭の話を遮ったのは、おやじギャグが大好きな高擶だった。
「ぷっ」「ククク……」「ウヒヒヒ」
「話を聴きなさい! と、とにかく、結果を出してください。それからなら話を聴かないこともないですよ」
「Yo! Yo!」
「あはははは!! 高擶、やめろって」
俺たちが笑ってばかりいると、教頭は呆れ顔で「頼みましたよ」と言い、部室を出ていった。
「笑ってる場合じゃないでしょ。春季大会もあるんだし」
監督が
◆◇◆おまけ
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