第23話 冒険へ
フォルクス達は奴隷商を密かに抜け出し、念のため遠回りをしてから一般道に出た。そして何食わぬ顔をして奴隷商の前の道を通って行く。そうすると意気揚々と入り口付近で、シーラ達の姿を探す宮廷魔術師の息子とその親と思われる者がいるのがなんとなく分かった。勿論シーラ達はフード付きのマントを着ており、遠目では誰か分からないようにはしている。そしてフォルクスは思わず小さく呟いた。
「ご愁傷様」
そして奴隷商の中では、職員が奴隷契約をやり直しており、元に戻しながら主に聞いていた。
「本当に宜しかったのですか?彼に奴隷契約を見せてしまって」
「既に匙は投げられておりますし、予言の通りなのですから。願わくば欲望に負け悪意を持って力を使わぬ事です。それに彼が力を必要とするのはまだ先の事です。これをせねば我らが滅ぶと有るのですから今は祈りましょう」
何かの力が働いていた。フォルクスは奴隷契約をしている所を不自然な形で目撃したのだが、おかしいな?と思わなかったのは幸いだったのかも分からない。なるべく力を隠さないと、奴隷商に知られてはならないと感じ、自重する事を考えたからであった。
奴隷商を後にし、フォルクス達は一旦宿に向かっていた。馬車を取りに行く為だ。
お金が勿体無いなとは思いつつ、部屋をキープしたままにしている。最近どの宿の部屋もほぼ満室だというのだ。魔法学校の試験の為に各地から来ている者達の関係者によって部屋が埋まっているらしい。
その為一旦部屋を手放してしまうと、戻ってきた時に空き部屋がなく、かなりの安宿か野営という事になる。それを避ける為に不在時の分もお金を払い、部屋をキープする事にした。ただ、食事は必要ないので、部屋のキープ代だけで安くして貰った。
それと追加で頼んだ弁当を受け取る。受け取りはリズにお願いし、フォルクス達は馬小屋で馬を受け取り、馬車を収納から出して馬車に馬を繋げていた。兵士をしていた時に何度ともなくやらされており、フォルクスとべソンは慣れたものだった。
御者や見張り当番をどうするかになった。
6人なので、基本的に2人一組で当番を決める。べソンとリズがペアになるのは決まっているが、問題はフォルクスの方であった。皆何も言わないが、フォルクスと組みたがっていた。結局これからも冒険に行く事になるだろうからと、見張りも含めてローテーションを組み、順番を決める事にした。初日はフォルクスの判断でラティスがフォルクスと組む事になった。
そうフォルクスは3人から好かれていたのだ。カーラからははっきりと言われているが、シーラとラティスからは言われてはいないが、彼女達の心は既にフォルクスを好いているのだ。
ただ旅に慣れていないラティスをフォローする必要があり、初日はフォルクスがラティスの相棒として馬車を進める事にした。
フォルクスは3人が自分を慕っている事は薄々感じている。特にシーラがそうだ。ただ、フォルクスはある意味大人だった。まだ15歳だが兵士として多数の戦場に駆り出されていった。その為に歳不相応な精神構造になっていたのだ。
自分を押し殺し心を閉ざす。精神的にタフにならないとやっていけなかったのだ。きのう飯を隣で食べた奴が今日は躯になっていると言うのが日常茶飯事になっていた。フォルクスは見知った者の死は辛く、その為だろうか、いつの間にか同じ班の4人以外とは距離を置き、段々と心を閉ざしていった。
しかし、そんなフォルクスの兵士時代に病んだ心に、シーラは遠慮なくずげずげと入ってきた。お陰で忘れていた笑いを取り戻し、本来の自分に戻りつつある。ただ、今はチームのリーダーとして5人の生き死にに責任を負わねばならず、重圧に押し潰されそうだった。
そんな変化に誰も気が付いていなかった。フォルクス自身もだった。皆フォルクスの判断に依存していたのだ。まだ出会って僅かな期間だが、3人は自らの貞操を必死で守ってくれ、実行するフォルクスが神掛かって見えているに過ぎない。そうフォルクスは考えていてなるべく距離を置こうとしたが、失敗どころかムキにさせるだけだった。
但しカーラだけは違う。自らに付き従う精霊にフォルクスを導くように言われたからだ。シーラはフォルクスにとっての魔法の導き手であり、戦闘時の司令塔になる存在なのだと伝えられているが、それをカーラは語らなかった。
現状フォルクスの魔法が一番強いというような認識が皆に有った。
また、フォルクスが一番最初の見張りをする事になった。つまり女子2人の班とベソンの班が真ん中を1日毎で変わる事で決着した。
因みに当番の編成の話にはフォルクスは加えて貰えなかった。フォルクスが意見を出そうとしたら、シーラにピシャリと言われたのだ
「誰もあんたの意見なんて聞いてないわよ」
こればかりはシーラはフォルクスに意見を言わせたくなかった。言えばその通りになってしまい、どういう振り分けになるのか分からず、必死に考え、3人でフォルクスとの番をローテーションで分け合う折衝案が頓挫してしまう為、冷たくあしらってしまったのだ。
フォルクスはしゅんとなっていた。また何か地雷を踏んだか?シーラに嫌われたか?あっ!さっき奴隷商で胸の話でいじったから怒っているのかな?シーラには嫌われたくない!と本当にいじけていた。フォルクスはツンデレなシーラを本気で好きになっていた。もし3人の中から一人だけを選んで彼女にするとしたのなら、今はシーラを選ぶ感じなのだ。
また、カーラからそっと慰められていた。
「いじけないでね。あの子はあのように言っていますが、フォルクスさんの事を私達同様に慕ってますから」
それとラティスは不安がっていた。今までこのような冒険等をした事がなく、旅もまともにした事がないというのだ。
バリバリの箱入り娘だった。
ただ、村長の娘として元騎士の村長から剣技だけは教えられていた。魔力はあるのだが魔法の方は攻撃魔法を教えられておらず、結界魔法のみを教えられていた。そう結界魔法の一族が村長をしていたからだ。
その為だろうか、魔力量と魔法の力が合わないが、結界魔法に関して言うと上級魔法が使える。その為単独ではあまり役には立たないのだが、チームや部隊として行動する場合等、強敵と出くわした場合に敵の攻撃を耐えるだけの力を得ているのだ。
ラティスが今までに経験した旅は、隣の村や街に農作物や生産品を運び、帰りに取引した農作物や生産品を積み帰るような護衛付きの隊に同行しての日帰りしかなかった。首都に来たのも大きな商隊にお金を払い乗客として乗せられていた事のみの為、実質初めての事で不安で一杯だったのだ。
御者は幸い全員出来るし、馬にも乗れる。首都の付近は比較的安全なので、初っ端は旅に慣れていないとはいえ、ラティスとフォルクスになっていた。ただ、街を出た途端に不安からひたすらフォルクスの腕に抱き着いていて、フォルクスはラティスの胸の感触にムラムラしていたのだが、会話は弾んでいた。
やはり初夜権の買い戻しについて聞かれた。不安を払拭するのが先だと判断し、ラティスに伝える事にした。その時につい可愛くて手を握ってしまった為に、ラティスが真っ赤になっていた。
「本当に買い戻しができるのでしょうか?私、今はホッとしているのです。キスもまだだし、胸も触られた事が無かったのに、今頃囚人監修の元で見も知らぬ変態に侵され、純潔を散らされていたかと思うとまだ震えが止まらないのです。まだ心臓がバクバクしてるのです。こんなふうに」
ラティスは握られた手を左胸に持って行ったのであった。
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