第22話  契約変更

「畏まりました。それではそうさせて頂きます」 


 奴隷商に大金貨40枚を徐に見せ、テーブルの上に置いた。だが、ほほう!と関心をしているようではあったが、驚いている感じではなかった。


また、意外と応接室はシンプルで質実剛健と言った感じで、応接セットも安物ではないが、良い意味で上品だった。


「お若いのに大したものでございますね」


 そうは言うが、普通フォルクスの年でそれも貴族でもない者が大金貨40枚、そう大金貨なので金貨だと4000枚相当、一般人の年収のざっと40倍近くのお金をポンと払うのだから本来驚くべき内容なのだ。しかし、別段驚く様子がなかった事にフォルクスは少し違和感を覚えた。そして何故かこの奴隷商を懲らしめてやらねばというような悪意が沸かないのが不思議であった。初めから丁寧に接客されているからかなと思うようにしていた


 所有権の変更は難しい事ではなかった。初夜権を設定された、変更対象の女性の首輪に奴隷商が触れている時に、権利を譲渡される者も首輪に触れる。そして奴隷商がもう片方の手を対象の男の頭に添えて、「権利譲渡」と言い、隷属魔法の中の一種を唱えた。ただそれだけだったのだ。それはそういう魔法なのだが、フォルクスは契約変更をした時に初夜権の魔法が身に付いた事が分かった。正確には奴隷契約魔法であり、初夜権はその魔法の一部の仕組みにしか過ぎない。


 フォルクスはこれでその気になれば奴隷商に行かなくても、彼女達の所有権の変更ができる事がはっきりと頭の中で理解できた。フォルクスがコピーして覚えたからである。魔法学校で皆が使った魔法が身に着いた為、自分の能力の一つが見た魔法を覚えるコピー能力だと気が付いていた。ただ、スキルはコピー出来ないと分かっていたので、奴隷商が使うのが魔法であればひょっとして!とは思っていたのだ。


 4人の所有権の変更を行い、無事に譲渡が終わった。奴隷商と話をしているとお金の事を教えてくれた。金貨1000枚で売られるのは最高額だという。これ以上の金額設定はないのだと。また、奴隷商の手数料が5%だそうだ。つまり彼女達の場合は金貨50枚が奴隷商の手数料となり、初夜権を売りつけた村の方には金貨950枚が入っている。彼女達が学園に入る為のお金として金貨600枚が当人達の元というか、既に学校に入っている為、村に入るのは一人につき金貨350枚のみになった筈である。不合格の場合は村に送られる。


 村に入るお金は成人男性約3人分の年収に相当する。その為、そのお金が有ればなんとか村が今回危機を乗り切ると言う事だ。つまり、その金額が必要なお金だったのだと言う話になる。


 ラティスがいた村に限って言えばそうなのだ。ただシーラ達の村は3人なので、金貨1000枚程が村に入った事になる。成人男性約9人分位の年間の稼ぎ位になる。但しフォルクスの認識していた金額は小さな村での話ではなく、首都での話だ。確認すると2つの村はほぼ似た規模だ。なので、シーラ達は3人共売られる必要がなかった筈だとフォルクスは認識していた。


 また、条件の変更もするように伝えた。彼女達が18歳になるまで権利の執行を保留し、買い戻しの金額も金貨1000枚のままという事にしたので確認が入った。


「権利行使の保留ですが、これが最長でございますが宜しいのですね?一度設定しますと奴隷商でないと短くはできない上に、禁止されていますぞ」


 念を押されたが


「構わない」


毅然と返事をした。


 双方に条件の変更の同意を求められ、所有権を持った者が首輪に触りながら、「所有権譲渡」と言ってから、所有者を譲渡される者が首輪に触る。次に主が今度は女性の頭を触る。女性が条件を飲むかと言われ条件を飲むと言うと、主が女性の頭に置いていた手を所有権を持った男の頭に置く。するとその手がほんのりと光っていたのが消えていた。


 そして契約変更はなされましたと言われて終わった。やはりやり方が頭に流れてくる。これで一通り初夜権に関し、奴隷商が行える魔法について理解できた。


 奴隷商自体は国から制約を設けられ、何かしらの楔的なものを体に埋め込まれているのか、魔法としてやられているのか分からないが、今のフォルクスには悪意を持ってこの契約を一方的に結べるようになっている。極端な話、見知らぬ女性に触りながら初夜権設定と念じるか言ってしまえば、自分が所有者として初夜権を発動する事ができるようになったのだ。


 勿論そんな事はしないが、奴隷商には制約がないのかフォルクスは疑問を感じるのであった。


 そうして手続きが全て終わり応接を出ようとした時に、最後に出ようとしたフォルクスは奴隷商の主人に肩を軽く掴まれ


「おっと、そうでした。少しだけ奴隷を見ていかれてはどうですか?案内がてら一言アドバイスがございましたのでそれをお伝えいたします」


「分かりました少しだけなら」


 半ば強引に戦闘奴隷や家事用の奴隷など、まともな部類を見せられた。また、何やら契約をしている姿もみられ、奴隷契約魔法も手に入ってしまった。奴隷を眺めながら説明をしていた


「裏技的な使い方があります。時折こういう使い方をされる方がいらっしゃいますのでお教えします。権利を買い戻した場合で、手続きの最後の段階の事です。女性が首輪に別れを伝える最後の言葉を発するか念じるのをストップするのです。その状態であれば、誰も権利を使えず、貞操を守る為の道具として活用ができます。制約上十八歳までしか無理ですが、それを使う為に、予め女性側が持っている金額にて初夜権の権利を父親に設定致します。そしてその場で買い戻すというようなやり方で十八歳まで貞操を守らせる親もおります。」


 フォルクスは目を輝かせながら真剣に聞いていた。


「見たところ貴方様達は彼女達を大事にされる方だと思います。ですのでこういう使い方もあるという事を覚えておけば宜しいかと思います。

 初夜権の販売は副次的な商売にしか過ぎません。本業の方でございますが、我々はこのように各種奴隷を扱っておりますので、ご要望の際には是非一言私をお呼びくださいませ。ご贔屓させて頂きます。時間がないようですので、宜しければ後日説明をさせて頂きます。それと最後に言わせて頂きますが、初夜権とは、元々貴族の子女が婚前前に不貞を働かない為に編み出された仕組みでございます。今説明した裏技が本来の仕組みでしたが、いつの間にやら悪用され、今の仕組として使われるようになっております。話が逸れましたな。ではまたのお越しをお待ちしております」


 そうして主と別れた。フォルクスもそのやり方はなんとなく気付いてはいたのだが、確証がなかったのだ。しかし、これをする事により不意に誰かに犯され、悲観して自殺するなどという不幸な事がなくなるのだ。フォルクスはありがとうと言い、奴隷商を後にした。


 シーラがフォルクスが遅いと心配をしていた


「ねえ、遅かったけど、どうかしたの?」


「うん、シーラの胸がどれ位の大きさになると思うのかを話してたんだ」


「えっ?フォルクスのばか。エッチ!一度死んじゃぇば良いのよ」


「冗談だよ冗談。君達の胸じゃなくて、権利を買い戻した後での事さ。貞操を守るやり方を教えて貰ったのさ。それと所有権の売買以外に奴隷の販売も行っているので贔屓にってさ。まあ宣伝されただけだよ」


「ふうん、そうなんだ。奴隷ねえ?」


「まああまり興味はないけどさ」


 シーラがジト目で見るのが少し痛かったが、その時は奴隷というのはどういうものかというのをフォルクスは知らなかった。

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