第21話  奴隷商

 奴隷商といっても貴族の屋敷としか見えないような立派な屋敷が商会だった。一見すると奴隷商とは分からず、普通の屋敷にしか見えなかった。ハイランド商会(奴隷取り扱い許可店)という表札と言うか、門の所にある看板からしか判断できなかった。

 建物の正面入り口を見ると既に何人かが並んでいるのが分かった。それが有るからだろう、初夜権を売られた者で、買い取って貰う者を連れて来た場合、彼女達は予め裏口に行くように言われていた。その為、迂回して単なる通行人の振りをして建物の裏口の方に回った。


 裏口には誰もいなかったが、裏口の扉付近にある呼鈴を鳴らし職員を呼んだ。


 そう、彼女達は初夜権が店頭で売られる当日、自らが希望する者に初夜権を買って貰う権利が有る。その者を店が開く前に連れて来なければならない。そういう者が見付からない者は、奴隷商の店頭に並んだ権利書を見も知らぬ誰かが買っていくようになるのだという。店がオープンした時点で並んでいる者で抽選らしい。そうしないと、数日前から並ばれて迷惑になるからと、いつの頃からか分からないが抽選にしているのだそうだ。


 奴隷商の主らしき者は、彼女達が連れて来た者があまりにも若いので多少は驚いてはいるようだったが、それでも礼節を持って対応し、直ぐに応接室に通された。

 商会主はいかにもといった感じのけばけばしい燕尾服を着た中年のでっぷりとした奴であった。


「ようこそハイランド商会へ。当商会の商会主のハイランド二世でございます。今このようにして彼女達と一緒に来られたのだという事は御ニ方が彼女達の権利を、それも彼女達の求めに応じて購入されるという事で宜しかったでしょうか?」


 フォルクスは毅然とした態度で挑む事にしていて、話す内容は事前に皆に説明している。虚勢を張るから少し演技が入ると言ってある。そう、舐められまいと虚勢を張るに過ぎない。今からの事は演技なのだ。勿論奴隷商には看破されるとフォルクスは思っているが、それでもそれは必要だと皆と話し合ったのだ。


「俺がフォルクスで、こっちがべソンだ。べソンが一番背の高い子、リズの所有権を買い、あとの3人は俺が買う。金はちゃんと持って来ているから確認してくれ。3人同時に買うが問題無いよな?」


「はい、お金さえきちんと頂き、彼女達の方からの同意を私自らが聴き取れれば問題ございませぬ。問題があるとすれば外にいる連中が嘆く事位でしょうか」


 そして4人が各々べソン、フォルクスに権利の買い取りをして貰いたい旨を奴隷商に申告した。


「分かりました。初夜権の行使はどうされますか?3人はまだ13歳ですので権利の行使が出来るまでまだ先になりますが、このラティス嬢は本日15歳になっておりますので、今からでも権利の行使ができますが如何されますか?」


「いや、この4人には十八歳まで権利の行使を猶予するものとし、買戻しは購入価格での買い戻しを許可するんだ。出来るよな?」


「正気でございますか?」


「正気じゃないように見えるのか?俺は嫌がる女を抱く程落ちぶれてはいないぞ。彼女達は物じゃないんだ、心のあるか弱き女性だ。そんな彼女達に救いの手を差し伸べるのは異常か?」


「これは失礼致しました。私の知る限りというよりも、私が奴隷商になって以来、家族が権利を買われるのを除き、フォルクス様のように女性に有利な条件で権利を設定される方を初めて見ました」


「うん、俺達は彼女達が好きだから買い戻しが出来るチャンスを与えたい。彼女達も俺達を好きだと言ってくれている。俺達も男だからね、女性の体には興味もあり、性的にも触りたいし、何よりエッチな事をしたいさ。けれどもな、彼女達とはできれば初夜権を使わずに肌を重ねる間柄になりたいと思う。奴隷商の前で言うのもなんだが、俺はこんな権利など使わなくても女性と恋仲に落ち、その女性と愛し合える、そういう自信があるんだ。だからこんな権利を使うなんて情けない真似はできない。あんな自力で女性を口説けないクズ共と一緒にしないでくれ」


「なる程。確かにハンサムボーイでございますな。分かりましたが一応確認しておきますが、万が一ですが、彼女達が買い戻しが出来なかった場合、貴方はここで私を始め、何人かの者が見ておる前で彼女達と性行為をしなければなりません。それはお分かりでしょうか?それを拒否される場合二人共に死に至りますぞ」


「ああ、分かっている。分かった上で権利を買い取るんだ。その場合、俺も死にたくないから覚悟を決めて皆の前でまぐわって見せるさ。だがな、俺達は独占欲が強いから彼女達の肌は自分以外に見せる気はない。ちゃんと稼がせ、買い戻しをさせてからふたりきりで愛し合うと宣言してやる。残念だが、主よ、彼女達と俺が性行為をしている所は拝めないぞ」


「分かりましてございます。一応奴隷商と致しましては、告知義務がございますので説明をさせて頂いた次第です。また私は他人の性行為を見て喜ぶ事は御座いません。義務として法に縛られ、仕方なく立会をしております。私は家業を強引に引き継がされ、っとこれはフォルクス様には関係がありませんでしたな。」


「そうだろうな。ところで彼女達がお金を自力で用意できたとして、その場合の買い戻しはどうすればいいんだ?」


「はい。それはわざわざこちらにお越しい頂く必要は御座いません。ただ単に宣言をすれば良いのでございます。勿論お越し頂いても構いません。まず権利を持ちの方が、確かに買い戻しのお金を受け取った旨を言うか念じます。すると一度首輪が光ります。次に女性側が所有権の買い戻しが完了した旨を言葉に出すか念じると2度首輪が光り、所有権は消えます。女性の方が最後に首輪よさらば!か、その類の言葉を発するか念じますと首輪が割れて外れます。そういう作りになっております。但し、心の中で自力で揃えたお金でないというような思いが少しでも、男女どちらかに有れば首輪は外れません。ですので己の心が嘘だと認識していては無理ですので、くれぐれもご注意願います」


「分かった。ところで外に並んでいる者達はどういう人達なんだい?」


「はい。今日は今月の初夜権の売り出し日でございまして、何故か今月売りに出される者が皆かなり見目麗しい者達だと噂が出ております。彼女達の権利を買う為にああして並んでおる次第であります。殆どは貴族や貴族の子息で御座います。尤も貴方様方が今日売り出しのうち特に前評価の高い4人の権利を買われますし、この4人を目当てに来ている者が大半だと思います。あの者達は無駄足を踏み、事実を知ると血眼になり買い主は誰だ!誰か教えろと騒ぎ立てるでしょうな」


「で、あんたはどうするんだ?」


「ほほほ。このようなアコギな商売でも信用第一ですからな。誰がお買い上げになられたのかを伝える事は有りませんよ。但し、煽りはしますが。フォフォフォ」


「どんなふうに?」


「早く探しませんと初夜権を使われますよ。と」


「因みに権利を持っていると分かった場合、ここに来なくても権利の移譲はできるのか?」


「はい。首輪に二人が触れながら宣言を口にするか念じれば可能でございます。無理矢理ではなく、それに見合った対価を双方が納得されていればですがな。脅しや人質と引き換えでは心が否定しますから不可でございます。穏便にならば可能でございます。勿論仲介料を頂ければ当方にて間に入らせて貰います」


「分かった。知りたい事はまぁまぁ聞けたかな。あまり時間がないから、とっとと手続きをして欲しい」


 そうして4人の初夜権の購入手続きに入るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る